大企業が続々と値上げを続けているいま。それでも、価格を据え置く中小企業はどうなってしまうのか…値上げに対する抵抗感を下げるためにも、会社が値上げをするメリットについて考えます。
Wパンチをくらう中小企業
円安、人件費やエネルギー価格の高騰などを受けて、「値上げ」を発表する企業が増えています。いわゆる「価格転嫁」です。ところが、中小企業の値上げは、大企業ほどには進んでいないという統計があります。
誤解を恐れずにいえば、中小企業の社長は値上げが得意ではないからです。値上げをすれば、お客さまに迷惑をかけてしまう、結果、客離れがあるのならそれも困る…という考えがあります。
また、大企業と価格競争をしてしまう…という行為もあるでしょう。そもそも大企業には、スケールメリット(≒ 資本力)があるため、価格を抑えられるという「しくみ」があります。
ところが、中小企業にはそれがありません。にもかかわらず、価格を抑えようとしたらどうなるか。当然、どこかで破たんをきたします。なにより、いまは大企業でさえ値上げをしている状況です。
それでも、中小企業が価格を据え置けばどうなるかは、火を見るよりもあきらかだといえます。もともとがムリをしている(大企業と価格競争)のに、値上げをしないのではWパンチです。
そのあたりの背景もふまえて、会社が値上げをするメリットを考えてみます。なにをいまさら、とおもわれるかもしれませんが、意外な視点はあるものです。それがわかれば、中小企業の社長も、値上げに対する抵抗感が下がるかもしれません。
それでも会社が値上げをするメリットとは?
売上が増える
値上げをする=客離れ、とのイメージを持つ社長が多いと聞きます。すると、売上高は減少してしまう…たしかに、多かれ少なかれ客離れはあるでしょう。
とはいえ、必ずしも売上高が減少するとは限りません。たとえば、1つ100円の商品が100個売れていたとします。ここで、その商品を100円から110円に値上げをしましたよ、と。
もともとは、100円×100個ですから、売上高は10,000円です。では、110円に値上げをしたことで客離れがあり、91個しか売れなかったとしたらどうでしょう。
110円×91個で10,010円です。というわけで、9%の客離れがあったとしても(100個から91個に減ったので)、売上高はむしろ増えています。客離れをさらに抑えられれば、売上高はもっと増えるのです。
これを聞いて、客離れをそこまで抑えられるものか?もっと客離れが大きくなるのではないか?と、おもわれるかもしれません。もちろん、その可能性はありえます。
ただし、ちょっと値上げをして2割も3割も客離れが起きるのだとすれば、そもそもの商品価値に問題があるといってよいでしょう。平たくいえば、代替可能な商品だと見られているわけです。
ところが、代替不可能な商品であれば、少々の値上げをお客さまは受け入れます。これまで、値上げもせずに価格を据え置いてきたのであれば、なおさらです。
つまり、商品価値を高めることに努め、真面目に経営をしてきた会社には「値上げの余地」が残っている、ということになります。なので、多くのケースで、そこまで大きな客離れは起きません。
費用が減る
値上げをすることで、売上が増えるばかりではなく、費用を減らすことも可能です。さきほどの例では、1つ100円の商品を110円に値上げした場合、91個売れれば、売上高はむしろ増やせることがわかりました。
これを、「91個売ればいい」と考えたらどうなるでしょう。たとえば、営業時間を少し短くする、というのもアリだと気づきます。いままでは100個売らなければいけなかったところ、これからは91個でいいのですから、短い営業時間でもなんとかなるだろう、という考え方です。
実際に営業時間を短くすれば、その分の人件費や光熱費など、費用を減らすことが可能になります。値上げをすることが、費用を減らすことにもつながるわけです。
また、一般的には、販売個数が減れば、在庫を減らすこともできます。在庫が減れば、在庫管理コストが下がるために、ここでもまた費用を減らすことが可能です。
また、値上げをするのにともない、メニュー数の絞り込みができれば(売れ筋の商品を残して、売れない商品の販売をやめる)、やはり費用の削減につなげることができます。
飲食店をイメージしてみましょう。メニュー数が多いほど、たくさんの食材をそろえる必要があります。すると、廃棄ロスは多くなるものです。ところが、メニュー数を絞り込めば、食材の種類を減らせるために、廃棄ロスを抑えられるようになります。
利益が増える
ここまで、値上げをすれば「売上が増える」「費用が減る」という話をしました。であれば、結果として「利益も増える」ことがわかるでしょう。けれでも、そんなにうまくいくのか?
と、おもわれるかもしれません。たしかに、場合によっては、値上げの影響で売上高が減少するということはありえます。さきほどの例でいえば…
1つ100円の商品を110円に値上げしたところ、これまで100個売れていたのが85個になってしまいました、とか。すると、売上高は110円×85個で9,350円ですから、以前の10,000円よりも減少してしまいます。
では、ここで「売上総利益(売上ー仕入)」について考えみましょう。もともと1つ100円の商品の仕入価格は60円だったとしてます。売値を110円に値上げしたからといって、仕入価格は変わりません。
では、売上総利益はどうなるか。値上げ前は「(100円ー60円)×100個=4,000円」です。いっぽう、値上げ後は「(110円ー60円)×85個=4,250円」です。
というように、売上は減っても利益は増えている、といったことも起こりえます。加えて、前述したように「費用が減る」効果もあるのですから、利益はますます増えることもあるわけです。
ところで、さきほど「営業時間を短くして人件費が減る」といいました。これを聞いて、そんなカンタンに人を減らしたり、給料を減らせるか!と、おもわれるかもしれません。
たしかに、そのとおりです。けれども、営業時間を短くして空いた人手を、ほかのことに回せるとしたらどうでしょう。たとえば、商品開発やサービス改善など。
すると、商品価値や事業価値が高まることから、さらに値上げをすることが可能になります。値上げは、好循環の「きっかけ」にもなるものです。
まとめ
大企業が続々と値上げを続けているいま。それでも、価格を据え置く中小企業はどうなってしまうのか…値上げに対する抵抗感を下げるためにも、会社が値上げをするメリットについて考えてみましょう。
値上げを決断することが、経営・財務を改善するきっかけにもなりえます。