決算書について、「貸借対照表が重要だ」というハナシもありますが。いま、損益計算書の重要性が高まっています。銀行もまた、損益計算書を重要視しはじめている、その理由とは?
どちらも重要だという前提はありつつも
損益計算書と貸借対照表、はたしてどちらが重要か?というのは、「決算書あるある」の1つです。従来は、「貸借対照表が重要だ」という論調が強かったものとおもわれます。
もちろん、どちらも重要だという前提はありつつも、実務的には損益計算書が偏重される傾向があることから、そこに警鐘を鳴らす狙いもあっての「貸借対照表が重要だ」です。
また、銀行も融資の可否を判断するにあたっては、貸借対照表を重要視しています。というわけで、銀行融資に視点を移してみると、いま、ちょっとした変化が起きつつあるといえるでしょう。
その変化とは、銀行が「これまでよりも、損益計算書を重要視しはじめている」ということです。でも、それはなぜなのか?銀行融資の受けやすさにもかかわるところでもありますから、このあと確認をしていきましょう。
いま、損益計算書の重要性が高まっている理由
コスト高が続いている
円安をともなう原材料価格やエネルギー価格の高騰、人件費高騰など、コスト高の状況が続いています。つまり、以前に比べて、同じ売上高をあげるにもより多くのコストがかかるのです。
すると、当然、利益は少なくなります。銀行にとって、「利益は返済財源」との見方ですから、利益が減れば、その融資先の評価は下がる。ひいては、融資がしづらくなる。
引き続き融資をするには利益の確保が必要だ、となるわけです。では、その利益を確認できる資料とは?そう、損益計算書です。こうして、損益計算書の重要性が高まっています。
社長はそれを理解して、利益の確保に努めなければいけません。ここでいう「利益の確保」とは、従来の利益水準の維持であり、できれば、利益の増加です。
にもかかわらず、利益がただただ減っている…となれば、融資は受けにくくなります。では、どうしたら利益の確保ができるのか?答えは1つ、といってよいでしょう。
値上げです。最低でもコスト増加分は売値を引き上げて、利益の確保をはかる。いわゆる「価格転嫁」です。その価格転嫁ができない原因は、おもに2つあります。
1つは、社長の「勇気」が足りない。もう1つは、商品の「価値」が足りない。
前者は、社長が「お客さまの顔色を気にしすぎる」あまり、値上げに踏み切れないといったケースが挙げられます。お客さまも大事ですが、自社の存続のほうがもっと大事です。結果、会社がつぶれたのでは、結局、お客さまに迷惑をかけるのであって、元も子もありません。
後者は、値上げをしたところ、致命的に客離れが起きるケースです。とはいえ、割合で見れば、少数派だとおもわれます。日本の中小企業では、そもそも売値が安すぎるし、安売りを売りにしすぎてきました。なので、少々値上げをしたところで、致命的な客離れまでは起きないものです。
金利が上昇している
ご存知のとおり、日銀の利上げもはじまり、融資金利も上昇をはじめています。すると、銀行が心配するのは「金利負担に耐えられるかどうか」です。
金利負担に耐えられるかどうかとは、「営業利益で支払利息をまかなえるのか」ということでもあります。これを確認できる資料が…そう、やっぱり損益計算書です。
「営業利益で支払利息をまかなえるのか」について、インタレスト・カバレッッジ・レシオという財務指標があります。端的にいえば「営業利益 ÷ 支払利息」で計算される指標であり、銀行的には「最低でも1倍超」です。でなければ、営業利益で支払利息をまかなえません。
というわけで、損益計算書とあわせて、今後は、インタレスト・カバレッジ・レシオの重要性も高まるものと考えます。超低金利であれば、それほど気にしなくてもよかったのですが。
ところで、借入金利の上昇もまた、コスト高の1つです。だとすれば、支払利息が増える分も考えて価格転嫁を検討することになります。なので、金利上昇にともなう、利息増加額はシミュレーションをしておきましょう。
といっても、それほど難しいことではありません。仮に、自社の借入残高の水準が5,000万円くらいだとすれば、5,000万円に上昇が見込まれる利率を掛け算した金額が、年間に増加する利息額です。
いまであれば、上昇が見込まれる利率は0.5%〜1%くらいを見ておくとよいでしょう。仮に1%上昇することを想定すれば、「5,000万円×1%」で50万円です。よって、年間で50万円の利益確保を検討することになります。
債務超過が心配される
金利上昇を含めたコスト高の状況にあることは、前述しました。結果、赤字になってしまうとどうなるか?貸借対照表の利益剰余金が、その分、減少します。利益剰余金がマイナスになり、そのマイナス額が資本金額を上回ると、いわゆる「債務超過」です。
債務超過とは、言い換えると「資産<負債」の状態であり、銀行としては非常に融資がしづらくなります。実質的に財務破たん状態ですから、当然でしょう。
では仮に、現在の資本金が300万円、利益剰余金が200万円だとして。この場合、赤字が500万円を超えると、債務超過に転じることになります。
では、赤字がいくらかどうかを確認できる資料は…もちろん、損益計算書です。というように、最近のコスト高もあって債務超過が心配される状況だからこそ、損益計算書の赤字により注目が集まります。
社長もまた、「許される赤字」のラインとして、資本金と利益剰余金の額を確認しておきましょう。そのうえで、債務超過になるような赤字はなんとしても避ける、ということです。
意外と、そのあたりに無頓着といえる社長がいます。つまり、「どうせ赤字なのだから、いくらの赤字でもいっしょ」といった感覚であり、結果として債務超過になってしまっている、みたいな。
このとき、「ほんのちょっと債務超過」といったケースもあり、「わかっていれば、債務超過は免れるくらいの赤字に抑えられたのでは?」と残念におもわれます。
極端をいえば、1円でも債務超過は債務超過です。赤字は免れないとしても、債務超過は免れることができないかは、よくよく検討しましょう。
まとめ
決算書について、「貸借対照表が重要だ」というハナシもありますが。いま、損益計算書の重要性が高まっています。銀行もまた、損益計算書を重要視しはじめている、その理由とは?について、お話をしてきました。
銀行融資の受けやすさにもかかわるところでもありますから、本記事の内容を押さえておきましょう。