東京商工リサーチの調査結果によれば、「債務超過回数が少ないほど有利子負債が膨らむ」とのこと。でもそれって矛盾してない?と、おもわれるかもしれません。なので、深堀りします。
それは矛盾ではないのか?
きょうは、2024年10月30日です。つい昨日、東京商工リサーチから、次のような調査結果が公表されていました↓
「債務超過」が10年連続の企業は6.7% 債務超過の回数が多いほど生産性が低下
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1199017_1527.html
2023年度における「債務超過の中小企業」動向調査ということで、いろいろな切り口で結果の分析がなされています。なかでも、とりわけ気になったのがコレでした↓
債務超過回数が少ないほど有利子負債が膨らむ
そもそも「債務超過」とは、「資産<負債(=純資産がマイナス)」の状態であり、財務の危機的状態をあらわしている言葉です。いっぽうで「有利子負債」とは、銀行からの借入をいいます。
そのうえで、前述した「債務超過回数が少ないほど有利子負債が膨らむ」との記述について考えてみましょう。もしかすると、違和感をもたれるかもしれません。
だって、債務超過とは「負債が多い状態」なのであり、その債務超過回数が少ないほど有利子負債が多くなるって、なんか矛盾してない?逆になるはずなんじゃないの?と、おもわれるかもしれません。
この点、このあと深堀りしてみることにします。
銀行借入の増加 ≠ 債務超過
ここでまず、前述の「債務超過回数が少ないほど有利子負債が膨らむ」という調査結果について、もう少し詳しく取り上げておきます。
2014年度から2023年度までの10年間、債務超過なしの会社では、平均有利子負債額は6億1,200万円。これに対して、債務超過回数が「1-3回」「4-6回」だと、平均有利子負債額は2億円前後、「7-9回」「10回」は1億2,000万円前後にとどまり、格差が大きいとされています。
たしかに、「債務超過回数が少ないほど有利子負債が膨らむ」という結果です。これはいったいどういうことなのか?
端的にいえば、債務超過がない会社(=良い会社)ほど、銀行からスムーズに借入ができているということであり、意図して借入を増やすことができているということです。
これを聞いて、「いやいや、借入したら債務が増えるじゃん。債務超過じゃん」と、おもわれるかもしれませんが、それは違います。なぜなら、「銀行借入の増加=債務超過」ではないからです。
これは、ぜんぜん難しいハナシではありません。銀行から1億円の借入をしたときに、借入という負債が増えるのと同時に、1億円の資産(おカネ)も増えるよね?というだけのハナシです。
だとすれば、いくら借入をしようと、借入した瞬間は「資産=負債」であって、債務超過になることはありません。「銀行借入の増加 ≠ 債務超過」なのです。
資産をただただ減らす=債務超過
債務超過は、財務の危機的状態をあらわしていると前述しました。逆に、債務超過でない会社・債務超過になる回数が少ない会社は、財務が良い会社だといえます。
そういう「良い会社」にこそ、銀行は融資をしたいのです。よって、債務超過でない会社・債務超過になる回数が少ない会社は、スムーズに借入がしやすくなります。
その結果が、「債務超過回数が少ないほど有利子負債が膨らむ」ということであり、だとすれば、「それってあたりまえのハナシだよねー」ということになるわけです。
ところが、「銀行借入の増加=債務超過」と勘違いをしていると、銀行借入を躊躇してしまうことになるでしょう。しかし、ならばなぜ、債務超過になるのか?
思い出してみましょう。債務超過とは、「資産<負債」の状態でした。いっぽうで、銀行借入をした瞬間は「資産=負債」です。毎月返済を続ける段階でも「資産(預金残高)=負債(借入残高)」です(支払利息による預金減は、ひとまず無視します)。
それでも、「資産<負債」になってしまうのはなぜなのか?
資産をただただ減らしてしまうからです。たとえば、赤字の補てん(=費用・損失にともなう支出)におカネが使われたり、利益(おカネ)を生み出さない資産を買ってしまったり。
なので、債務超過の原因は「借入」ではありません。ほかに理由があります。
銀行借入が少ないほど成長が鈍い
ここでもういちど、東京商工リサーチの調査結果を眺めてみます。すると、次のような記述も見つかります。
それは、「債務超過回数が多いほど、平均従業員数は減少傾向」や「債務超過回数が多いほど、平均売上高は低い」との記述です。
「債務超過回数が多いほど」というのは、さきほどまでの「債務超過回数が少ないほど有利子負債が膨らむ」を加味すると、「銀行借入(有利子負債)が少ないほど」と置き換えることができます。
すると、「銀行借入が少ないほど、平均従業員数は減少傾向」や「銀行借入が少ないほど、平均売上高は低い」と見ることができるでしょう。これを見て、どう考えるかです。
端的にいえば、銀行借入が少ない(できない)ほど、会社は資金が不足するため、人を雇いづらくなる。必要な人材を確保できなければ、売上も増やしづらくなる。と、考えることができます。
資金が不足すれば、人材の確保のみならず、必要な設備投資ができないこともあるでしょう。すると、将来の売上が減っていくであろうことは、容易に想像ができます。
また、資金が不足するがために、安かろう悪かろうの材料しか買えなくなれば、製品の品質を落とすことになるわけで、その結果、客離れ(売上減少)が起きることもあるでしょう。
よって、銀行借入が少ないほど(債務超過の回数が多いほど)、会社の成長は鈍いといえます。
ともすれば、「銀行借入が多い=悪」との見方もありますが、むしろ「銀行借入が少ない=悪」との見方もできるようになりましょう。紹介した調査結果は、それを後押しするものです。
まとめ
東京商工リサーチの調査結果によれば、「債務超過回数が少ないほど有利子負債が膨らむ」とのこと。でもそれって矛盾してない?と、おもわれるかもしれません。なので、深堀りしてみました。
結論としては、矛盾などなく、むしろ当然という話です。その当然を、理解できるようにしておきましょう。さもないと、銀行借入を避けるあまり債務超過…という事態もありえます。