仕事もするけど観光もしたい!というときの海外出張費用の経理

海外渡航費

仕事で海外出張のついでに観光しても経費になるの?

残念ながら。観光分については、基本的に経費になりません。いっぽうで、仕事分はもちろん経費です。

では、観光と仕事の金額を「区分」しようとするとなかなかやっかい。ということで、海外出張費用の経理についてお話しします。

目次

海外渡航費を税務調査で問題にされないために

仕事で海外出張とは言っても。あいだに休みの日もあれば、観光をする日もあるかもしれません。

そんなとき気になるのは、いくらが経費になるのか?経費にならない金額はどうなるのか?

休日もない、観光もしないなんて出張ある?

たとえば、出張先で会議する際の食事代。であれば、「会議費」として経費です。

視察先に持参する手土産代であれば、「接待交際費」として経費になります。

このように、「明らかに仕事」だとわかるモノであれば良いのですが。一筋縄ではいかないモノもあります。それは・・・

現地までの往復の旅費や現地での宿泊費。そして、出張にあたり支給する手当・日当など。「海外渡航費」と呼ばれるモノたちです。

100%仕事で出張したのであれば、海外渡航費は100%経費だというのは当然です。

けれども実際は、休日がある、観光をする日もある、というケースがほとんどではないでしょうか。

では、そのときの海外渡航費はいったいどう経理するの?というのが、これからのお話になります。

3つの準備からはじめよう

仕事に加え、休日も観光日もある海外出張の費用をどうすればいいのか?

そのためにまずやるべきこと。それは、次の「3つの準備」です。

  • 「業務の割合」を計算する
  • 「経費になる割合」を計算する
  • 海外渡航費の「金額の区分」をする

準備だなんて、少々メンドーではありますが。海外渡航費の経理は、税務調査の際にはほぼ間違いなく確認されるところ。

海外まで行くわけですからね、金額も小さくありません。税務調査官が気にするポイントのひとつになります。

のちのち問題にならぬよう、経理をする際にしっかり押さえておきましょう。

 

《準備1》「業務の割合」を計算する

ひとつめの準備は「業務の割合」を計算すること。文字通り、海外出張のうち、仕事(業務)の割合はどれくらい?というハナシ。

下ごしらえがモノを言う

さっそく「業務の割合」とやらを求めてみたいところですが。さらに下ごしらえが必要です。それは、次の2つ。

  • 出張中の日程を、内容に応じて区分する
  • それぞれの区分ごとの時間を集計する

まず「区分」のしかたですが、次の4つに区分します。

① 仕事をしていた日数 ・・・ 視察、調査、商談、会議・展示会への参加など
② 観光をしていた日数
③ 現地までの移動(往復)、現地での移動に使った日数
④ 上記以外の日数 ・・・ 土日などの休日

土日などの休日であっても、仕事をしていたのであれば①、観光をしていたのであれば②、移動なら③として区分しましょう。

この区分にしたがって出張中の日程を区分し、各区分ごとに日数を集計します。

例題で確認しよう

それでは、「業務の割合」の準備について。例題で確認してみましょう。

《 例題 》ある海外出張の日程表

  • 1日目・・・現地までの移動
  • 2日目・・・同業企業の視察
  • 3日目・・・現地顧客との商談
  • 4日目・・・観光(土曜日)
  • 5日目・・・現地顧客を接待(日曜日)
  • 6日目・・・同業企業の視察
  • 7日目・・・現地からの移動

さぁ、どうでしょう? 区分の結果はこちらです ↓

  • 1日目・・・現地までの移動 → ③ 移動
  • 2日目・・・同業企業の視察 → ① 仕事
  • 3日目・・・現地顧客との商談 → ① 仕事
  • 4日目・・・観光(土曜日)→ ② 観光
  • 5日目・・・現地顧客を接待(日曜日)→ ① 仕事
  • 6日目・・・同業企業の視察 → ① 仕事
  • 7日目・・・現地からの移動 → ③ 移動

これを集計すると、

① 仕事 ・・・ 4日
② 観光 ・・・ 1日
③ 移動 ・・・ 2日

ここまでが「業務の割合」を計算するための下ごしらえです。準備運動でちょっと疲れちゃいましたかね。

「業務の割合」の計算式

先ほど集計した結果を使って、「業務の割合」を求めます。「業務の割合」の計算式は次のとおりです ↓

  • 業務の割合 = ① 仕事 ÷ ( ① 仕事 + ② 観光 )

ということで。区分した日数の中から、仕事の日数と観光の日数とを使って計算します。算式に《例題》の数字を当てはめると ↓

  • 4日 ÷ ( 4日 + 1日)= 80%

これが「業務の割合」です。

 

《準備2》「経費になる割合」を計算する

ふたつめの準備は「経費になる割合」を計算すること。さきほどの「業務の割合」との混同に気を付けて。

似て非なる「経費になる割合」

さきほどの「業務の割合」と、似ているけれどちょっと違う。というのが、次の「経費になる割合」です。

  • 経費になる割合 = 「業務の割合」の10%未満の数字を四捨五入したもの

なんでしょうね、これ。ということで、例示で確認しましょう ↓

  • 業務の割合 75% → 経費になる割合 80%(75%の5を四捨五入)
  • 業務の割合 63% → 経費になる割合 60%(63%の3を四捨五入)

では、《例題》に戻って。業務の割合が80%なら?四捨五入しても変わらず、経費の割合も80%です。

どうして似たような割合が2つも必要なのかという理由はのちほど。

 

《準備3》海外渡航費の「金額の区分」をする

さいごの準備は、海外渡航費の金額を、次の2つに区分します。

① 往復の旅費の金額
② それ以外の金額 ・・・ 宿泊費、出張手当・日当など

たとえば、総額で35万円の海外渡航費がかかりました。うち、20万円が往復の旅費でした。

とすると、①往復の旅費が20万円、②それ以外の金額が15万円。だいじょうぶですよね?

これでようやく準備は終了です。いよいよ、結論に向かいます。

 

ひとことでは語れない結論を一覧表にする

以下、「業務の割合」に応じた「経費になる金額」の結論です。

経費になる割合業務の割合経費になる金額
90%または100%全額が経費
20%~80%50%以上往復の旅費の金額 +( それ以外の金額 × 経費になる割合)
50%未満( 往復の旅費の金額 +それ以外の金額 )× 経費になる割合
0%または10%全額が経費対象外

上記の一覧表に、まずは「経費になる割合」を当てはめます。続いて、「業務の割合」を当てはめます(「経費になる割合」が20%~80%の場合のみ)。

「経費になる割合」が90%以上であれば全額が経費。いっぽうで、業務の割合10%以下にいたっては、まったく経費にはならないという悲しい結末です。

「経費になる割合」と「業務の割合」が下がるごとに、「経費になる金額」はキビシイ扱いとなっていきます。

確認のために、ひとつ例題を提示しておきます ↓

《 例題 》ある海外出張にかかる資料

  • 業務の割合 ・・・ 75%
  • 往復の旅費の金額 ・・・ 20万円
  • それ以外の金額(宿泊費、出張手当) ・・・ 15万円

経費になる金額を求める手順は次のとおりです。

  • 経費になる割合 ・・・ 「業務の割合」の75%について10%未満を四捨五入。よって、80%
  • 経費になる金額 ・・・  上記表に当てはめ、「20万円 +( 15万円 × 80% )=32万円」

総額 35万円の海外出張費用のうち、32万円が経費になりました。という例題です。

ところで、残りの3万円はどうなっちゃうのでしょう?という話が次になります。ということで、もう少し続く。

 

経費にならないとどうなるのか?

経費には認められなかった金額の行方は、「誰の」分の海外渡航費なのかによって変わります。

「経費になる」とは、「旅費交通費」であるということ

ここまで「経費になる」という表現を使ってきましたが、厳密に言うと

  • 経費になる=「旅費交通費」として処理できる

ということになります。

ついさきほどの《例題》で言うと、総額35万円の海外渡航費のうち、32万円は「旅費交通費」の勘定科目で経費にする。

残りの3万円は、「旅費交通費」にできないのでどうするか?ということです。

またしても結論を一覧表にする

旅費交通費にできない分の経理処理は次のとおりです。

事業の形態誰の分か経費にならなかった金額の処理経費になる金額
会社(法人)役員役員賞与(損金不算入)旅費交通費
従業員給与
個人事業事業主事業主貸
従業員給与

まずは、「事業の形態」が会社(法人)か、個人事業か。次いで、支払う海外渡航費は「誰の分か」で区分します。

結果、「旅費交通費」にならなかった金額が、上記一覧表のとおりです。

従業員の場合には「給与」になる点は、会社でも個人事業でも同じです。給与については、源泉所得税の対象になる点に気をつけましょう。

会社の役員の場合には、役員賞与として損金不算入になります。つまり、法人税計算上の経費から外されます。もちろん、源泉所得税の対象です。

個人事業主の場合には、「事業主貸」として経費対象外として処理します。

 

さいごに補足を2つほど

細かい話を2つ、さいごにさせていただきます。

日数計算について

「業務の割合」の説明で、日数計算の話をしました。

《例題》では「きれいに1日ごと」に計算しましたが、実際にはいろいろあるでしょう。

1日のうちに仕事と観光が混じっている。通常の勤務時間を超えて仕事をしているなど。

そんなワケで厳密には次のように取り扱うこととされています。

  • 昼間の通常の業務時間(おおむね8時間)を1.0 日として、その日の行動をおおむね0.25日を単位に計算する
  • 夜に仕事をしている場合には、これに係る日数を「仕事をしていた日数」として計算する

仕事であることの証拠を残す

「経費になる割合」を計算したら80%か・・・そうだ、あの日は仕事をしていたことにしよう!そうすれば、全額経費でウッシッシ。

なんて、記憶の改ざんをしてはいけません。

そもそも。税務調査でトラブルを避けるために、仕事であったことの証拠づくりに努めてください。必要なのは記憶ではなく、証拠です。

「海外出張」と聞けば「実は観光か?」と疑うのも、税務調査官にとっては必要な仕事のひとつなのです。

  • 出張の日程表を作成する
  • 現場での写真をとる
  • 視察先のパンフレットなどを入手する
  • 仕事関係者とは名刺を交換する
  • 商談や会議などの内容を文章や音声データで残す
  • 出張についての成果をレポートにまとめる

などなど。できることはいろいろあるはずです。

特に現地でしかできないことが「手遅れ」にならないよう。出張前から段取りは確認しておくとよいでしょう。

 

まとめ

海外渡航費の経理処理についてお話をしてきました。

そう頻繁に使う処理でもないうえに、ややこしい処理でもあります。

今回覚えることはできなくても。いざ海外出張の折には、「あぁ、そういえば!」と思い出してください。

 

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  きょうの執筆後記
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