債務超過?いやいやウチはそんなことない。
ほんとうに? 決算書の「表面だけ」を見ていては、ほんとうの債務超過をはかれません。
特に。銀行からおカネを借りようというときには要注意です。そんな「債務超過」についてお話しします。
取るものもない会社に、カネは貸せない
「債務超過」と言われる会社に。銀行は原則、おカネを貸そうとはしません。それもそのはず。「債務超過」とは、いざという時に、その会社から「取れるモノ」がないことを示しているのですから。
債務超過を図解する
でははじめに。債務超過について確認をしておきましょう。債務超過とは文字通り、債務という負の財産が「一定ライン」を超えている状態をあらわします。
その「一定ライン」とは、「資産の額」です。会社にある資産の額を、負債の額が上回る時。その会社は「債務超過」の状態にある、と言われることになります。図解すると、
突然の貸借対照表ですが、おどろくほどのことはありません。カンタンにお話をしていきますので、ついてきて下さい。
ケンゼンな貸借対照表
まず、左側の「健全な貸借対照表」を見てみましょう。これがフツーの状態です。会社の資産が負債を30上回る。この会社には30の価値(純資産)がある、と言うこともできます。
ちなみに、財務書類のひとつであるこの貸借対照表。常に「左右」の金額が一致します。これは複式簿記というルールに基づくものであり、「そういうもんなんだな」と思ってください。
また、純資産については、「資産-負債」で求められるものでもあり。結果として「左右」が一致するのは当然だ、とも言えます。
債務超過の貸借対照表
さて。続いて右側が問題の「債務超過の貸借対照表」です。見るからにヘンな感じになっていますね。さきほどとは逆に、負債が資産を30上回ります。純資産はマイナス30として、左右のバランスをとっています。
この状態が意味するものとは。もしも今この瞬間に、この会社が事業を中止して解散をするとしたら。そのとき、ありとあらゆる会社の資産をすべて売っぱらって現金に替え。負債の返済に充てるとしたら。
残念ながらそれでも負債を返しきれない。というのが、債務超過です。こんな会社におカネを貸したら、万一のときには返してもらえない。取りっぱぐれるじゃないか、と銀行は考えます。
債務超過ではないのに債務超過だ、と言われるナゼ
貸借対照表を見る限り。債務超過ではないぞ、というときも。銀行には「実は債務超過だろ」と見られてしまうことがあります。たとえば・・・
焦げ付いた売掛金
会社が持つ資産のひとつ「売掛金」。いわゆる「ツケ」による売上代金で、まだ未回収の金額が売掛金です。いずれ現金として回収できる「権利」であり、会社の「資産」です。
フツーの状態の売掛金であれば問題はないのですが。倒産してしまった会社に対する売掛金だったら?もう回収はできないわけですから、その売掛金に価値はありません。
そういう「焦げ付いた債権」が、資産として計上されている場合には。その分は資産から外したところで、債務超過にならないかどうかを見ることになります。
銀行は、貸借対照表のウワっ面だけを見て、おカネを貸してくれるほどアマくはありません。
でもなんで、銀行にそんなことがバレてしまうのか? それは、銀行に決算書を提示するからです。決算書には、売掛金の「内訳」に関する書類が含まれています。
それを2年、3年とならべたときに。おなじ得意先に対して、まったくおなじ金額の売掛金が掲載されていれば。ツケの回収が進んでいないわけですから、「焦げ付いてんの?」と疑われるのです。
不良在庫、架空在庫
おなじように、書類上の金額ほどの価値がないものとして。陳腐化してもう売れない不良在庫や、あってはいけない架空在庫が考えられます。
ところで架空在庫というのは、その名のとおり架空であり、無いはずのものを有ると言い張る在庫のコト。なんでそんなことをするのか、って? やっている人はわかります。粉飾決算をするためです。
ま、粉飾決算のことは置いといて。不良在庫にせよ、架空在庫にせよ。書類の金額ほど実際の価値がないものは、やはり資産からは外して考えなければいけません。
銀行を含めて、第三者が「不良」か「架空」かを見極めるのはなかなか難しいものがあります。なぜなら、在庫の金額とは決算日現在という、ある瞬間的な金額を切り取ったものだからです。
時間は刻一刻と流れているわけでして。いま目の前にある在庫を見ることができたとしても、「決算日現在の在庫」を見ることはできません。
じゃあ、バレないじゃん。と、あなたは言う。ですが、話はそうカンタンでもないのです。
おカネを貸す側の銀行は銀行で、別な見方をしています。この業種・業態・規模で、この在庫の大きさは無いよな。そう思ったら、銀行は勝手に貸借対照表の金額に修正をかけます。
どういう修正をかけるかは、各々の銀行の判断ではありますが。在庫が大きすぎる場合には、そういうこともあると覚えておきましょう。場合によっては、銀行に対する説得・説明が必要です。
貸付金
理屈として。銀行からおカネを借りようとする前に、貸しているおカネがあるなら返してもらいなさいよ。と思われてしまうのが、貸付金です。
ですから、そもそも貸付金が計上されている貸借対照表を銀行は好みません。それでも、その貸付金が「きちんとしたモノ」であればまだ良いのですが。
よくあるのは「社長への貸付金」です。社長が会社のおカネをいったん借用、というのはそれほど珍しいことではありません。社長はいろいろとおカネが「要りよう」なのです。
で、借用した結果。諸事情により返済できていないものが貸付金として計上されます。この計上額が大きいと、銀行としてはシブい顔にならざるをえません。
おカネを貸しても、そのおカネがまた社長に流れてしまうのではないか? それでは銀行は会社ではなく、社長におカネを貸したことになってしまいます。それなら貸せない。
また、会社の資産金額としても。「社長への貸付金」は無いもの(価値ゼロ)として扱われてもしかたありません。
そんなワケで、資産に多額の「社長への貸付金」があるというのは。銀行借入にはとても具合が悪いものだ、という認識をしておきましょう。
債務超過だけど債務超過じゃない、と言えるナゼ
反対に。貸借対照表を見る限りは債務超過なのに、「そうではないぞ」と言い張れるケースもあります。
役員借入金
役員からの借入金があるケースです。社長からの借入金で、資金を回しているという会社も少なくありません。
社長からの借入金は、極端を言えば、返さなくてもよいものです。もちろん返したいものではありますが、優先順位としてはとても低いところにあります。
まずは仕入先への支払いや従業員への給与が優先します。銀行への借入金返済も滞らせるわけにはいきません。社長への借入金の返済はさいごのさいご。余裕があれば、ということになるでしょう。
そう考えると。社長からの借入金というのは、もはや「資本金」といっしょ。そのように考えることができます。貸借対照表で見るならば。社長からの借入金の額を、負債から外して見るということ。
結果、書類上は債務超過であっても。「社長からの借入金」修正後の負債の額を、資産の額が上回る。ということも起こりえます。
まとめ
ことほど左様に。貸借対照表はいつも、銀行からの厳しい眼にさらされています。このことを理解するならば。
会社自身も貸借対照表の「ほんとうのところ」を精査できる眼を持つことです。
銀行からの資金調達は、会社の生命線のひとつ。資金調達に強い貸借対照表とは、決算書とはなにかを考えることで。いざというときの生命力に差が出ます。
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きょうの執筆後記
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なにも銀行による決算書の見かたを身につけて、銀行融資のための決算書をつくろう、というわけではありません。
おカネを借りる借りないは別にして。財務基盤の厚い決算書、強い会社づくりにも、「銀行の見かた」は役に立つ。そういうことです。
当事務所では、当事務所が会社の「財務部長」として資金繰りや資金調達を支援する「財務・融資コンサルティング」もおこなっています。