これだけの売上と利益が出る計画なら、銀行もおカネを貸してくれるだろ。
銀行借入の際、提出が求められる「資金計画」。売上や利益がたくさん出ればいい、というもんじゃない。
そのつくり方にはちょっとしたコツや、注意すべきポイントがあります。スムーズな資金調達を進めるために、確認しておきましょう。
資金計画における2大誤り
銀行借入を考える際、資金計画書づくりが必要になります。
この場合における「資金計画書」とは、今回借入をして、将来にわたり返済ができることを示す「予測資金繰り」です。
つまり、資金計画書でアピールすべきポイントは、次の2つです。
- 借入が必要であること
- 返済ができること
これに対して、巷の資金計画書によくみられる「2つの誤り」があります。それは、
- 借入の必要がないほど楽観的
- 計画達成のハードル高過ぎ
それでは、この「2つの誤り」について。もうすこし詳しく見ていきましょう。
まずは資金計画書のお手本を
「2つの誤り」を学ぶ予習として。はじめに、資金計画書の基本的なカタチと、その見方を確認してみましょう。
資金計画を拝見しまぁす
例題として、架空の資金計画書を掲載します。新規事業開始に伴う資金計画として、こんなカンジです↓
×年1月 | ×年2月 | ×年3月 | ×年4月 | ×年5月 | ×年6月 | ×年7月 | |
売上 | 1,000 | 1,000 | 1,500 | 1,500 | 2,000 | 2,000 | 2,500 |
経費 | -1,500 | -1,500 | -1,750 | -1,750 | -2,000 | -2,000 | -2,250 |
設備投資 | -9,000 | ||||||
自己資金 | 4,000 | ||||||
新規借入 | 7,560 | ||||||
返済 | -90 | -90 | -90 | -90 | -90 | -90 | |
資金増減 | 2,060 | -590 | -340 | -340 | -90 | -90 | 160 |
月初資金 | 0 | 2,060 | 1,470 | 1,130 | 790 | 700 | 610 |
月末資金 | 2,060 | 1,470 | 1,130 | 790 | 700 | 610 | 770 |
はじめに、カンタンに見方を解説しておきます。
計画書中の「プラスの数字」については、おカネが増えることを表します。たとえば、「×年1月の売上」であれば、売上入金により「1,000」のおカネが増えるということ。
逆に「マイナスの数字」については、おカネが減ることを表します。「×年1月の経費」であれば、経費支払により「1,500」のおカネが減るということ。
「×年1月」は、事業開始月。「月初資金」はゼロからスタート。「自己資金4,000、新規借入7,560」のおカネを元手に、設備投資9,000を行います。
売上、経費も含めると、×年1月単月のおカネの増減は2,060のプラス。この単月のおカネの増減が「資金増減欄」です。結果、「月末資金」として2,060のおカネが残る見込み。
これが、翌月「×年2月」の月初資金として続きます。
これが「妥当」な資金計画というもの
さきほどの資金計画書を再掲します。
×年1月 | ×年2月 | ×年3月 | ×年4月 | ×年5月 | ×年6月 | ×年7月 | |
売上 | 1,000 | 1,000 | 1,500 | 1,500 | 2,000 | 2,000 | 2,500 |
経費 | -1,500 | -1,500 | -1,750 | -1,750 | -2,000 | -2,000 | -2,250 |
設備投資 | -9,000 | ||||||
自己資金 | 4,000 | ||||||
新規借入 | 7,560 | ||||||
返済 | -90 | -90 | -90 | -90 | -90 | -90 | |
資金増減 | 2,060 | -590 | -340 | -340 | -90 | -90 | 160 |
月初資金 | 0 | 2,060 | 1,470 | 1,130 | 790 | 700 | 610 |
月末資金 | 2,060 | 1,470 | 1,130 | 790 | 700 | 610 | 770 |
結論として、この資金計画書は「妥当」です。設備投資9,000と事業開始後しばらくの赤字を考えると、「まぁ、このくらいの借入は必要だ」という意味で妥当です。
売上は半年かけて少しづつ増え、「×年7月」には売上が経費を上回り黒字化。借入返済を含めても、単月のおカネの増減「資金増減」も160とプラスに転じます。
「月末資金」の動きを見ても、売上が立ち上がる手前の「×年6月」までは、資金減少が続きます。そして、資金減少の底である「×年6月」の「月末資金」は610。
この時点で資金がダブついている感じはなく。「貸し過ぎ」ということはなさそうだ、と見ることができます。だから、妥当。
「2つの誤り」を抱える資金計画書の姿とは
予習が終わったところで、いよいよ「2つの誤り」を見ていきます。
さぁさぁ、真打ちのご登場です
さきほどの「妥当」な資金計画書に対して。「誤り」としてのな資金計画の例がこちら↓
×年1月 | ×年2月 | ×年3月 | ×年4月 | ×年5月 | ×年6月 | ×年7月 | |
売上 | 2,000 | 2,000 | 3,000 | 3,000 | 4,000 | 4,000 | 5,000 |
経費 | -2,000 | -2,000 | -2,500 | -2,500 | -3,000 | -3,000 | -3,500 |
設備投資 | -9,000 | ||||||
自己資金 | 4,000 | ||||||
新規借入 | 7,560 | ||||||
返済 | -90 | -90 | -90 | -90 | -90 | -90 | |
資金増減 | 2,560 | -90 | 410 | 410 | 910 | 910 | 1,410 |
月初資金 | 0 | 2,560 | 2,470 | 2,880 | 3,290 | 4,200 | 5,110 |
月末資金 | 2,560 | 2,470 | 2,880 | 3,290 | 4,200 | 5,110 | 6,520 |
基本的な前提は、「妥当」な資金計画と変わらないとして。さあ、どうでしょう? ツッコミどころは満載です。どうぞ、ツッコんじゃってください。
どうしたらそんなに楽観的になれるんだ?
冒頭で触れた「2つの誤り」のうちのひとつ目からツッコんでいきましょう。借入の必要がないほど楽観的である、という点について。
「月末資金」の推移を見てみましょう。わかりやすいように、「妥当」と「誤り」、2つの資金計画書の「月末資金」を併記します。
《 妥当 》
×年1月 | ×年2月 | ×年3月 | ×年4月 | ×年5月 | ×年6月 | ×年7月 | |
月末資金 | 2,060 | 1,470 | 1,130 | 790 | 700 | 610 | 770 |
《 誤り 》
×年1月 | ×年2月 | ×年3月 | ×年4月 | ×年5月 | ×年6月 | ×年7月 | |
月末資金 | 2,560 | 2,470 | 2,880 | 3,290 | 4,200 | 5,110 | 6,520 |
思い出してください。「妥当」な資金計画書では、資金の底は「×年6月」の610でした。
いっぽうで「誤り」な資金計画書での資金の底は、「×年2月」の2,470です。その後は「早くも順調に」、資金は増加を続けます。
ここで疑問が生まれます。これって資金がダブついてんのと違うの?ちょっと貸し過ぎなんじゃないの?
資金計画書には「新規借入」が7,560となっていますが。貸す側の銀行としては、こんなに貸さなくてもいいのではなかろうか、という議論になりえます。
こんなことになった原因は、ひとえに売上計画にあります。
もしも、「銀行に安心してもらえるよう、売上を背伸びした」というようなことであれば。その楽観的思惑は裏目に出る、ということです。
ハードル高過ぎ、ちゃうの?
「誤り」の資金計画書の「売上」は楽観的だ、という話をしました。
これに対して、もうひとつの見方として。「誤り」のほうの「売上」は、ハードルが高過ぎるのではないか、という見方があります。
わかりやすいように、「妥当」と「誤り」、2つの資金計画書の「売上」を併記します。
《 妥当 》
×年1月 | ×年2月 | ×年3月 | ×年4月 | ×年5月 | ×年6月 | ×年7月 | |
売上 | 1,000 | 1,000 | 1,500 | 1,500 | 2,000 | 2,000 | 2,500 |
《 誤り 》
×年1月 | ×年2月 | ×年3月 | ×年4月 | ×年5月 | ×年6月 | ×年7月 | |
売上 | 2,000 | 2,000 | 3,000 | 3,000 | 4,000 | 4,000 | 5,000 |
「誤り」の資金計画書の「売上」は、「妥当」の倍で推移しています。繰り返しますが、両計画について、事業の前提条件は同じだとして。
たとえば、飲食店を想定する場合。「誤り」のほうは、単価が高過ぎないか、客の回転率が高過ぎないか、というようなことが疑われます。
やっぱり高過ぎだね、ということになれば。当然、銀行としては貸し渋ることになるでしょう。
資金残高から売上を逆算する「眼」を
「2つの誤り」を確認したところで、さいごに解決策です。
それは、資金残高から売上を逆算する資金計画づくり。手順は、
- 必要な設備投資と経費、借入返済のおカネを資金計画書に埋める
- 自己資金、新規借入希望額を資金計画書に埋める
- 「妥当」な月末資金残高となる「売上」を逆算する
逆算された売上の実現が楽勝、あるいはムリがないな、というレベルであればOKです。ここで、それ以上に売上を増やすことは必要ありません。
誤解がないように申し添えると、「売上をあえて小さくしろ」というのではありません。根拠なくして売上を膨らますのはやめておこう、というハナシです。
特に新規事業における売上の見積もりは容易ではありません。なにぶん新規なのですから、やってみないとわからないということもあるでしょう。
巷の資金計画書は「売上」が膨らみ過ぎる傾向にあります。期待値ばかりが高すぎて、根拠に乏しいケースは少なくないのです。
期待値により膨らみ過ぎた売上こそが、さきほどの「2つの誤り」につながります。十分に注意しましょう。
また、逆算された売上の実現がムズカシイな、という場合には。設備投資額や経費の見直し、自己資金や新規借入希望額の再検討が必要になります。
売上から資金計画を考えるのではなく、資金残高から逆算、検証するという眼を持ちましょう。
まとめ
銀行借入に必要な資金計画における「2つの誤り」を見てきました。
楽観的に過ぎないか、ハードルは高過ぎないか。資金計画書をチェックしてみましょう。
そのような誤りが無いように。資金残高から売上を逆算する眼についても、気を付けてみましょう。
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きょうの執筆後記
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