やっぱり無借金経営に限るよね。
たしかに、無借金経営は「健全な姿」のひとつであり。経営者にとっての憧れとして語られることも多いものです。
ところが。常に健全とも言い切れず。憧れとも言えない事態が考えられます。実は、無借金経営には「アブナイ」側面がある。というお話です。
こんな会社はアブナイ!「無借金経営からの赤字」
無借金経営。文字通り、銀行などからの借金が無い経営のことを「無借金経営」と呼びます。
借金は無いに越したことはないけれど。実はアブナイこともある。それが「ずっと無借金経営、からの赤字」というストーリーです。
借りたいおカネが借りられない
創業来ずっと無借金経営。しかし、あるとき、突如の赤字に見舞われる。資金繰りがキビシイ。しかたない、おカネを借りよう・・・
この苦しい場面で、おカネを借りられないかもしれない、借りるのに苦労をするのが、無借金経営のコワさです。
「ウチはいままで無借金でがんばってきたんだ!おカネを貸してくれたっていいだろう?」という経営者の気持ちはわかりますが。その「いままで無借金」がアダになる。
そもそも赤字で、赤の他人
銀行はおカネを貸すのが仕事ではありますが、基本、赤字の会社におカネを貸すことはありません。
なぜなら、赤字、つまり利益が無いということは、貸したおカネを返すための元手が無いということでもあるからです。
そこで、会社はこう言います。「これからは黒字にする。黒字にできる見込みがある。だから貸してくれ」
さぁ、どうでしょう? 銀行はこれを信じてくれるものでしょうか? 「急にそう言われてもねぇ。オタクのことはよく知らないし・・・」というのが銀行のホンネでしょう。
返してもらえるアテがない、しかもよくわからない相手にはおカネを貸せない、という理屈。あなただって、そうは思いませんか?
無借金経営を銀行が敬遠する4つの理由
「ずっと無借金経営、からの赤字」はアブナイ。それは、おカネを借りることが難しいからだ、とお話しました。
それでは、銀行がおカネを貸したがらない理由について、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。理由は4つあります。
- おカネを借りた実績がない
- おカネを返した実績がない
- 貸倒引当金を計上しなければならない
- 他行の動向という情報がない
《理由1》おカネを借りた実績がない
おカネを借りる、と言うと。どうにも悪いイメージがありますが、そうとばかりも言えません。
「前におカネを借りたことがある」というのは、銀行にとってひとつの安心材料にもなりうるからです。
銀行は、おカネを貸すにあたって、さまざまな角度から検討をおこないます。「この会社におカネを貸しても大丈夫かな?」ということをチェックします。融資審査です。
そのうえで「貸したことがある」ということであれば。銀行は、その会社のことを「わかっている、知っている」ということになります。
つまり、融資先であり、赤の他人ではない。赤字だとはいっても、「おカネを貸すことも考えてみようかな」という動機がそこには生まれます。
銀行にとって、「実績なし・赤の他人」である無借金経営は、なんともおカネを貸しにくい相手なのです。
《理由2》おカネを返した実績がない
借りたら返す、がルールであり。前述の《理由1》と対ではありますが、「返済実績の大切さ」についても触れておきます。
おカネを借りたら、約束通りに返す。これは当り前のことです。
実は、その当り前がすごく重要。約束通りにきちんとおカネを返し続けている、ということも、銀行にとっては安心材料のひとつなのです。
約束を守れる会社だ、という定性的な評価はもちろんですが。毎月〇万円の返済力がある、という定量的な評価もなされます。
長く会社を経営していれば、山もあれば谷もある。黒字もあれば赤字もあるでしょう。その中でも、約束通り、毎月〇万円を返し続けてきた実績。これは大きなものです。
そんな実績があれば。「いまは赤字だけど、黒字にして返すから」という会社の言葉を、銀行は信じることもできるでしょう。
《理由3》貸倒引当金を計上しなければならない
ちょっと難しい話になりますが。銀行は、状況の悪い融資先に対して、貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)という損失(経費)を計上しなければいけません。
将来、融資先が倒産して、貸したおカネを回収できないかもしれない。いわゆる「貸し倒れ」に備えて、見込の損失を計上することを貸倒引当金と言います。
ですから、赤字の会社におカネを貸し込んでいると。貸倒引当金の計上によって、銀行の業績は悪化してしまいます。
それを避けるために、銀行は赤字の会社を好まないわけです。
ましてや、新規の融資先が赤字で「いきなり貸倒引当金」の損失計上なんてことになれば・・・ どんな営業活動してくれちゃってんの!?というハナシです。
《理由4》他行の動向という情報がない
銀行は、他行(自分のところ以外の銀行)の動きも気にしています。
たとえば、融資先について、他行が融資額を増やしているとなれば。「ウチも負けてられんぞ」と融資を前向きに見たり。
逆に、他行が融資額を減らしているとなれば。「もしかして、アブナイの?ウチも引き揚げるぞ」という具合に、他行を追随したりします。
他行の動向も、銀行にとっては判断材料のひとつであり、重要な情報のひとつなのです。
にもかかわらず。無借金経営であるということは、その「他行情報」が無いということでもあります。これが銀行にとっての不安材料にもなるわけです。
「借りられるときに借りておけ」という正論
ここまでの話を受けて、無借金経営に対する提言をしておきます。それが、「借りられるときに借りておく」です。
おカネがなければ立ち行かない
おカネを借りるのは良くないことだ、という考え方があります。
たしかに。借りずに済むのなら、それに越したことはありません。しかしそれは、おカネの心配がない場合に限られた話です。
会社がどれだけ赤字になってしまった場合でも、まったく問題にならないほどのおカネがありますか?
何が起こるかなんて誰にもわからず、会社がどれだけ赤字になるかはわかりません。だけど問題ない、と言えるだけのおカネを持っている会社がどれだけあるのでしょうか。
中小零細企業に関して言えば。資金調達の手段は限られています。大企業とは違うのです。
会社におカネがなければ、経営者が個人のおカネをつぎ込むか、銀行からおカネを借りるか、というのが中小零細企業の資金調達です。
経営者個人のおカネといっても限りがあります。だからこそ、銀行からおカネを借りることができる道を残しておかなければいけないのです。
創業時、黒字のときに借りておく
「ずっと無借金経営、からの赤字」では、おカネを借りるのが難しい。であれば、借りられるときに借りておくことです。
その「借りられるとき」を端的に言うのであれば。それは次の2つです。
- 創業時
- 黒字のとき
創業時というのは、「実績」を考慮せずにおカネを借りられるチャンスがあります。国や制度のバックアップもあり、比較的借りやすい。
計画書という「見込」でおカネを借りることができるのが創業時です。
また、黒字のときもおカネを借りるチャンスです。赤字が嫌われるの対して、黒字には好感を持たれるもの。良い決算だったなぁ、というときには融資を考えてみましょう。
ムダ使いをしなければいいだけの話
さいごに少々。借りられるときに借りておく、と言うと。
借りたおカネは返さなければいけない。利息を払わなければいけない、という考え方が出てきます。
その通りです。
けれども、ムダ使いをしなければ、借りたおカネは返せます。
利息と言いますが、いざという時の安心料だと考える。経営者などが資金繰りに奔走せずに済むよう時間を買った、と考えれば。利息も決して高いものでもないでしょう。
借りられるときに借りておく、のはムダなようであってムダじゃない。無借金経営は理想のようであって理想じゃない。という側面を覚えておきましょう。
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まとめ
無借金経営の「アブナイ」側面についてお話をしてきました。
まことしやかに語られる無借金経営のすばらしさにも注意が必要です。
会社には「必要な借金」もある、という視点を持つと。無借金経営が最善だとは言い切れないことがわかります。
将来への備えとして。借りられるときに借りておく、という選択肢を持ちましょう。