「役員借入金」って、決算書にどう表示するの?
少なくとも、「短期借入金」はやめましょう。決算書の見栄えを悪くしてしまいます。「銀行」に対する決算書の見栄えです。
おカネを借りるかも、というのであれば。役員借入金をどう表現すべきか、というお話しです。
実は知らない、役員借入金が短期借入金ではいけない本当のワケ
会社が社長など役員からおカネを借りる、というのが「役員借入金」です。
会社と役員とは、法律上の別人格とはいえ。運命共同体とも言える関係にあるのが、会社と社長です。
会社のおカネがピンチなのであれば、社長個人のサイフから・・・ 資金調達手段が限られる中小零細企業では、決して珍しいことではありません。
そんな「役員借入金」ですが。決算書ではどう表示すべきか、計上すべきか?
それは細かい話のように見えて、実は大事なポイントです。なぜなら、「役員借入金」の表現いかんで、銀行融資の可否が分かれうるからです。
ということで、きょうのお話しの全体像はこちらです ↓
- 【問題】役員借入金が「短期借入金」では最悪な理由
- 【補足1】「長期借入金」でも不十分
- 【補足2】「役員借入金」でもまだ足りない
- 【結論】「役員借入金」をアピールせよ
役員借入金を「短期借入金」にはしないほうがいい、というのはよく言われるところですが。
実はその「本当の理由」までは語られないことが多く。【結論】では、その「本当の理由」にまで迫ります。
【問題】役員借入金が「短期借入金」では最悪な理由
それでは、はじめに問題提起も含めて。なぜ、役員借入金を「短期借入金」で決算書に表示してはいけないのか、についてお話しします。
財務分析、信用格付け上の理由から
役員借入金を「短期借入金」としないほうがよい理由として。財務分析や信用格付けを悪くしないため、ということが挙げられます。
これを端的に言うと。会社の「短期借入金」が増えると、流動比率やら、固定長期適合率やらといった、いわゆる「経営指標」が悪化するから。
銀行としては「良い会社」におカネを貸したいわけで、経営指標は良いに限る。
と、これに尽きるわけですが。えっ、それってどういうこと? という好奇心旺盛なあなた向けに、具体例も提示しておきます。
流動比率・固定長期適合率が悪化する、という具体例
流動比率とは、「流動資産 ÷ 流動負債 × 100(%)」で求められます。
流動資産とは、決算書のなかの「現金・預金、あるいは現金・預金化しやすい資産」だと思ってください。たとえば、現金・預金そのもの、売掛金(売上代金のツケ)、商品(在庫)など。
いっぽうで流動負債とは、決算書のなかの「すぐに返さなければいけない・支払わなくてはいけない負債」です。たとえば、買掛金(仕入代金のツケ)、そして1年以内に返済期日が来る短期借入金など。
あらためて、流動比率の算式の意味を考えてみると。すぐに返す・支払うべき負債に対して、すぐに現金化できる資産はどれだけあるかを示す指標であることがわかります。
この流動比率が高ければ高いほど、つまり、負債よりも資産のほうが多ければ多いほど。その会社は安全だよね、という見方になります。これを踏まえて具体例 ↓
《具体例》
- 流動資産 100、流動負債 100。これとは別に、役員借入金 30
- ケース1 ・・・ 役員借入金を短期借入金(流動負債)とする場合
- ケース2 ・・・ 役員借入金を短期借入金としない(流動負債としない=固定負債とする)場合
《解答》
- ケース1 ・・・ 流動資産 100 ÷ (流動負債 100 + 役員借入金 30)× 100 =77%
- ケース2 ・・・ 流動資産 100 ÷ 流動負債 100 = 100%
ということで。役員借入金を「短期借入金(流動負債)」としないケース2のほうが、流動比率は良くなります。
固定長期適合率は、流動比率の裏返しのような関係にあり。「流動比率が良ければ、固定長期適合率も良いのだ」という点の検証は、あなたの好奇心と学習意欲に委ねます。
【補足1】「長期借入金」でも不十分
そうかそうか、では役員借入金は短期借入金ではなく「長期借入金(固定負債)」にしよう。というのであればどうなのか?
財務分析、信用格付けだけでは済まされない
さきほどの【問題】で見たとおり。役員借入金を「長期借入金(固定負債)」で表示するのであれば、財務分析・信用格付けの問題はクリアできます。
ところが、実はこれだけでは「ほんとうにおカネを貸してもよい会社」かどうかはわからないのです。
財務分析・信用格付けよりももっと大事なこと、それは会社の「総負債よりも、総資産のほうが多いかどうか」です。
逆に、総資産よりも総負債が多いことを「債務超過」と言い。債務超過の会社を、銀行は極端に嫌います。
それもそのはず。債務超過とは、もしもいま会社が全資産をおカネに換えても、負債を払いきれないという状態なのですから。これ以上おカネを貸すのは危険です。
短期だろうが長期だろうが、負債は負債でしかない
銀行に対して債務超過の決算書はよろしくない、というのであれば。
役員借入金を「短期借入金」にしようと、「長期借入金」にしようと変わらないじゃないか。と気づいたあなたは正解です。
短期借入金も長期借入金も、いずれにせよ「負債」ですからね。
債務超過かどうかはともかく、銀行は負債が小さいことを好みます。できるだけ負債を減らし、資産を大きく見せることが、銀行融資にとっては大切です。
ではどうするか?
【補足2】「役員借入金」でもまだ足りない
負債がマズいというのなら。負債じゃない、と言おうじゃないか。というのが、ここからのお話しです。
期限なし、催促なしの役員借入金
ところで、役員借入金には、他の借入金・負債とは異なる特性があります。
それは「返済期限がない」ことです。もちろん、表面的には期限があったり、あるべきものなのですが。実質的には、返済期限はない場合がほとんどです。
だって、会社におカネが無ければ、優先すべきは従業員の給与、仕入先への支払い、銀行への返済、税金なのであって。社長はガマンを強いられるばかりです。返してくれ、と催促もできません。
それが実態だとすれば。役員借入金とは返済期限なし、催促なし。これって、もはや「資本金(会社への出資)」と変わらなくない? という見方があります。
「役員借入金≒資本金」説。これなら役員借入金は負債ではなくなるので、負債を嫌う銀行に対するイメージもばっちりです。
金融検査マニュアル、という大義名分
しかし、いくら実態とはいえ。「役員借入金≒資本金」説だなんて都合が良すぎるんじゃないの?
いえいえ、そうでもありません。「役員借入金≒資本金」説を後押しするものとして、金融庁が公表する「金融検査マニュアル別冊」というものがあります。
金融検査マニュアル別冊は、中小企業に特有の事情を踏まえた融資の実現を目指してつくられた経緯があり。そこには、「社長からの借入」は資本金と同等と見る、という事例が示されています。
当然、銀行もこのことは承知しているわけで。会社としては、これを利用しない手はありません。
決算書には「役員借入金」と表記する
以上から、役員借入金は決算書に「短期借入金」や「長期借入金」という勘定科目に含めて示すのではなく。「役員借入金」という単独の勘定科目で示したほうがよい、ということがわかります。
これに関することとして、税務申告書(決算書)には「勘定科目明細書」という書類が付属しています。各勘定科目について、内容の詳細が記された書類です。
だから決算書で「短期借入金」や「長期借入金」として表記したとしても、「勘定科目明細書」を見れば役員からの借入であることがわかるじゃないか。という主張もチラホラあります。
それはそうかもしれませんが。銀行が、わざわざ勘定科目明細書を見てくれるかどうかはわかりません。決算書の勘定科目だけを見て判断されるのであればオシマイです。
相手の善意に期待するのではなく、こちらが最善を尽くす。それが銀行融資を受ける者の姿勢であり、流儀です。
【結論】「役員借入金」をアピールせよ
役員借入金は、短期借入金でも長期借入金でもない。役員借入金はあくまで「役員借入金」なのだ、とわかったところで。決算書にそう表記するだけでもまだ足りない、というのがさいごのお話です。
借入金は借入金だ、と思われないために
せっかく金融検査マニュアル別冊まで持ち出し、決算書は「役員借入金」を単独表記までしたのにもかかわらず。
それでも銀行は、「借入金は借入金だ」と考えるかもしれません。いや、それ以前に。形式的に、表面的に見ておしまいかもしれません。
そう、銀行は決算書の上っ面だけで審査をしてしまうかもしれない。でもそれは困る、というのが「役員借入金を短期借入金にしてはいけない」ほんとうの理由なのです。
役員借入金の金額的インパクトが小さいのであればあきらめるにしても。インパクトが小さくない、資本金と見るか否かで債務超過か否かも変わってしまう、というような局面であきらめるわけにはいきません。
おカネが尽きれば、会社の命運も尽きてしまうのですから。やはり最善を尽くす姿勢が必要です。そこでできることが、「実態貸借対照表」の作成・提示になります。
「実態貸借対照表」のお出まし
そこで、銀行融資の際には。通常提示する税務申告書(決算書)に加えて、「実態貸借対照表」を作成・提示する方法があります。
実態貸借対照表とは、決算で作成された貸借対照表を、実態面を反映させるべく修正して作成する貸借対照表のことです。
役員借入金であれば、「これは資本金とみるべきですよ」ということで、その分の負債の額を減らし、資本の額を増額修正することを表現します。こんなカンジです ↓
ほかにも、実態面での修正はいろいろありえます。銀行にアピールしたいこと、誤解されたくないことを、まとめて「実態貸借対照表」に表現するのです。
ちなみにこれは、「銀行用の決算書をつくろう」みたいな二重帳簿的な意味合いではありません。正規の決算書をベースに、実態を表現しようという補足資料にすぎないことを申し添えます。
まとめ
『役員借入金』のもっとも正しい決算書表示法についてお話をしてきました。
なぜ、短期借入金ではいけないのか?ということからはじまり。なぜ、決算書で表現するだけでは不十分なのか?というところまで。
銀行の見方・考え方を理解して、「実態貸借対照表」の作成・提示など、最善を尽くした対応を心がけましょう。
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きょうの執筆後記
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