銀行が気にする経営指標ってどれなんだろう?
そうですね、流動比率だとか、売上高経常利益率だとかの「経営指標」というのも気になります。どの指標が良ければ銀行融資は受けやすいのか? そんな疑問もあるでしょう。
けれども銀行融資においては、経営指標を必要以上に気にする必要がない場面もあるのです。その場面や理由についてお話をしていきます。
銀行融資で必要以上に経営指標を気にしなくてよい3つの理由
決算書などの数字をもとに算出される経営指標。自社の状況把握・分析に、「経営指標」は役立つものでもありますが。
銀行融資の場面にあっては、流動比率がどうとか、売上高経常利益率がどうとか、経営指標を「必要以上」に気にすることはありません。
もちろん、まったく気にすることはない。とまでは言いませんが、「必要以上」に気にすることはない。そう考えています。
経営指標を気にするあまり、「こんな悪い指標では融資が受けられないかも」と自己判断するのも時期尚早。そういう場面・理由があるのです。
そんな、必要以上に経営指標を気にしなくてもよい理由とは? 次の3つです。
- 銀行が経営指標をとくに気にするのはプロパー融資のときだから
- 細かな経営指標よりも、もっと大きなモノを見れば事足りるから
- 数字がすべての世界ではないから
それぞれの理由について、このあと詳しく見ていきましょう。
《理由1》銀行が経営指標をとくに気にするのはプロパー融資のときだから
銀行は、その融資先を一定の基準により分類し、その分類に応じて「引当金(ひきあてきん)」という費用を計上しなければいけません。
この「引当金」は将来の回収不能に備えて計上する費用であり、業況が悪い融資先ほど、その融資残高には大きな引当金を計上するしくみです。
したがって、業況の悪い融資先に分類されるほど、引当金の計上が増え、銀行の利益は小さくなります。当然、銀行としては望ましくない事態です。
そこで、ぜひ業況の良い相手におカネを貸したいものだ、という発想になるわけです。引当金が小さくて済む、あるいはゼロで済むからです。
では業況の良否を判断するにはどうしよう? ここで「経営指標」が出てきます。各種多様な経営指標を用いて、業況の良否を見極めるわけです。
なぁんだ、やっぱり経営指標は必要じゃんか。という話ではありません。実は、業況の良否とは別に、引当金がゼロで済むケースがあります。
それは、信用保証協会の保証がついている融資のケースです。万一の際(融資先の破綻など)には、信用保証協会が肩代わりするのだから、引当金は無しでいいよ、と。
信用保証協会付きの融資であれば、銀行としては、引当金の心配はせずに済むわけです。銀行自身の業績悪化についての心配がない。
よって、銀行は「必要以上」に経営指標を気にしなくともよいことになります。であれば、融資を受ける側もまた、「必要以上」に気にすることはありません。
つまり、銀行が経営指標に対して神経質になるのは、保証協会付きではない銀行単独での融資、いわゆる「プロパー融資」のケースだと覚えておきましょう。
ちなみに、預金担保など優良な担保を確保している場合にも、引当金がゼロで済むケースがあります。
《理由2》細かな経営指標よりも、もっと大きなモノを見れば事足りるから
プロパー融資はもちろんですが、信用保証協会付きの融資であっても、融資先の「業況が悪過ぎる」のであれば銀行借入は難しくなります。
いくら銀行に引当金の心配が無いとは言っても、信用保証協会が「うん」とは言わないでしょうから。もともと回収が危ぶまれるような相手におカネを貸すわけにはいきません。
というわけで。おカネを貸しても大丈夫かな? という判断材料として、経営指標などに基づく融資先の分類を、完全には無視できないわけです。
その「融資先の分類」について、「債務者区分」という考え方があります。金融庁が定めた金融検査マニュアルをベースにした考え方であり、以下のとおりです ↓
区分 | 区分の基準 |
正常先 | 業況が良好、かつ、財務内容にも問題がない |
要注意先 | 業況が低調・不安定または財務内容に問題がある |
破綻懸念先 | 経営難の状態で、経営破たんの可能性が大きい |
実質破綻先 | 深刻な経営難で、再建の見通しがない |
破綻先 | 法的・形式的な経営破綻の事実がある |
見てのとおり、「区分の基準」があいまいで抽象的な部分もあることから。各銀行は現実的な運用に耐えられるよう、独自の「格付け」を準備しています。
金融検査マニュアルが定める「債務者区分」に対し、銀行独自の「格付け」を対応させるカタチです。たとえば、こんなふうに ↓
債務者区分 | 銀行の格付け |
正常先 | 1 |
2 | |
3 | |
4 | |
5 | |
6 | |
要注意先 | 7 |
8 | |
破綻懸念先 | 9 |
実質破綻先 | 10 |
破綻先 | 10 |
銀行は、融資先の決算書などから各種の経営指標を点数化し、上記のような「格付け」に当てはめる(総点数80なら格付けは4、とか)ことで、「債務者区分」を行います。
その結果として。銀行(信用保証協会も含めて)が融資をしても良いかな、と考えるのは。原則、正常先と要注意先までです。
つまり。破綻懸念先以下は、融資対象としては不適格。それが金融検査マニュアルの考え方であり、銀行の考え方です。
では、ウチの会社は要注意先以上なのかどうか? はっきり言ってわかりません。先述したとおり、銀行の「格付け」は銀行独自のものだからです。
ただ、はっきりとはわからないけれども、「大まかな目安」として言えることはあります。それが、 ↓
- 正常先 ・・・ 債務償還年数10年以内、債務超過ではない
- 要注意先 ・・・ 債務償還年数15年前後程度、債務超過はあっても軽微
債務償還年数 ・・・ 銀行借入金残高 ÷(当期純利益+減価償却費)
債務超過 ・・・ 資産の総額よりも負債の総額が大きい状態
この目安であれば、各種の経営指標を用いることなく、大まかにではあるけれど債務者区分を判断することはできます。
むしろ、経営指標を扱ったとしても。銀行独自の格付けの基準が不明である以上、正確な債務者区分もまたわからないと言えばわからないのです。
ウチの会社は要注意先以上なのかどうか? という問いについては、経営指標を用いるまでもなく「大まかな目安」による判断で事足りる、というお話でした。
またもしも、破綻懸念先以下だと考えられる場合には。経営指標の細部について「ああだこうだ」言っている場合ではありません。もっと、大局的・抜本的な取り組みを要します。
《理由3》数字がすべての世界ではないから
さきほどの《理由2》で、「債務者区分」は正常先もしくは要注意先でなければ、基本的に借入は難しいというお話をしました。
その「債務者区分」には、経営指標はともかくとしても、債務償還年数や債務超過の有無など、「数字」をもって満たすべき要件があるむねの話もしました。
が、「数字だけ」というわけでもありません。
債務者区分の判定にあたっては、数字ではかることができる「定量」的な要素と、数字でははかることができない「定性」的要素とに分かれています。
2つの要素に対するウェイトは、およそ7割以上(銀行により異なります)は「定量」的要素にあり、数字がモノを言う世界であることは確かです。
ただそれでも、残り3割以下の部分ではありますが、数字以外の面での挽回は可能だということです。
そういう意味では、「必要以上」に数字にこだわることはありません。残りの可能性を信じて、定性的要素のアピールにチカラを注ぐ道が残されている。
定性的要素の具体例としては、経営者の能力・人柄、会社が持つ独自の技術・ノウハウなど。
さらに。同じ数字でも、将来に関するアピールという方法もあるでしょう。実績の数字ではなく、予測(将来)の数字でアピールするのです。
経営指標は「実績」の数字に基づくものですが。経営計画書などにより、説得力のある将来を数字で描くことができれば、その将来性を評価してもらう余地が生まれます。
まとめ
銀行融資で必要以上に経営指標を気にしなくてよい3つの理由についてお話をしてきました。
- 銀行が経営指標をとくに気にするのはプロパー融資のときだから
- 細かな経営指標よりも、もっと大きなモノを見れば事足りるから
- 数字がすべての世界ではないから
経営指標が大事ではないとも、数字が大事ではないとも言いません。
いずれも大事なものではありますが、「必要以上」にこだわらないようにとのお話です。
細かな経営指標の良否に目を奪われ、木を見て森を見ず、にならないように。俯瞰的・総合的な視野で考えましょう。
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きょうの執筆後記
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