銀行が「決算書のコピーをくれ」と言っているけれど。「内訳書」はどうしよう?
できる限り、書類は渡さないほうが良いのでは… とも考えるものですが。決算書を求められたときの「内訳書」についてのお話です。
銀行に「決算書のコピー」と言われたら「内訳書」も渡すほかない
銀行は、融資の審査時に「決算書のコピー」を求めます。
融資の可否を検討するにあたり、数字(=決算書)はいちばんの材料だからです。
ちなみに、融資が実行したあとにも、定期的なチェックとして「決算書のコピー」が求められます。
このとき、銀行には「どこまでのコピーを渡せばいいのか?」と悩んではいませんか? とくに「勘定科目内訳明細書(通称、内訳書)」、コイツを渡すべきか否か…
内訳書は文字どおり、決算書に掲載された勘定科目の内訳が書かれた書類であり。銀行としては見たくて見たくてしかたないモノ、といったところです。
結論として、内訳書も渡すほかありません。
本記事は、会社(法人)向けです。個人事業者の融資では状況が異なりますのでご注意ください。
渡さなければ疑われるだけだから
銀行としては、「内訳書は決算書と一体」という理解です。
実際、税務署に提出する法人税申告書は、「税務申告書(「別表」と呼びます)」「決算書」「内訳書」がいっしょに綴じられています。
したがって「決算書」と言えば、内訳書もあわせてもらえて当然だと考えているわけです。
ゆえに、その内訳書をもらえないとなると。「なにかやましいことがあるのでは?」と、銀行は疑いを強めるばかりになります。
銀行に「決算書」と言われたら、基本的に「法人税申告書一式」です。つまり、「税務申告書(別表)+決算書+内訳書」です。
また、銀行は「その申告書がホンモノか?」も気にしています。具体的には、税務申告書の1枚め(別表一)に税務署の収受印があるかどうかを確認します。
電子申告の場合には、収受印の代わりに受信通知メールで確認します。
「一部を隠す」「一部を加工する」なんてやめておけ
内訳書を欲しがる銀行に対して。内訳書は見せたくないなぁ、と考える会社側にはたいてい「事情」があるはずです。
その「事情」として多いのが「粉飾」。銀行からの評価を上げるために、無理くり利益を水増しするのが粉飾決算です。
粉飾決算をしている場合、内訳書が粉飾を見破るカギになることは少なくありません。だから、銀行は内訳書を欲しがるし、会社は内訳書を見せたくない。その攻防戦です。
とはいえ、あからさまに「見せない」というのでは銀行から疑われてしまうから。それならば、と内訳書の「一部を隠す(渡さない)」「一部を加工する」といった暴挙にでるのはやめましょう。
もちろん、それらはやってはいけないことですし。そのような「小細工」をすれば、今度は「小細工の管理」をしなければならなくなります。
この書類は銀行に渡したんだっけ? どこを加工したんだっっけ? そんなムダな管理はやめましょう。
ムダなうえに、もしも小細工がバレたときには、取り返しがつかないほど信用に深いキズを負うことになります。
そもそも銀行は内訳書のどこを見ているのか?
明らかに粉飾をしている、という自覚がある場合とは別に。不用意な内訳書をつくって、知らないうちに銀行からマイナス評価を受けるということもありえます。
そんなことにならぬよう。そもそも銀行が内訳書のどこを見ているのか、を押さえておくことです。以下、主要なポイントをお話していきます。
預貯金等の内訳書
決算書に記載されている現金や預金の内訳が書かれた書類です。
これを見て銀行は、自行の実際の預金残高と内訳書の金額とが同じかどうかを確認します。当然に一致しているはずですが、万が一ズレていればとんでもないことです。
「預金残高を合わせる」のは、決算の初歩の初歩なのですから。それができていないのであれば、決算全体を疑われることになりかねません。気をつけましょう。
売掛金(未収入金)の内訳書
決算書に記載されている売掛金や未収入金の内訳が書かれた書類です。
銀行は、得意先(売上先)にどのようなところがあるか、特定の会社だけに集中しているか分散しているか、などをチェックしています。
それとは別に、「売掛金残高が前年と同じ」という得意先がないかも見ています。もしあれば「回収できない不良債権」とみなして、決算書に修正を加えることを検討します。
つまり、その売掛金という資産はないものとされる分だけ、銀行からの評価が下がることになります。このあたりは、見せ方しだいで…
仮払金(前渡金)の内訳書
決算書に記載されている仮払金や前渡金、立替金などの内訳が書かれた書類です。
仮払金を筆頭に、「使途不明のどこかアヤシゲなもの」として、とくに銀行の関心が高い内訳書だと言えます。
銀行としては、貸したおカネが「アヤシゲ」に使われていたのではかないませんから。経費にできない支払いを、仮払金やら立替金やらに突っ込んでいないかを見ています。
そもそも決算書に「仮払金」など載せないことです。1年の総まとめである決算書に、「仮」のものを載せるだなんてナンセンス。ということを覚えておきましょう。
貸付金及び受取利息の内訳書
決算書に記載されている貸付金や受取利息の内訳が書かれた書類です。
前述の「仮払金」などと同じく、アヤシゲでないかを銀行はチェックします。よくあるのは、社長への貸付金。
銀行は社長が使うおカネを会社に貸したりはしません(会社で使うおカネを貸すだけです)。であるにもかかわらず、「社長への貸付金」があれば、もう融資はできないと考えます。
経理を税理士に丸投げしていると、知らないうちに「社長への貸付金」が計上されていたという「事件」が起こることがあります。気をつけるべし。
棚卸資産(商品又は製品など)の内訳書
決算書に記載されている商品や製品、原材料など在庫の内訳が書かれた書類です。
ここでは、「不良在庫」や「架空在庫」がなさそうかをチェックしています。前年の内訳書と比べて、動きのない在庫は「不良在庫」を疑います。売掛金の不良債権と同じ考え方です。
また、ヒアリングなどとの組み合わせで、内訳書との違和感があれば「架空在庫」を疑います。
不良在庫も架空在庫も、内訳書に記載されたままでは会社を過大評価することになりますので。銀行は、不良在庫や架空在庫の確証が得られれば評価を修正しているのです。
借入金及び支払利子の内訳書
決算書に記載されている借入金や支払利子の内訳が書かれた書類です。
預金同様に、銀行は自行の実際の借入金残高と、内訳書が一致しているかを確認します。まぁ、これは念のためといったところです。
本題はここから。銀行が知りたいのは他行の動きです。知らないうちに他行が融資を伸ばしていたり、逆に回収をはかっているようなことがないかが気がかりなのです。
各銀行からの融資残高に大きな変動があるような場合には、説明を加えておくことをおすすめします。いろいろ推測で誤解されてもナンなので。
また、ノンバンクその他、いわゆる「高利貸し」からの融資がないかもチェックしています。高利貸しに頼るのは、銀行に頼れないほどに状況が悪い会社だと銀行は評価します。
役員報酬手当等及び人件費の内訳書
決算書に記載されている役員報酬や給料、賃金などの内訳が書かれた書類です。
銀行がとくに注目しているのは、社長およびその一族への役員報酬です。役員報酬が多すぎないか(多すぎて赤字)、少なすぎないか(少なすぎて黒字)、という眼で見ています。
いずれにしても「過ぎれば」利益に影響するわけですから。必要に応じて、利益額に修正を入れることがあります。
「過ぎる」ことに会社側で心当たりがある場合には、内訳書についての事情説明を積極的に行うとよいでしょう。
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まとめ
銀行から『決算書のコピー』と言われたら内訳書はどうするか? についてお話をしてきました。
内訳書については、結論、ぜんぶお渡しするしかありません。
渡したくないという事情があるのであれば、決算の時点でしっかりと解決をしておくべきです。
記事中で触れた「銀行が内訳書のどこを見ているか」にも注意をしながら、内訳書は「事前」に対応しましょう。