法人成りする場合、個人事業での銀行借入はどうしたらいいの?
というわけで。どうしたらいいかの方法に加え、法人成りする場合に気をつけるべき「銀行融資」の注意点についてお話をしていきます。
法人成りする「前」に、まずは銀行と要相談
個人事業から会社を起こして法人化。いわゆる「法人成り」について。
個人事業での銀行借入がある場合には注意が必要です。
法人成りをするにあたり「その借入をどうするか」によって、事前に銀行との調整が必要になるからです。
「その借入をどうするか」の選択肢として、次の3つが挙げられます↓
- 個人で完済しておしまい
- 個人でいったん完済して、法人であらたに借りる
- 法人が個人事業の銀行借入を引き受ける
上記のうち、①であれば「銀行との調整」で問題になることはありません。ただ返済をするだけです。
ですが、現実には完済しておしまいにできるほどおカネの準備がないケースも少なくないでしょう。この場合、必然的に②または③の選択肢をとることになります。
「銀行との調整」が問題になるのは、その②③のケースです。このあとそれぞれのケースについて見ていきましょう。
「②法人であらたに借りる」の問題点
このケースでの問題点は、法人があらたに銀行融資を受けられるかどうかはわからない、というところにあります。
個人事業で融資を受けられたのだから、その個人事業が法人化した会社だって融資を受けられるだろう。という考えは誤りです。
なぜなら銀行から見て、融資をしていた個人事業主と、その個人事業主が法人成りして起こした会社とは「別モノ」だからです。
事実、個人事業主とその個人事業主が法人成りして起こした会社は、法律上も「別人格(=別モノ)」とされています。銀行だけが「別モノ」扱いをしているというわけではありません。
したがって、「法人であらたに借りる」ということは、「法人であらたに融資審査が必要になる」ことを意味します。
法人の状況や、返済能力、保証人・担保などさまざまな要素から、あらためて銀行の審査を受けることになります。
その結果、融資不可ということはありえる。この点に注意が必要です。
よって、「②法人であらたに借りる」のケースでは、法人で借りればいいとタカをくくらずに、事前に銀行に相談をするようにしましょう。
「③法人で借入を引き受ける」の問題点
法人成りをした会社が、個人事業での銀行借入を引き受ける。できるかできないかで言えば、「できる」です。
個人事業での借入を会社が引き受けることを「債務引受」と呼びます。個人名義での借入金を、法人名義での借入金に変更するのが債務引受です。
ただし、「債務引受できるかどうかは銀行しだい」という点に注意が必要です。必ずしも希望どおりにいくとは限りません。
理由は前述した「②法人であらたに借りる」と同じです。個人事業主とその個人事業主が法人成りして起こした会社は「別モノ」だから。
よって、やはり事前に銀行への相談が必要であるということに注意しましょう。あとになってから債務引受はできませんでした、ではタイヘンです。
債務引受には、「重畳的債務引受」と「免責的債務引受」の2種類があります。
「重畳的債務引受」とは、もともとの個人事業主を連帯債務者として、法人が債務を引き受ける方法です。実際に返済をするのは法人ですが、もともとの個人事業主も債務を免除されているわけではありません。
「免責的債務引受」とは、法人が単独で債務を引き受ける方法です(原則、もともとの個人事業主が連帯保証人)。法人に相当な評価がなければ難しい方法です。
債務引受における「会計・税務」の注意点
個人事業での借入を法人が引き受ける「債務引受」について、事前に銀行との相談・調整が必要であることをお話してきました。
続いての注意点として、債務引受をする際の「会計・税務」面での注意点について見ていきます。
「引き継ぐ資産よりも負債が大きい」に注意!
個人事業から法人成りをする場合、事業に関する資産と負債とを個人から法人に引き継ぎます。
資産で言えば、たとえば商品、売掛金、固定資産など。負債で言えば、買掛金、未払金、借入金など。
このとき、法人が個人事業から引き継ぐ負債の金額が、資産の金額よりも大きい場合には注意が必要です。
資産よりも負債が大きい分、つまり「負債の金額 − 資産の金額」が「貸付金」になります。この「貸付金」に注意が必要です。
ここで言う「貸付金」とは、法人から見て、もともとの個人事業主に対する貸付金ということです。
法人が引き継いだ負債が資産よりも多かったということは、個人が負うべき負債を法人が肩代わりしたことを意味しています。ゆえに法人としては「肩代わりした分は返してね」というハナシです。
したがって、いずれ個人から法人におカネを返さなければいけないということに注意しましょう。
上述した「貸付金」について、個人が法人に返済をしないということになると。税務上「役員賞与」として扱われます(貸付金の替わりに)。
詳細は省きますが、結論として、役員賞与は法人側では経費になりません。また、個人の側では所得税の対象になります。要注意です
「引き継ぐ資産のほうが負債よりも大きい」なら?
前述したケースとは逆に、法人が個人から引き継ぐ資産のほうが負債よりも大きい場合はどうなるか。
「資産の金額 ー 負債の金額」が「借入金」になります。
ここで言う「借入金」とは、法人から見て、もともとの個人事業主に対する借入金ということです。
法人が引き継いだ資産が負債よりも多かったということは、その多かった分だけ、法人から個人への未払いがあることを意味しています。
したがって、個人としてはいずれ法人からおカネを返してもらえることになります。
法人成り後における銀行融資の注意点
さいごに。法人成りをしたあと、あらたに銀行融資を受けようという場合の注意点について触れておきます。
「法人のほうが銀行融資を受けやすい」という話がありますが。必ずしもそうではない、というお話です。
「役員報酬を見誤って赤字」に注意!
ちまたには「個人事業よりも法人のほうが銀行融資を受けやすい」という話があります。
理由としては、個人事業よりも法人のほうが社会的信用が高いとか、銀行から見て審査がしやすい、といったところが挙げられます。
それはそれでそのとおりなのですが。そもそもの「前提」が崩れてしまうと、その「受けやすさ」などなんの意味もなくなってしまいます。
その「前提」とは、「黒字である」ということ。銀行融資を受けるにあたっての大前提は、業績が黒字であることです。
この点で、法人成りにともない役員報酬(もともとの個人事業主・現社長への給料)の設定を見誤ると赤字になり、「前提」が崩れます。
これは、法人の第1期目などによく見られるものです。
赤字の決算になれば、向こう1年、次の決算までは「赤字の決算書」で銀行から評価をされることになります。つまり、1年間は融資を受けることは非常に困難になります。
法人成り後にも、銀行からの融資を考えているのであれば、役員報酬の設定には十分に注意をしましょう。
法人における役員報酬に対して、個人事業主には給料という考え方がありません。
よって、個人事業主には給料(経費)が無い分だけ利益が大きくなります。結果、個人事業主であれば黒字なのに、法人成りすると赤字ということが起こりえます。
この場合、個人事業主であるほうが銀行からの評価という点では良かった、とも言えます。
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まとめ
法人成りする場合に気をつけるべき「銀行融資」の注意点についてお話をしてきました。
個人事業で銀行融資を受けている状態で、法人成りをする際には、事前に銀行と相談・調整をお忘れなく。
また、法人のほうが銀行融資が受けやすいというハナシにも、役員報酬の設定で注意が必要です。
法人成りをする際にはシミュレーションをするなどして気をつけましょう。