銀行が融資を検討するために見ている貸借対照表。見ているのは貸借対照表そのものだけではありません。
貸借対照表とその「外側」にある、含み益・含み損にも注目していますよ。というお話です。
銀行は貸借対照表の外側にある「含み益・含み損」を見る
融資を受けるにあたり、会社は銀行から決算書の提示を求められます。
その決算書の中にある「貸借対照表」を、銀行はどのように見ているのか?
銀行は、貸借対照表の表面的な数字だけを見ているわけではありません。
貸借対照表には載らない、貸借対照表の外側にある「含み益・含み損」まで見ていますよ。というお話をしていきます。
そもそも銀行が貸借対照表から知りたいこと
「含み益・含み損」の話をする前に。そもそも銀行は貸借対照表からなにを知りたいのか、について押さえておきましょう。
銀行が貸借対照表から知りたいこと。それはズバリ、「債務超過になっていないか?」ということです。
「債務超過とは何か?」と言うと。資産よりも負債のほうが大きい状態、それが債務超過になります。「資産は、負債とは?」についてはこうなります↓
- 資産 ・・・ おカネそのもの、またはいつかおカネに換えられる「プラスの財産」
具体例)現金・預金、商品の在庫、売上に伴う売掛金、パソコンなどの備品など
- 負債 ・・・ いつかおカネを減らすことになる「マイナスの財産」
具体例)仕入に伴う買掛金、各種経費などの未払金、銀行からの借入金など
整理すると、債務超過とは、「資産=プラスの財産」よりも「負債=マイナスの財産」が大きい状態だということです。
これは、資産のすべてをおカネに換えても、負債のすべてを返済することができないことをあらわしています。
そんな債務超過の会社は、おカネを貸す側の銀行から見れば「アブナイ会社」です。アブナイ会社におカネを貸したくはありません。
ゆえに、銀行は貸借対照表を眺めて、「債務超過になっていないか?」を確認しているのです。
ようやく「含み益・含み損」のハナシ
銀行は貸借対照表を見て、「債務超過を確認している」ということがわかったところで。ようやく、冒頭で触れた「含み益・含み損」についてです。
グダグダと説明をするよりも、例題で示したほうが早そうなのでこちらをどうぞ ↓
【例題】次の会社は「債務超過」かどうかを判定しなさい。
- 貸借対照表に計上されている資産は、土地 1,000のみ。負債は、借入金 500のみ
- 貸借対照表に計上されている土地の金額は購入時の金額。現在の価格(時価)は400、空き地として未利用状態
さぁ、どうでしょう? 債務超過かな、どうかな、と考えてみましょう。
まずは①の情報から、貸借対照表の債務超過を確認すると ↓
- 資産・土地 1,000 > 負債・借入金 500
- ゆえに、債務超過ではない
というわけで。この会社は債務超過ではない、という判定です。
ところが、問題は②の情報です。土地の金額については、貸借対照表では 1,000ですが、時価で見ると 400。差額で 600の価値が目減りしている。これが「含み損」です。
この含み損をふまえて、もういちど債務超過について検討します ↓
- 資産・土地 1,000 ー 含み損 600 < 負債・借入金 500
- ゆえに、債務超過である
こんどは一転、債務超過に陥りました。このように「含み損」を考慮したうえでの債務超過のことを「実質債務超過(または実態債務超過)」と呼びます。
ちなみに。含み損の逆バージョンとして含み益があります。買ったときよりもいまは値上がりしている、というようなケースです。実質債務超過では、この含み益と含み損とを考慮します。
はい、ここでとても大事なことを言います。こちら ↓
銀行は、貸借対照表の表面的な債務超過ではなく、含み益・含み損をふまえた実質的な債務超過を見ている。
銀行はただただ貸借対照表の数字を見ているわけではありません。
貸借対照表には載らない、貸借対照表の外側にある「含み益・含み損」まで見ています。と、冒頭お話したのはそういうことです。
それではこのあと、「よくある含み益・含み損」について見ていきましょう。
よくある含み益・含み損
実質債務超過を検討する際に、よく登場する含み益と含み損を挙げてみます。
商品の在庫
貸借対照表に計上されている商品の在庫について、「含み損」が生じているケースがあります。
たとえば。貸借対照表には、商品在庫 1,000と計上されているが、実際には売れ残りで陳腐化して価値が無いような商品。含み損 1,000です。
したがって、銀行は「貸借対照表の在庫金額は実態に合っているのか?」を気にしています。在庫金額が百万円単位など大きい場合にはとくに。
また、実際には無い在庫を有るとする「架空在庫」も含み損を抱えているのと同じです。
銀行員が在庫について会社にヒアリングをしたり、倉庫などの現場を見たいというのは、このあたりの真相を確認したいという思惑があったりします。
売掛金
長いあいだ回収できない売掛金(売上の未回収金)が、そのまま貸借対照表に計上されている場合。
「もう回収できないだろう」という判断をすれば、その回収できだろう売掛金の金額は「含み損」です。
銀行は、決算書に添付されている「勘定科目内訳明細書」を数年分並べてみるなどの方法により、売掛金の含み損をあぶり出そうとします。
貸付金
前述の売掛金と似たような考えのものに「貸付金」があります。
会社が誰かしらに貸し付けたおカネが、長いあいだ回収できていない状況であれば。やはり、「もう回収できないだろう」と判断します。
つまり。回収できないだろう貸付金の金額は「含み損」の扱いです。
ちなみに。会社が社長や関係会社におカネを貸し付けている場合、回収できる・できない以前に問題です。
銀行は「貸したおカネが社長個人や別な会社に流れてしまう」と考え、そんな会社に融資はできないと考えるからです。気をつけましょう。
土地(未利用・遊休)
前述した例題のケース。昔に購入した土地が、値下がりをしているような場合。「含み損」です。逆に、値上がりしていれば「含み益」ですね。
ここでのポイントは、その土地が「未利用か、遊休か」を確認すること。
結論として、未利用・遊休であれば、含み益・含み損を考慮します。そうでない場合には、含み益・含み損は考慮しません。
たとえば。工場の敷地である土地に含み損がある場合。事業に必要な工場のために利用中ですから、売却により含み損が実現することはないと考えます。よって、含み損は無視。
いっぽう、空地になっている土地の含み損はと言うと。すぐにでも売れる土地であり、サッサと売っておカネにしたほうがいいでしょうと考えて、含み損を考慮します。
有価証券
会社が買った株式や債券、投資信託などの有価証券があれば。その時価によって、含み益・含み損を考慮することになります。
上場株式などのように、はっきりとした「時価」があるものもあれば、非上場会社の株式などのように時価がよくわからないものもあります。
よくわからない例としてよくあるのは、子会社へ出資した際の株式。銀行は子会社の決算書の提示を求めます。子会社の決算書から、子会社株式の価値を探ろうというわけです。
たとえば、子会社が債務超過であれば。子会社株式の価値はゼロと見る、そんな感じです。
含み益あるアピール、含み損は無いアピール
含み益・含み損の具体例を見てきましたが。
銀行は、会社から提出された貸借対照表を見て、「勝手に」含み益・含み損を考慮しての債務超過を確認しています。
「じゃあ、銀行に任せとこか」というのでは、あまりに呑気に過ぎるというものです。
勝手に考慮した含み益・含み損が、現実とかけ離れていることがないとは言えません。
融資を受けたい会社側としては、含み益があることをアピールし、含み損が無いことをアピールしましょう。
もう少し具体的に言うと。含み益がある資産は、自ら積極的に含み益を計算して、根拠とともに銀行へお知らせする。
また、本当は含み損が無いのに、含み損と見られそうな資産についてはあらかじめ説明をしておく。
含み損があるとしても、過大な含み損ととられないように、自社で計算した含み損の金額を根拠とともにお知らせすることです。
融資を受ける側は、とにかく債務超過を避けること。債務超過ではない場合でも、資産が負債を上回る金額をできるだけ大きくすること。それが融資を近づけるコツです。
まとめ
銀行が見ている、貸借対照表の外側にある「含み益・含み損」についてお話をしてきました。
貸借対照表は、銀行に渡せばよいというものではありません。渡して終わりではありません。
銀行が考慮しそうな含み益・含み損について、こちらが先回りしてアピール・説明をすることも検討しましょう。
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きょうの執筆後記
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