銀行が新規の融資をしてくれない、既存の融資条件をきびしくしてくる・・・
って、それ。粉飾を疑われているのかもしれませんよ。銀行に粉飾を疑われないように気をつけたい、貸借対照表5つのポイントについてお話をします。
税務署は「脱税」を疑い、銀行は「粉飾」を疑う
会社・事業の決算書を「見せる」相手として、税務署と銀行が挙げられます。
税金の申告をするために税務署へ、融資を受けるために銀行へ。決算書を提出することになります。
このとき税務署はその決算書を見て、「利益を不当に少なくしていないか?」を疑っています。つまり、「脱税」をしていないかを疑っています。
いっぽうで銀行は。税務署の逆、「利益を不当に水増ししていないか?」を疑っています。つまり、「粉飾」を疑っているのです。
なぜ銀行は粉飾を疑うのか?
銀行は「仕事」として、会社・事業におカネを貸しています。「奉仕」で貸しているわけではありません。
よく「貸し渋り」などと言われることがありますが、預金者からあずかった大切なおカネが「融資の原資」なのですから。貸し渋るのもむべなるかな、といったところです。
したがって、「貸したおカネを返してもらえそう」な相手にのみ、銀行は融資をすることになります。
その「返してもらえそうか」の判断基準が、「利益」であり、利益の積み重ねである「純資産」です。利益の大きな会社、純資産が大きな会社を銀行は信用します。
であるならば。銀行が警戒するのは、利益の水増しである「粉飾」です。粉飾を見逃せば、実態以上の「利益」と「純資産」にダマされることになる。
だから、銀行は「粉飾」を疑うのです。
バレないように粉飾をしよう! じゃなくて。
そうかそうか、銀行は利益・純資産の大きな会社を信用するのか。では、バレないように粉飾を・・・ って、ちがいます。そうじゃない。
本記事でお伝えしたいメッセージはこちらです ↓
銀行に誤って粉飾を疑われないように、粉飾が疑われやすいポイントを押さえておこう!
銀行は「これは粉飾だっ!」と思っても、よほどヒドい粉飾(とても悪質・とても多額など)でないかぎりは「アンタ粉飾したね?」とまでは言いません。
粉飾への疑いを胸にしまったまま、その会社・事業への融資姿勢をきびしくするだけです。
たとえば。新規の融資申し込みはお断りする。既存の融資の利率を上げようとする。これまで返済期限に同額借り換えを認めていた手形貸付の回収をはかる。などなど。
心当たりはありませんか? もしあるのなら、粉飾を疑われているのかもしれません。
とはいえ。ほんとうは粉飾なんてしていないのに、あらぬ疑いをかけられる不利益は避けたいもの。
ですから、銀行が粉飾を見抜く際の「ポイント」を理解しておきましょう。誤解を招きそうなポイントがあれば、こちらからしっかりと説明をして疑いを晴らしましょう。
というわけで。このあと、銀行に粉飾を疑われないように気をつけたい貸借対照表5つのポイントについてお話をしていきます。
銀行が粉飾を疑う貸借対照表5つのポイント
銀行に提出をする決算書のなかに含まれる書類のひとつ、「貸借対照表」。ここから粉飾が疑われるポイントが5つあります。
《ポイント①》現金
ひとつめは「現金」です。この「現金」の金額を確認しましょう。
貸借対照表に「現金」として単独で記載をされているケースもありますが、「現金預金」として預貯金と合算されているケースもあります。
合算されている場合には、税務申告書の付属物である「勘定科目内訳明細書」にて、「現金預金」の内訳から「現金」の残高を確認しましょう。銀行もそのように見ています。
で。その現金の金額ですが。ミョーに大きな金額になっていたりはしませんか?
通常、仕事をするうえで手元に置いておく現金はそれほど多くはないはずです。一般的に見れば、多くても数十万円でしょう。
これに対して、ウン百万円の現金残高が計上されていると粉飾が疑われます。ほんとうは費用などで出金したものを、経理上は処理をしていないのではないか。などと疑われます。
したがって、ほんとうに現金をたくさん持っている場合(たとえば、たまたま決算日間際に売上代金の現金回収があった)には、その事情を銀行に伝えるようにしましょう。
《ポイント②》売掛金
2つめは「売掛金」です。ここでは、売掛金の「金額」そのものではなく、売掛金が月商(年間売上高 ÷ 12ヶ月)の何ヶ月分あるかをチェックです。
銀行は、この「売掛金が売上の何ヶ月分あるか」を必ず見ています。なぜなら、売上を水増しするという粉飾をすれば、「◯ヶ月分」は膨らんでいくからです。
実際に入金は無いのに決算書の売上を増やすという粉飾では、未入金の売上として売掛金を増やすしかないのですね(実は、ほかの大技もあるにはあるけれど・・・)。
そこで銀行は、その会社・事業の決算書を数年分並べてみて、「◯ヶ月分」がヘンに増加していないかを確認しています。
あわせて、同業他社のデータとも比較をし、その「◯ヶ月分」が妥当な水準といえるかどうかも確認しています。
ですから、「◯ヶ月分」が増加傾向にあるとか、業界水準よりも高いとかいうときには、やはりそれらの事情を銀行に伝えるようにしましょう。
べつに粉飾をせずとも、決算日近くに大口(平均月商を大きく上回る)の掛売上があったりすれば「◯ヶ月分」は膨らむこともあるのですから。
受取手形の扱いがある場合には、売掛金と同様に考えます。つまり、「売掛金+受取手形」で「◯ヶ月分」を見ます。
《ポイント③》在庫
3つめは「在庫」です。貸借対照表では、「商品」「製品」「仕掛品」「材料」「貯蔵品」などの名称で計上されています。
銀行は、この「在庫」の金額についても、「在庫が売上の何ヶ月分あるか」という眼で見ています。前述した売掛金といっしょです。
いわゆる「簿記」的なハナシなので詳述は避けますが、在庫を増やして利益を水増しするのは粉飾の常套手段。
実際にはありもしない在庫を、決算書の上だけで「ある」ように装うと利益が増加するんですね。へぇ〜スゴいですねぇ、ってやってはいけませんよ。
とにかく銀行は、在庫の「◯ヶ月分」についても、数年分の決算書で確認し、同業他社平均との比較で確認をしていることを覚えておきましょう。
悪意ある粉飾でなくとも、決算日間際に在庫を増やすことはあるわけです。急な発注に備えるとか、セールでまとめ買いしたとか。きちんと銀行に説明をしましょう。
《ポイント④》貸付金・仮払金
4つめは「貸付金」と「仮払金」です。似た者同士なのでワンセット。
銀行員の方々に「いちばんキライな勘定科目はなんですか?」と聞いて回ったら、ワンツーフィニッシュを決めるのがこの「貸付金」と「仮払金」です(実際に聞いて回ってはいないけど)。
なぜなら、ほんとうは費用に計上しなければいけないものを「貸付金」や「仮払金」にすることで、利益を水増ししているのではないか? と疑っているんですね。
また、「貸付金」にいたっては、「それ返してもらえるの?」とも疑っています。貸した先が社長であったりすると貸しっぱなしということもあり。
返してもらえない貸付金なら、不良債権でしょ。損失でしょ。利益の水増し、純資産の水増しでしょう。と、つながります。やれやれ。
というわけなので、貸借対照表に「貸付金」がある、「仮払金」があると言うのなら。その内容については、よくよく銀行に説明をしておきましょう。
「貸付金」ならば、返済する意思(契約書など)・返済の実績(通帳の履歴など)も示せるように。
なお、「仮払金」についてはそもそも決算書に載せるようなモノではありません。「決算」なのに「仮」のままだなんて、経理の機能不全を疑われるばかりです。カッコ悪いのでやめましょう。
《ポイント⑤》固定資産
5つめは「固定資産」です。貸借対照表では「建物」「機械」「車両」「器具備品」など。
ポイントは「減価償却」が必要な固定資産、というところにあります。
「減価償却」というのもまたまた簿記的なハナシなので詳しくは省きますが。上記に挙げたような固定資産は、時間の経過とともに価値が減少します。
その価値減少分を固定資産の金額に反映させるテクニックが減価償却です。
したがって、貸借対照表に計上された固定資産は、減価償却をした金額だけ毎年減っていくことになります(あたらしい固定資産を買って、金額が増えない限り)。
ですから、毎年の決算書を並べてみて、固定資産の金額がアヤシイ(減価償却分減っていない!)となれば粉飾を疑われるわけです。
実際には、貸借対照表に加えて、損益計算書の「減価償却費」の金額、税務申告書に付属する固定資産台帳をもってチェックされます。
粉飾を意図して減価償却をしない、というのでは銀行への説明の余地はありませんが。説明の余地がないわけでもない、というケースがひとつあります。
それは、「税務上の繰越欠損金」との兼ね合いで減価償却を見送るケース。利用期限がある税務上の累積赤字を消化するために、減価償却をしないというケースです。
この場合には、かくかくしかじかで「節税」のために減価償却をしておりません、と銀行には説明を。少しは汲んでくれるかもしれません。少しは。
どんな理由があれ、減価償却をしないのは、業績(過去も含めて)が芳しくないことの現れでもあり。銀行融資に関して言えば、やはり減価償却はすべき、というのが結論です。
「税務上の繰越欠損金」については解説をすると長くなるので、「それってなに? ウチはどうなってんの?」という場合には顧問税理士などに質問をしてみましょう。
まとめ
銀行に粉飾を疑われないように気をつけたい貸借対照表5つのポイント、についてお話をしてきました。
- 現金
- 売掛金
- 在庫
- 貸付金・仮払金
- 固定資産
バレない粉飾をするためではなく、粉飾を疑われないために。「銀行の見方」を理解するようにしましょう。
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きょうの執筆後記
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