” 自己資金? じゃあ、ちょっと誰かから借りてこようか ”
って、それ。自己資金ではありませんし、すぐにバレてしまいますよ。というわけで、創業者が間違える「自己資金とは」の事例についてお話をします。
創業者が間違える「自己資金とは」の事例5選
事業をはじめる際、欠かすことができない資金調達手段が「創業融資」です。
事業が軌道に乗るまでには時間がかかるものです。そのあいだをしのぐためのおカネを、創業融資で確保するのです。
そんな創業融資を受けるにあたって必要なモノに、「自己資金」が挙げられます。
たとえば。創業融資の代表格である日本政策金融公庫の新創業融資制度では、「ご利用いただける方」について次のような指定があります ↓
創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいいます。)を確認できる方
【日本政策金融公庫・新創業融資制度の概要】より抜粋
上記を言い換えると、自己資金の9倍まで融資ができますよ、となります。
ただし、現実に融資を受けることができるのは、自己資金の2〜4倍くらいまで。9倍などというのは、よほどのイレギュラーケースです。
このことからわかるのは、自己資金が多ければ多いほど、受けられる融資の額も大きくなる(ことが期待できる)ということ。
また、「自己資金が無い」となれば、融資を受けることは難しい。あるいはムリだ、ということです。
では、ここで言う「自己資金」とはいったいなんなのか?
そんなもん、「じぶんのおカネ」に決まってんだろうが。と、言われるかもしれませんが。
実は「自己資金か否か」をめぐっては、創業者と銀行とのあいだで、しばしば意見の食い違いが起きています。創業者が自己資金の理解を間違えているからです。
というわけで。具体的な「自己資金の間違い事例」についてお話をしていきます。次の5つです ↓
- 見せガネ
- 領収書
- 資本金
- タンス預金
- 退職金・親からの贈与
それではこのあと、順番に見ていきましょう。
《間違い①》見せガネ
自己資金の間違い事例、1つめ。それは、「見せガネ」です。
たとえば、友人などから一時的に借りてきたおカネを、さもじぶんのおカネであるような顔をして「自己資金」だと主張する。いわゆる「見せガネ」です。
これは当然、自己資金とは言えないわけですが。創業融資の可否を審査する銀行は、創業者に預金通帳の提示を求め、見せガネかどうかのチェックをします。
このとき、融資審査直前に他人名義の振込入金などがあると、「これって、見せガネなんじゃないの?」というハナシになってしまいます。
つまり。「自己資金がある」とは、「じぶんの通帳に残高があること」を言うのではありません。正しくは、「誰にも返さなくていいおカネがあること」です。
銀行は、融資をするおカネが事業に使われず、誰かへの返済にあたってしまうことを警戒しています。見せガネは、その最たる例です。
じぶんの手持ちがないから、ちょっと借りてくればいいか。という自己資金は通用しないことを覚えておきましょう。
《間違い②》領収書
銀行に自己資金を主張するには、「証拠」が必要です。たとえば「預金通帳」、というのは前述をしたとおりです。
この点で、「領収書」を自己資金の証拠として提示する、という間違いがあります。
具体的には、創業融資の審査を受けるまえに支払った開業準備費用などの領収書。そこに記載された金額は実際に支払ったのだから自己資金があったということだろう、という主張です。
たしかに、領収書をもって、「支払いの事実」は証明できます。ところが、その支払原資が「ほんとうに自己資金だったのか」どうかはまた別のハナシです。
どこからか一時的に借りてきて支払っただけかもしれない、銀行はそう考えています。だから、領収書では自己資金の証明をすることはできないのです。
したがって、証拠を提示するのであれば「預金通帳」です。
さきほどの例で言うと、開業準備費用の支払いをする前の預金残高。これが、「誰にも返さなくていいおカネだ」ということを提示・説明しましょう。
《間違い③》資本金
創業融資を受けようとするのが「法人(会社)」という場合に、登記された資本金の金額をもって自己資金だ、と主張をするヒトがいますが。これも間違いです。
法務局に登記されているんだから、こんなにちゃんとした証拠もないだろう。と言うのであれば、これまでのお話がムダになってしまいます。
繰り返しますが、自己資金とは「誰にも返さなくていいおカネ」です。
たとえ創業者が出資者だとして登記されていても、その出資の原資はどこからか借りてきたおカネかもしれない。やはり、銀行はそう考えます。
ですから、「登記事項証明書(登記簿謄本)」を見せても自己資金の証明にはなりません。
必要なのは、創業者が出資したおカネの出どころがわかる「預金通帳(創業者個人の)」です。その通帳のなかで、出資をしたおカネが「誰にも返さなくていいおカネ」であったことを説明しましょう。
《間違い④》タンス預金
ここまで、自己資金を主張するには「預金通帳」がだいじであることをお話してきました。この点について、いわゆる「タンス預金」には注意が必要です。
銀行に預け入れることなく手元に置いている現金、つまり、タンス預金は「自己資金」とは見てもらえないのです。
銀行預金であれば、「銀行」という第三者によって、おカネの存在が証明されます。ところが、タンス預金には、第三者による証明がありません。
したがって、ほんとうに現金を持っているとしても、その現金の存在を証明するものは無く。銀行は、タンス預金を自己資金としては認めません。
このことへの対策としては、少しでも早く、タンス預金を銀行口座に預け入れることです。
預け入れたのち、時間が経過すればするほど、「誰にも返さなくていいおカネだ」という証拠力が大きくなります。
融資審査の直前に預け入れたのでは証拠力が不足することを覚えておきましょう。
《間違い⑤》退職金・親からの贈与
自己資金は「誰にも返さなくてよいおカネだ」と言いました。これについて、もっとも銀行からの心象・評価がよいのは「コツコツ貯めてきたおカネ」です。
具体的には、創業前、毎月のお給料が銀行口座に振り込まれ、生活費などの支払いがありながらも、少しづつ残高が積み上がっていく。そんな預金通帳であれば、自己資金としては最高です。
創業に向かってまじめにコツコツ貯金できるようなヒトを銀行は好みます。事業に対する熱意、創業者としての自覚を、「コツコツ貯金」の事実から読み取っているのです。
これに対して。たしかに「誰にも返さなくてよいおカネ」なのだけれど、「コツコツ貯金」には劣るなぁ。というものもあります。
ひとつは「退職金」です。創業前、会社をやめるときにもらった退職金。これが、自己資金の大部分を占めるようだと、「コツコツ貯金」は無かったということになります。
ゆえに、「誰にも返さなくてよいおカネ」ではあるのだけれど、一時金である退職金では、創業者の姿勢としてちょっと心もとないかなぁ… と銀行は考えます。
そしてもうひとつは「親からの贈与」です。創業するにあたって、親から援助してもらいました、というもの。
これも、退職金と同じですね。「誰にも返さなくてよいおカネ」ではあるのだけれど、他人頼みといのは創業者の姿勢としてはやはり心もとない。
ちなみに。贈与のときには、親の預金通帳についても銀行への提示資料の対象であることは心得ておきましょう。親がどこからか借りてきたおカネを贈与しているだけかも、銀行はそう考えます。
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まとめ
創業者が間違える「自己資金とは」の事例についてお話をしてきました。
自己資金とはなにか、銀行は自己資金をどのように確認するか。このあたりを理解していないと、創業融資を受けることは難しくなります。
自己資金の有無・自己資金の金額の大小は、創業融資の成否を分ける重要な要素だからです。
そんな自己資金について間違いがないように、きちんと押さえておきましょう。
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きょうの執筆後記
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