” 税金を払うくらいなら経費で使う ”
と言うのであれば。100万円節税して3,000万円の銀行融資を失う会社のハナシ、について知っておきましょう。
100万円節税して3,000万円の銀行融資を失ったA社
税理士という仕事をしていると。次のようなハナシをよく見聞きします ↓
決算日まで残り1ヶ月となったA社。今回の決算での予測利益と予測税額は下記のとおり ↓
- 予測利益 ・・・ 500万円
- 予測税額 ・・・ 125万円(税率 25%)
これを見たA社社長は、「税金が高い。節税だ節税っ!」と叫ぶのでした。
要は、税金を払うくらいなら経費を使え、ということです。
このままでは税金を 125万円も払わなければならないことにガマンならない社長は考えました ↓
「そうだ! 残り1ヶ月で 400万円の経費を使おう。そうすれば、100万円の節税ができるぞ」
これを「節税」と呼ぶかどうかはともかく。たしかに、税金を 100万円減らすことができます(経費 400万円 × 税率 25% = 100万円)。
めでたし、めでたし。おしまい。
・・・
では済まされない、大きな「落とし穴」が潜んでいる。これに社長は気づいているのかどうか? というのが、このあとのお話です。
さきに結論を言います ↓
A社は、100万円の節税をしたことによって、3,000万円の銀行融資を失います。
ここで言う「銀行融資」とは、銀行から融資を受けられる余地であり、言い換えるならば「資金調達力」です。
100万円の節税をしたばかりに、実に 3,000万円もの銀行融資が受けられなくなるかもしれない。
これがどれほどの一大事であるかは、経営者であればわかるはず。銀行融資は、中小零細企業にとって、唯一無二とも言える資金調達手段なのですから。
というわけで。いまお伝えをした「結論」の解説をはじめましょう。
節税をすると、なぜ銀行融資を失うのか?
100万円の節税をしたことで、3,000万円の銀行融資を失う。
この結論を理解するためには、「債務償還年数」という考え方が必要なので、まずはそちらから ↓
債務償還年数 = 借入金残高 ÷ (税引後利益 + 減価償却費)
つまり。いまの利益(税引後利益 + 減価償却費)ペースだと、いまある借金(借入金残高)をあと何年で返済できそうか? を示すのが「債務償還年数」です。
話をできるだけシンプルにするために、税引後利益に「減価償却費を加算する」部分はいったん忘れることにします ↓
債務償還年数 = 借入金残高 ÷ 税引後利益
これでも、このあとの話の本質にはなんら影響ありませんのでご安心を。
税金を払ったあとの利益(税引後利益)が、借金を返済する原資になる。ということを押さえておきましょう。
銀行が考える「債務償還年数 < 10年」
債務償還年数について、銀行には「10年未満であるべし」との考え方があります。
言い換えると、「借入金残高 ÷ 税引後利益 < 10」。これを、銀行は「融資ができるかどうか」の目安にしているのです。
いまの利益ペースで、完済までに 10年以上かかるようだと「貸しすぎ」かなぁ、もう貸せないかなぁ、と考えている。ということになります。
ここで、この債務償還年数を、別の角度から見てみましょう。さきほどの算式「借入金残高 ÷ 税引後利益 < 10」をすこし変形します ↓
借入金残高 < 税引後利益 × 10
上記からは、「税引後利益の10倍までなら借りられそうかなぁ」ということがうかがえます。
もちろん、銀行から借りられるか否か・いくらなら借りられるか、を決める要素はほかにもありますが。「税引後利益の10倍まで」がひとつの目安だ、と言えます。
100万円節税をした場合・しなかった場合を検証する
これまでの話を受けて、冒頭のA社について、100万円の節税をした場合・しなかった場合の検証をしてみます ↓
100万円節税する | 100万円節税しない | 差額 | |
税引前利益 | 100万円 | 500万円 | ▲ 400万円 |
税金(税率 25%) | 25万円 | 125万円 | ▲ 100万円 |
税引後利益 | 75万円 | 375万円 | ▲ 300万円 |
予測利益である 500万円について、400万円の経費を使って税金を 100万円減らすのが、上記の表の「100万円節税する」の列になります。
結果、その右隣の列「100万円節税しない」に比べると、節税をしたことで、税引後利益には 300万円の差額が生じています。
これをふまえて、前述した「税引後利益の10倍まで」という融資の目安を見てみましょう ↓
100万円節税する | 100万円節税しない | 差額 | |
税引後利益 | 75万円 | 375万円 | ▲ 300万円 |
税引後利益 × 10 | 750万円 | 3,750万円 | ▲ 3,000万円 |
「税引後利益の10倍まで」が銀行融資における目安なのですから、節税による税引後利益 300万円の差を 10倍すると 3,000万円になります。
これが、「100万円の節税をしたことで、3,000万円の銀行融資を失う」とお話した理由です。
税引前利益 500万円の決算であれば、3,750万円が銀行融資を受けられる目安になる。いっぽうで、節税をはかって税引前利益 100万円の決算だと、その目安は 750万円にまで下がってしまう。
したがって。節税をするのはいいとしても、税金が減る代わりに、銀行融資を受けるチカラもまた減ることを、決して忘れてはいけません。
節税で失うモノは、銀行融資だけではない
「100万円の節税をしたことで、3,000万円の銀行融資を失う」というお話をしてきました。
ところが、まだ終わりではありません。節税をしたことで、A社はさらに失っているものがあるのです。
それを確認するために、前述の表を再掲します ↓
100万円節税する | 100万円節税しない | 差額 | |
税引前利益 | 100万円 | 500万円 | ▲ 400万円 |
税金(税率 25%) | 25万円 | 125万円 | ▲ 100万円 |
税引後利益 | 75万円 | 375万円 | ▲ 300万円 |
注目するのは表の最下段「税引後利益」です。
税引後利益とは、税金を支払ったあとの利益。言い換えるなら、最終的に手元に残るであろうおカネの金額をあらわしています。
そのうえで、もういちど上記の表を見てみると。
100万円節税をしたことで、税金は 100万円減りはしたけれど。手元に残るおカネ(税引後利益)は 300万円も減ったことがわかります。
つまり。減った税金の額以上に、手元のおカネは目減りしているということです。理由は、400万円の経費におカネを使ったから。
400万円の経費を使うことで、将来の収入や利益が見込めるのであればよいですが。ただただ経費を使った(ムダ使い)ということになると、節税も「おカネを失くすだけ」にしかなりません。
節税で手元のおカネが少なくなる、ということは。その後に、おカネが不足する可能性が高くなります。
ところが。前述したとおり、節税をすると「銀行融資を失う」のですから、不足するおカネを融資でカバーすることは難しい状況です。
おカネが無いうえに、借りることもできない。これは、とても恐ろしいことです。
「税金を1円も支払わない」ことの代償
さいごに、もうひとつだけ付け加えておきます。
もしもA社が、「ただの1円も税金を払いたくない!」と、税引前利益を 0円になるまで経費を使ったとすると ↓
1円も税金を払わない | 節税しない | 差額 | |
税引前利益 | 0万円 | 500万円 | ▲ 500万円 |
税金(税率 25%) | 0万円 | 125万円 | ▲ 125万円 |
税引後利益 | 0万円 | 375万円 | ▲ 375万円 |
税引後利益 × 10 | 0万円 | 3,750万円 | ▲ 3,750万円 |
ポイントは最下段の「税引後利益 × 10」です。1円も税金を払わない場合には、「税引後利益 × 10」はゼロです。
これがなにを意味するのか、わかりますよね。
A社には返済原資が1円もない。であるならば、1円も融資を受けることができない、ということです。
それでも実際には借りられた、というケースはあるでしょう。しかし、それも限られたレアケースであり、期待をすべきものではありません。
おカネを貸す側の銀行にしてみれば。返済原資が1円もない(税引後利益がゼロ以下)ような相手に、おカネを貸せるわけがないのです。
銀行は、困っている会社におカネを貸すのではありません。きちんと返してもらえそうな会社におカネを貸すのです。
この理屈を覚えておきましょう。
そうすれば、目先の税金を嫌うあまり、安易な節税をしてしまう… ということもなくなるはずです。
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まとめ
100万円節税して3,000万円の銀行融資を失う、ということについてお話をしてきました。
「税金は払いたくないけど、おカネは借りたい」は成り立ちません。
節税をするのであれば、銀行融資とのバランスにはじゅうぶんに注意をするようにしましょう。