個人事業者・フリーランスが、銀行融資を受けようとする場合。
「借入できそうか、できなさそうか」の目安となる決算書のチェックポイントについて、お話していきます。
決算書から見る「借入できそうか、できなさそうか?」
個人事業者・フリーランスが、事業について銀行融資を受けようという場合。
「借入できそうか、できなさそうか?」については気になるところでしょう。
そこで。銀行が融資審査の際に重要視する「決算書」について、銀行融資を受けられるか否かの目安をお話していきます。
具体的には、次の3つのチェックポイントをクリアすることができるかどうかが、その目安になります ↓
- キャッシュフロー > 0
- 元入金 + 青色申告特別控除前の所得金額 > 0
- 借入金 ÷ キャッシュフロー < 10
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
じぶんの決算書を片手に、お読みいただくのがおすすめです。
銀行融資を受けることができるかどうかは、「決算書のみ」を持って決まるものではありません。たとえば、決算書の内容が悪くても、担保・保証が充実しているために融資を受けられることもあるでしょう。
それでも、決算書が融資審査のうえでは大きなウエイトを占めることから、決算書のチェックポイントを理解することは有用です。
なお、創業融資の際には、そもそも決算書がないのですから、別の観点での融資審査になることを申し添えます。
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個人事業者の銀行融資における決算書チェックポイント
《チェック1》キャッシュフロー > 0
まずは「キャッシュフロー」とはなんなのか? を算式であらわしてみます ↓
キャッシュフロー = 差引金額 + 減価償却費 ー 社会保険料 ー 所得税・住民税 ー 生活費
なんじゃこりゃ? と思われるかもしれませんが。くわしくは、このあと解説を加えます。
それはそれとして。
上記の算式から求められる「キャッシュフロー」 が、借りたおカネを返済する原資になる。ということを押さえておきましょう。
返済原資なのですから、もしもキャッシュフローがゼロを超えなければ。それは、1円も返済できないことをあらわし、つまりは、1円も借りることができないことをあらわします。
ゆえに、「キャッシュフロー > 0」であることが、銀行融資を受けるにあたっての重要なポイントになります。
キャッシュフローの金額が大きければ大きいほど、銀行融資が受けやすくなるのは言うまでもありません。
以上を押さえたうえで、さきほどの算式の「各要素」について解説を加えます ↓
差引金額
税務署に提出する「青色申告決算書」の1ページめ。「損益計算書」の「33. 差引金額」の金額を拾い出しましょう。
「差引金額」を言い換えると、「収入 ー 仕入 ー 経費」です。つまり、個人事業者が事業で稼ぎ出した「利益」をあらわします。
その「利益(差引金額)」の分だけ、おカネが残っているはず。そのおカネこそが返済原資、ということで。「キャッシュフロー」の計算は「差引金額」からはじまります。
減価償却費
税務署に提出する「青色申告決算書」の1ページめ。「損益計算書」の「18. 減価償却費」の金額を拾い出しましょう。
前述した「差引金額」の計算上、「減価償却費」はマイナスをされています。
ところが、「減価償却費」はおカネを支出する経費ではないので(経費計上時ではなく、購入時におカネを支出済みなので)、返済原資として足し戻している。
というのが、算式上の「+ 減価償却費」が意味するところです。
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社会保険料
税務署に提出する「所得税の確定申告書B」の「第一表」。左下の「12. 社会保険料控除」の金額を拾い出しましょう。
これは、毎年支払う社会保険料の金額ですから、返済原資にはできないということで、「差引金額(利益)」からマイナスをすることになります。
所得税・住民税
税務署に提出する「所得税の確定申告書B」の「第一表」。右上の「42. 所得税及び復興特別所得税の額」の金額を、「所得税」の金額として拾い出しましょう。
また、同表の右上「26. 課税される所得金額」に 10%を掛け算した金額を、「住民税」の金額として拾い出しましょう(※ 注)。
( ※ 注 事業における収入のほかに不動産の売却などがある場合には、別の方法で計算しなければいけません)
これらは、毎年支払う税金の金額ですから、返済原資にはできないということで、「差引金額(利益)」からマイナスをすることになります。
生活費
さいごに、生活費も「差引金額(利益)」からマイナスをしなければいけません。生活をするうえでのおカネまで返済原資に充てることはできないので。
住居費・食費・衣服費・娯楽費その他、プライベートで使っているおカネを「生活費」として計算してみましょう。家計簿をつけていれば、すぐに金額がわかるところです。
《チェック2》元入金 + 青色申告特別控除前の所得金額 > 0
「元入金 + 青色申告特別控除前の所得金額」とは、会社の決算書で言うところの「資本(純資産とも言う)」をあらわします。
税務署に提出する「青色申告決算書」の4ページめ。「貸借対照表」の右下に、「元入金」と「青色申告特別控除前の所得金額」が縦に並んでいます。それぞれの金額を拾い出しましょう。
「資本」については、「資本 = 資産 ー 負債」という「会計の世界ではポピュラーな算式」に置き換えることができます。
したがって、「元入金 + 青色申告特別控除前の所得金額 > 0」は、「資産 ー 負債 > 0」と意味合いとしては変わりません。
さらに「資産 ー 負債 > 0」は、「資産 > 負債」と変形することできます。
このことから、「元入金 + 青色申告特別控除前の所得金額 > 0」とは、「資産 > 負債」と同じだと言えます。
「資産 > 負債」、つまり、「負債よりも資産が大きい」ことが、銀行融資を受けるにあたっての重要なポイントになります。
当然、「元入金 + 青色申告特別控除前の所得金額」が大きければ大きいほど、銀行融資が受けやすくなります。
逆に、資産よりも負債が大きい状態を「債務超過」と言います。
手持ちの資産をすべて売却して現金化しても、負債を返済できないのですから極めて危険な状態だ。ということで、「銀行は債務超過を嫌う」ことを覚えておきましょう。
《チェック3》借入金 ÷ キャッシュフロー < 10
ここで言う「借入金」とは、いま現在における銀行などからの借入金残高を指します。
税務署に提出する「青色申告決算書」の4ページめ。「貸借対照表」の右上に「借入金」の欄があります。金額を拾い出しましょう。
その「借入金」を、《チェック1》で前述した「キャッシュフロー」の金額で割り算します。
割り算した結果、「借入金 ÷ キャッシュフロー < 10」であることが、銀行融資を受けるにあたっての重要なポイントになります。
ちなみに。「借入金 ÷ キャッシュフロー < 10」の意味を言葉で表現すると、「いま現在残っている借入金を 10年未満で返済できる」です。
《チェック1》でお話をしたとおり、「キャッシュフロー」とは返済原資。1年間で返済にまわせるおカネの金額が「キャッシュフロー」です。
よって、「借入金 ÷ キャッシュフロー」は、「いま現在残っている借入金を 何年で返済できるか」をあらわしていることになります。
この点で、10年以上なら貸しすぎだからもう貸せない。10年未満ならまだ貸せる(かなぁ)。というのが銀行が考える目安です。
もちろん、「借入金 ÷ キャッシュフロー」が小さければ小さいほど、銀行融資が受けやすくなります。
キャッシュフローの金額が大きいほど「借入金 ÷ キャッシュフロー」は小さくなりますから、キャッシュフローの有無がいかに大切かがわかるところです。
3つのチェックの結果と銀行融資の可能性
ここまで、3つのチェックポイントを見てきました。再掲します ↓
- キャッシュフロー > 0
- 元入金 + 青色申告特別控除前の所得金額 > 0
- 借入金 ÷ キャッシュフロー < 10
個人事業者・フリーランスが、融資を受けることができるかどうかは、上記3つの結果によります。
3つのチェックポイントすべてをクリアできているのであれば、融資を受けられる可能性は高いと言えます。
2つあるいは、1つだけクリアできているということだと。プロパー融資は無理ですが、日本政策金融公庫や信用保証協会付きの融資であれば可能性があります。
誤解を恐れずに言えば、日本政策金融公庫や信用保証協会は、比較的に審査のハードルが低めです。
なお、3つともクリアできず… だと、いずれの融資も受けられる可能性は低いでしょう。
なお、ひとことで「クリア」と言っても、「余裕でクリア」というケースもあれば、「ギリギリクリア」というケースもあります。そこは、ていど加減です。
余裕でクリアのほうが融資の可能性は高まるし、ギリギリクリアのほうが融資の可能性は低くなる。
ということで。じぶんの決算書を見ながら、銀行融資を受けることができそうかを考えてみましょう。
たとえば、売掛金のなかに「もう回収はできないけど放置してある(損失計上していない)」ものがあると、銀行が気づいた場合。
銀行は、回収不能分の損失額を計上した場合の決算書を前提に、融資の可否を審査します。つまり、銀行は決算書の「表面」的な数字だけを見ているわけではありません。
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まとめ
個人事業者の銀行融資における決算書チェックポイントについてお話をしてきました。
銀行の融資審査では、決算書の内容が大きなウエイトを占めます。
「借入できそうか、できなさそうか」の目安となる決算書のチェックポイントを押さえておきましょう。