”役員借入金って、銀行融資では負債から除いて考えるんだよね”
たしかに、原則はそうなのですけれど。意外な落とし穴がある「役員借入金」の注意点についてお話をしていきます。
資産よりも負債が多い会社を銀行は嫌う
会社が銀行から融資を受けている、あるいは、融資を受けようとする際。銀行から「決算書」の提示を求められます。
決算書が、融資をするか否かの判断材料になっているからです。
この点で、銀行が決算書を見るポイントはいくつかありますが、なかでも重要なものとして「債務超過ではないか?」が挙げられます。
債務超過とは、貸借対照表の「資産の総額」を、「負債の総額」が上回っていることを言います。
つまり。資産よりも負債のほうが多い会社はアブナイから融資はできないよね、と銀行は考えるわけです。
一発逆転の「役員借入金」?
負債として「役員借入金」が掲載されている貸借対照表があります。社長から会社がおカネを借りている、というようなケースです。
その役員借入金は、多くの場合、「会社におカネがあるときに社長に返す」状況にあります。
銀行からの借入のように、「毎月〇〇円ずつ必ず返済する」ということもなければ、そのような約束をしていないことがほとんどです。
したがって。「(役員)借入金」とは言いながらも、返済しなくていいのだから、もはや「資本金(出資)」と同じだろう。と考えることができます。
銀行もまた、そのように考えています。具体的には、債務超過かどうかの判定をする際、役員借入金を負債の額から除くのです。
これによって、貸借対照表の表面的には債務超過であっても、多額の役員借入金があるような場合には、資産超過に一転することも少なくありません。
これで銀行も融資をしてくれるだろう。いやぁ、よかった、よかった。
と言うにはまだ早い。実は、手放しで安心はできない「役員借入金の注意点」があるからです。注意点は次の3つです ↓
- おカネのでどころを怪しまれることがある
- 銀行から借りられないから? と見られることがある
- 利益を減額補正される可能性がある
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
銀行融資における「役員借入金」の注意点
《注意1》おカネのでどころを怪しまれることがある
さきほど、銀行融資では「役員借入金は負債から除く」という考え方についてお話をしました。原則はそのとおりです。
ところがもしも、役員借入金の「おカネのでどころ」がアヤシイ場合にはどうでしょう?
わかりやすく極端な例で言えば。社長がサラ金やヤミ金のようなところからおカネを借りてくる。そのおカネを会社に貸し付けているような場合です。
結論として、どこかに返さなければいけないような役員借入金は、負債から除くことはできません。
返済をしなければならない借入なのですから、負債から除くことはできない。と考えるわけです。
また、銀行からしてみれば。融資をしたおカネが、役員借入金の返済に回ってしまうのでは困ります。さきほどの例で言えば、サラ金・ヤミ金への返済のためにおカネを貸すわけにはいかないのです。
したがって、役員借入金が増加をしている場合、そのでどころを銀行から確認をされることがあります。確認をしないまでも「でどころが怪しくはないか?」と銀行は考えています。
これまでの社長の役員報酬などからみて、不相応・不自然な金額(要は多額)を会社に貸し付ける場合にはとくに、銀行から怪しまれることを覚えておきましょう。
実際にでどころがアヤシイかどうかは別にして、銀行の見方を知っておくことが大切です。
《注意2》銀行から借りられないから? と見られることがある
役員借入金が増加している貸借対照表を見て、銀行はこんなことを考えることがあります ↓
” もしかして、銀行から融資を受けられなくてやむをえず、社長がおカネを貸し付けたのでは…? ”
つまり。決算書には現れないようなところに問題(たとえば社長個人の多重債務、ローン・クレジットカードの支払遅延)があるなどして、銀行から融資を受けられない。
そのような問題をウチの銀行が見逃しているのではないか? だったら融資はできない。と、銀行は考えるわけです。
損益計算書が大赤字・貸借対照表が大きく債務超過など、決算書の状態が明らかに悪くて融資が受けられない。というのであればわかります。
ところが、決算書はそれほどに悪くはない。融資を受けようと思えば受けられるようだ。このようなケースでの役員借入金は、銀行から疑われる可能性があるということです。
話が少々それますが、こういうときに「無借金」は銀行融資に悪影響を及ぼします。
銀行から見たときには、銀行から融資を受けている(借金がある)ことは、ひとつの「信用」です。「融資を受けている会社=銀行からおカネを借りられるだけの信用がある会社」なのです。
逆に、無借金の会社は、ときに「信用がないから借りられない会社」だと見られます。たとえ決算書の数字がよい会社であっても、です。
決算書には現れない問題もあるのですから、それを疑われてしまったら疑いを晴らすことは困難です(決算書には表わせない)。
結果として、融資が受けられない・受けにくくなります。無借金は必ずしもよいわけではないことに注意が必要です。
《注意3》利益を減額補正される可能性がある
《注意1》で、貸借対照表の債務超過について触れました。ここでは、損益計算書についてのお話です。
損益計算書に掲載されている役員報酬(たとえば社長の役員報酬)が少ない場合。銀行は、会社の利益を補正することがあります。
例を挙げると。社長の役員報酬が月額 10万円の会社があったとします。損益計算書の利益は 100万円です。
これを見た銀行が、「どう考えても役員報酬 10万円じゃ生活できないだろう。少なく見ても月額 20万円は必要だ」と考えて、役員報酬を月額 20万円に補正することがあります。
損益計算書の表面上の利益は 100万円でしたが、役員報酬補正分の 120万円(10万円 × 12ヶ月)を減額して、「ほんとうは 20万円の赤字だ」となります。
このように利益を減額補正されることになれば、当然、融資は受けにくくなります。
ではここで、役員借入金を絡めた例を挙げてみます。さきほどと同じく、社長の役員報酬は月額 10万円。社長からの役員借入金を毎月 20万円返済している会社はどうでしょう。
毎月 20万円の役員借入金返済は役員報酬みたいなものであり、役員報酬 10万円と合わせた月額 30万円が、実質的な役員報酬額なんじゃないの? 役員報酬 10万円では生活できないんでしょ?
と、銀行から見られる可能性があります。この場合、損益計算書の利益から役員報酬補正分の 240万円(20万円 × 12ヶ月)が減額されることになります。
役員借入金を返済したことが、役員報酬が過少であることの証明になってしまった。というケースです。
誤解のないように申し添えると、役員借入金の返済が絶対に利益補正の対象になるわけではありません。借りたおカネを返すのはあたりまえなのですから。
とはいえ、返済時の状況によっては利益補正の可能性がある、ということは押さえておきましょう。
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まとめ
銀行融資における「役員借入金」の注意点についてお話をしてきました。
貸借対照表に掲載されている役員借入金があるからといって、必ずしも「負債から除く」ことができるわけではありません。
また、利益の減額補正の対象になることもあります。注意をしておきましょう。
- おカネのでどころを怪しまれることがある
- 銀行から借りられないから? と見られることがある
- 利益を減額補正される可能性がある