かつてはあたりまえだった「短期継続融資」。その後いちどは姿を消したものの、ふたたび「短期継続融資」が注目されています。
というわけで。銀行から短期継続融資を引き出して、資金繰りを改善しましょう!というお話をしていきます。
銀行から短期継続融資を引き出して、資金繰りを改善しましょう!という話
銀行から「短期継続融資」というものを引き出し、会社・事業の資金繰りをもっとよくしましょう。というのが、本記事の結論です。
その結論に向かって、そもそも短期継続融資とは? から話をはじめて、短期継続融資を銀行から引き出すにはどうすればよいか、まで順番にお話をしていきます。
いまこそ知っておきたい「短期継続融資」とは?
まずはじめに、短期継続融資とはそもそもどのような融資なのかについてお話をします。
短期継続融資=所要運転資金分の短期融資
端的に言うと、短期継続融資とは「所要運転資金分の短期融資」です。
ちなみに、「所要運転資金(経常運転資金、正常運転資金などとも呼ばれる)」とは。算式であらわすと「売掛金・受取手形 + たな卸資産 − 買掛金・支払手形」です。
つまり、短期継続融資とは。「売掛金・受取手形 + たな卸資産 − 買掛金・支払手形」分の金額に対する「短期の融資」ということになります。
これを図解にしてみると、こういうことですね ↓
ひとまずは短期継続融資の「全体像」をイメージできたところで次に進みましょう。
所要運転資金=資金繰りに必要なおカネ
さきほど、短期継続融資の対象は「所要運転資金(売掛金・受取手形 + たな卸資産 − 買掛金・支払手形)」だ、と言いました。
その所要運転資金について。会社は、所要運転資金分のおカネを用意しておかないと、資金繰りが破綻してしまいます。
なぜならば、ということで。まずは所要運転資金に含まれる「売掛金」について考えてみましょう。
売掛金・受取手形は、お客さまからの「売上代金の入金待ち」の金額です。この「待ち」のあいだにも、会社は社員の給料やら事務所家賃やら、「経費の支払い」が必要になります。
それら経費の支払いに耐えるためには、売掛金・受取手形分のおカネがなければいけませんよね。
また、たな卸資産(在庫)は、売掛金・受取手形のさらに前段階で「売上待ち」の金額です。いずれ販売され、売掛金・受取手形となり、「売上代金の入金待ち」となります。
たな卸資産がおカネに変わるまでのあいだにも、やはり「経費の支払い」があるのですから、たな卸資産分のおカネが無いと資金繰りは厳しくなります。
ゆえに、所要運転資金の算式には「売掛金・受取手形 + たな卸資産」が含まれているのです。
なお、買掛金・支払手形は、売掛金・受取手形とは逆に「支払待ち」の金額ですから、待っているあいだは手元におカネが残ることになります。
ですから、所要運転資金の算式では「売掛金・受取手形 + たな卸資産」からマイナスをしているわけです。
こうして計算された所要運転資金の金額は、「資金繰りで破綻をしないために必要なおカネ」だということになります。
短期融資と言いながら、実は返済無し
所要運転資金の説明で寄り道をしていましたので。ここでいまいちど復習です ↓
短期継続融資とは「所要運転資金分の短期融資」、でした。
ここで気になるのは「短期」の融資だということ。
さきほど、所要運転資金とは「資金繰りで破綻をしないために必要なおカネ」だと言いました。
この所要運転資金分のおカネは、会社・事業を続けているあいだずっと必要になるおカネですよね。
にもかかわらず。短期で融資を受けて返済をしていたのでは、たちまち資金繰りに窮してしまいます。ダメじゃん… ということですが、短期融資の実際の運用は次のとおりです ↓
- 期限が1年以内の手形貸付で融資する
- 期限を迎えると、銀行は審査をしたうえで融資を継続する(手形を更新する)
- 会社は利息を支払い、元本の返済は無し
というわけで、短期融資と言いながらも、実際には「返済無し」。短期融資の状況が継続する、すなわち、「短期継続融資」なのです。
短期継続融資は、言わば返済不要の「資本金」のようなもの。これであれば、会社も資金繰りで破綻をすることなく安心です。めでたし、めでたし。…ではないんですね、これが。
現状、短期継続融資を実際に受けている会社はとても少ないのです。いったいなぜ? について、次にお話をします。
消えた短期継続融資、ふたたび現れる短期継続融資
現状、短期継続融資を実際に受けている会社はとても少ない。代わりになにが起きているのかと言うと、こういうことです ↓
” 所要運転資金分について、信用保証協会付きの毎月返済(証書貸付)で融資をしている ”
問題は2つあります。ひとつは、「信用保証協会付き」であること。もうひとつは「毎月返済(証書貸付)」です。
「毎月返済」が資金繰りを破綻させる
本来、所要運転資金分の融資は「短期継続融資」とすべきところを、「毎月返済の融資」になったらどうなるか?
返済をするたびに、資金繰りが悪くなっていきますよね。
会社・事業を続けていく限り、ずっと必要になる所要運転資金分のおカネを借り入れたはずなのに。それを毎月返済していたのでは意味がありません。
また、短期継続融資の対象は所要運転資金です。そのなかには、売掛金・受取手形とたな卸資産が含まれています。
近い将来に現金化することが見えている、現金化する確実性が高いモノなのですから、無担保・無保証とすべきです。
そこを「信用保証協会付き」って… というのが、短期継続融資における現状です。
なんでこんなことになってしまったのか?
ではなぜ、短期継続融資が、信用保証協会付きの毎月返済融資になってしまったのか。
2002年、金融庁が示した見解(金融検査マニュアル別冊の改定)がきっかけだと言われています。
その見解とは、「所要運転資金を超える金額の短期継続融資は不良債権でしょ」というものでした。
銀行はこの見解(とくに「不良債権」の部分)に反応し、短期継続融資はやめるという方向に舵を切ることになります。
短期継続融資が不良債権だと見られてしまえば、銀行は引当をしなければならず(銀行の業績が悪くなる)、それを避けるためです。
その結果、かつては「短コロ」「経常単名」などとも呼ばれ定着していた短期継続融資は、「信用保証協会付きの毎月返済融資」に姿を変えました。
前述したとおり、「信用保証協会付きの毎月返済融資」には資金繰りを安定させるチカラはなく、多くの会社が資金繰りに窮することとなります。
金融庁が叫ぶ「短期継続融資よ、もういちど」
さすがにこの状況はマズい… と考えた金融庁は 2015年、ふたたび短期継続融資に関する見解(金融検査マニュアル別冊 事例20を追加)を示します。
所要運転資金について短期継続融資で対応すること自体にはなんら問題がない、との見解です。
これでようやく流れが変わるだろうと思われたのですが、いちどできた流れはなかなか変えられれず… というのが現状です。
それでも。金融検査マニュアルの廃止や事業性評価融資という、さらなる金融庁の後押しもあり、流れは確実に変わりつつあります。
現状、所要運転資金分について「信用保証協会付きの毎月返済融資」となっているところにも、今後は短期継続融資の可能性が高まっていくでしょう。
そこで、さいごに短期継続融資を受けるためにはどうするか? についてお話をしていきます。
短期継続融資に必要なのは「銀行とのコミュニケーション」
決算書からは知りえない情報を銀行に伝える
かつて金融庁は「所要運転資金を超える金額の短期継続融資は不良債権」の見解を示した、と前述しました。
これにより、短期継続融資が姿を消したものの、この見解自体が誤っていたわけではありません。これはこれで正しいのです。
今後、銀行から短期継続融資を引き出すポイントは、上記見解の「所要運転資金を超える金額」の部分にあります。
事業の状況に応じて、所要運転資金の金額は常に変化を続けています。
ゆえに、1年前の所要運転資金の金額と、いまの所要運転資金の金額は違うかもしれません。さらに1年後も、いまとは違うかもしれません。
であるにもかかわらず。ただただ同額で融資継続しているのは問題だ、というのが上記見解の意図するところです。
つまり、1年前の所要運転資金は 300万円でも、いまの所要運転資金は 200万円というのなら。これを 300万円のまま継続すれば 100万円は過剰融資だということです。
この点で、将来の所要運転資金の動きまで踏まえたところで「融資継続する金額の妥当性」を検討するように、金融庁は銀行に求めています。
となれば、「決算書」や「試算表」だけで検討するのは不十分。過去の数字だけから、今後の事業の状況・見込みなどを知ることはできません。
短期継続融資を望むのであれば、「変化を続ける所要運転資金」の情報を随時伝えられるように、銀行とはいままで以上に積極的なコミュニケーションをとるようにしましょう。
銀行が恐れる「不良債権・架空資産」
銀行から短期継続融資を引き出すにあたり、コミュニケーションすべきこととして「不良資産・架空資産」が挙げられます。
短期継続融資の対象は、「売掛金・受取手形 + たな卸資産 − 買掛金・支払手形」だという話をしました。
このうち「売掛金・受取手形、たな卸資産」のなかに、もしも「不良資産・架空資産」がある場合。「不良資産・架空資産」の金額は、短期継続融資の対象にはなりません。
さすがにそこまでは短期継続融資で面倒を見れないわけで。銀行は、「不良資産・架空資産」の存在を警戒しています。
「売掛金・受取手形、たな卸資産」の金額が大きいほど警戒をされるでしょうから、そのときは警戒を解いてもらえるような情報を銀行に伝えることが重要です。
たとえば、「売掛金・受取手形、たな卸資産」の残高明細一覧表を提示するというのもよいでしょう。
一時点の残高だけではなく、毎月の残高の推移表まで提示できれば「実際に動いている(不良・架空ではない)」ことの証明に役立つでしょう。
このようなひと手間を惜しまず、銀行が短期継続融資の妥当性を判断しやすい情報を伝えて、短期継続融資を引き出していきましょう。
銀行融資におすすめのメニュー
モロトメジョー税理士事務所では、「銀行融資のサポート」をするメニューをそろえています! 当事務所は経営革新等支援機関の認定を受けています。
銀行融資の記事まとめページ
銀行融資入門セミナー
銀行融資・財務のコンサルティング
銀行融資の個別相談
まとめ
銀行から短期継続融資を引き出して、資金繰りを改善しましょう!というお話をしてきました。
現状、「保証協会付き毎月返済融資」が「短期継続融資」に変われば、資金繰りはもっとよくなります。
短期継続融資の考え方を理解して、銀行と積極的なコミュニケーションを取ることで、短期継続融資を引き出していきましょう。