特別利益や特別損失を、損益計算書にどう掲載するかが銀行融資の可否に影響を与えることがあります。
そこで、損益計算書に「特別利益・特別損失」があるときの銀行対応についてお話をしていきます。
収入は上に・費用は下に、がキホンです
会社・事業における銀行融資について。
銀行は、融資の可否を判断する材料として「決算書」を見ています。
その決算書のうち、「損益計算書」について。銀行は、「上」にある利益ほど、重要な利益として見ています。
損益計算書の上部から掲載される順に、売上総利益がもっとも重要性が高く、次いで、営業利益、経常利益、税引前利益、税引後利益の順に重要性が高いものとされます。
これは、上にある利益ほど、その会社の本業の純度が高く(よけいな収入・費用が混じっていない)、本業による収益力を示していると言えるからです。
会社や事業を持続・成長させるには本業の収益力がだいじ。ゆえに、同じ最終利益であったとしても、上にある利益ほど金額が大きいほうが、銀行からの評価は高い。ということになります。
はて? 同じ最終利益なのに、上にある利益を大きくすることなどできるのか…?
できます。損益計算書について「収入は上に、費用は下に」を検討・実践することで、上にある利益は大きくなります。
たとえば、特別利益に掲載されている項目・金額を、営業外収益に「上」げれば、その分だけ経常利益がアップします。
販売管理費に掲載されている項目・金額を、特別損失に「下」げれば、その分だけ営業利益がアップします。
最終利益は変わらないけれど、上にある利益はアップする。その結果、銀行からの評価アップが期待できる。このような銀行対応についてお話をしていきます ↓
- 特別利益は「営業外収益」を検討する
- 特別利益・特別損失による「財務改善」をアピールする
- 「販売管理費」から特別損失を検討する
- 特別損失は「今回限り」をアピールする
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
損益計算書に「特別利益・特別損失」があるときの銀行対応
特別利益は「営業外収益」を検討する
損益計算書に記載をされる「特別利益」について。その具体的内容としては、次のような項目が挙げられます ↓
- 固定資産(不動産や自動車、機械など)の売却
- 有価証券(株式や投資信託など)の売却
- 助成金や補助金の受け取り
- 保険金の受け取り
- 引当金の戻し入れ
- 債務免除を受けたことによる利益
- 前期以前の損益を修正したことによる利益
など
これらを見て、「銀行融資」という観点で考えるべきことは。「特別利益」ではなく、「営業外収益」として掲載できないか? ということです。
理由は冒頭でも触れたとおり、「収入は上に」がキホンだから。
たとえば、特別利益 50万円としていたものを営業外収益に掲載できれば、「経常利益」を 50万円アップさせることができます。
銀行は「上」にある利益ほど重視をするのですから、できるだけ「特別利益」ではなく「営業外収益」に掲載することを検討しましょう。
このときのポイントは、「金額が少額か? または 毎期継続的な収入か?」です。
つまり。さきほど列挙した項目について、金額が少額であれば「営業外収益」に。または、「毎期継続的な収入」であれば「営業外収益」に掲載します。
このような扱いをするのは、「特別利益の項目であっても、金額が少額または毎期継続的な収入は、営業外収益でOK」とする会計のルールがあるからです。
では、「少額」とは、具体的にいくら以下を言うのか? 対銀行ということで言うならば、「合理的」と言える理由づけができれば各社の自由と考えて問題ありません。
たとえば、売上高が 5,000万円、助成金収入が 40万円という会社があったとして。
銀行に対しては、「当社では売上高に対し1%未満の特別利益項目は、金額が少額として営業外収益としています」のような説明ができればよいでしょう。
また、毎年のように助成金を受け取っているような会社であれば、「毎期継続的」を理由にして「営業外収益」に掲載するのもよいでしょう。
特別利益を営業外収益として掲載するだけで、経常利益が大きく変わることがあります。じゅうぶんに検討をすることが大切です。
特別利益・特別損失による「財務改善」をアピールする
前述した「特別利益」の具体例について。たとえば「固定資産の売却」は、それによって利益が出れば「特別利益」ですが、利益が出なければ「特別損失」です。
損失となった場合には、当然、利益が減少しますから、対銀行という点では「不利」になります。
このときできることとして、銀行に対する「財務改善のアピール」が挙げられます。
固定資産の売却を例にすれば、「有休(使っていなかった)不動産を売却することで、財務の改善をはかりました」のようなアピールです。
所有しているだけで維持コスト(固定資産税など)がかかるものですが、売却をすればなくなりますから、結果として将来の利益アップに貢献します。
また、売却をすれば(利益でも損失でも)売却代金を受け取ります。それをそのまま現金預金で持つにせよ、いまある借金の返済に充てるにせよ、財務改善に貢献することになります。
同じような考え方で言えば、有価証券の売却、保険の解約、一部事業からの撤退、一部店舗の閉鎖なども、財務改善をアピールすることができるでしょう。
特別利益や特別損失は、ともすると「目先の利益・目先の損失」のみをもって評価されることがあります。その先にある「財務改善」にまで、銀行の目が及んでいないことがあります。
したがって、銀行に対しては特別利益・特別損失の内容説明にとどまらず、その先の「財務改善」の部分まで、しっかりアピールしておくことをおすすめします。
「販売管理費」から特別損失を検討する
特別損失については、冒頭で触れた「費用は下に」を検討します。
よくあるのは、特別損失に掲載できるのに「販売費および一般管理費(以下、販売管理費)」として掲載しているケースです。
この場合、販売管理費にした金額分、「営業利益」と「経常利益」がともに減少してしまうことになります。対銀行という点では「不利」であり、たいへんもったいないので注意しましょう。
具体的には、次のような項目が挙げられます ↓
- 役員退職金、従業員退職金
- 特別償却費
- 不動産取得税(不動産業を除く)
- 新規店舗出店に関する費用、店舗閉鎖に関する費用
- 貸倒損失
など
これらについては「毎期継続的」ではない費用、または「金額が少額」ではない費用として、「特別損失」に掲載するようにしましょう。
ちなみに。従業員退職金は「販売管理費」に掲載されるのが一般的です。
とはいえ、中小零細企業においては、そもそも従業員が少なく、毎期のように退職者がいたり、退職金を支払うこともなかったりします。
また、退職金を支払うときには、利益に与える影響が少なくない… ということもあるでしょう。
そのような観点から、従業員退職金を特別損失とするのは「合理的」である、と説明をすることができます。
販売管理費と同様に、「営業外費用」のなかにも特別損失に掲載できるものがないかを検討しましょう。
「毎期継続的」ではない費用、または「金額が少額」ではない費用であれば、特別損失に掲載することで「経常利益」がアップします。
特別損失は「今回限り」をアピールする
銀行が「最終利益(税引前利益や税引後利益)」を重視するあまり、「特別損失」の内容をきちんと把握していないケースがあります。
ところが、特別損失とは文字どおり、特別な損失であり、来期以降は生じることがないと考えられるものです。
これも含めたところで、最終利益をその会社の収益力として見られてしまうと、将来の収益力を過小評価されることになってしまいます。
たとえば、今回の決算で特別損失が 300万円掲載されていたとして、最終利益が 100万円の赤字だった場合。
来期は、特別損失 300万円はないはずですから、最終利益は 200万円の黒字が見込まれるところです。
これについて、銀行が特別損失を考慮せず、最終利益 100万円の「赤字」だけを見ているとすれば、融資審査で不利益をこうむることになります。
そんなバカな、銀行だってそのくらいは見ているだろう。と言うのであれば、それは過信というものです。
銀行が、最終利益だけを見て機械的に審査をする。可能性としては決してゼロではなく、むしろじゅうぶんにありえることです。
であるならば、特別損失は「今回限り」の損失だ、とアピールする。そのひと手間が、融資を成功に近づけます。
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まとめ
損益計算書に「特別利益・特別損失」があるときの銀行対応についてお話をしてきました。
最終利益は変わらなくても、特別利益・特別損失の取り扱いしだいでは銀行融資に影響することがある。これを押さえておきましょう。
- 特別利益は「営業外収益」を検討する
- 特別利益・特別損失による「財務改善」をアピールする
- 「販売管理費」から特別損失を検討する
- 特別損失は「今回限り」をアピールする