「売上が増えているのに、おカネ(資金繰り)が厳しい…」
というのは意外とよくあるハナシです。あとで困ったことにならないように、売上が増えると必要なおカネはいくら増えるのかを計算できるようにしましょう。
売上が増えると「必要になるおカネ」も増える
会社・事業を続けているなかで感じる「不思議」のひとつに、次のようなことが挙げられます ↓
「売上が増えているのに、おカネ(資金繰り)が厳しい…」
売上が増えて儲かっているはずなのに、おカネが無いのはいったいどうして? という不思議です。
回収は待ったアリ、支払は待ったナシ
そんな不思議を理解するために。カンタンな例を挙げて考えてみることにしましょう。
モノを仕入れて、それを売る、という商売をしているとして。
売上については、お客さんにモノを引き渡してから代金回収まで1ヶ月かかるとします。いっぽうで、仕入と経費は現金払い。
この場合、仕入・経費の支払いが、売上代金の回収よりも先行することになります。
したがって、代金回収までのあいだ、おカネを「立て替える」必要がある。ではここで、売上が2倍になったらどうでしょう?
売上が2倍になった分、仕入も2倍。場合によっては売上アップにともない経費も増えているかもしれません。
すると、「立て替える」べきおカネはもっと必要になる…
これが、「売上が増えているのに、おカネ(資金繰り)が厳しい…」のカラクリです。
立て替えるおカネ=運転資金
前述した「立て替えるべきおカネ」は、「運転資金(所要運転資金や経常運転資金とも)」と呼ばれます。
また、売上が増加したことなどにより、増加した「立て替えるべきおカネ」は、「増加運転資金」と呼ばれます。
その増加運転資金について。
さきほどはカンタンな例を挙げての説明でしたが、具体的にはどれだけの金額の増加運転資金が必要になるのか? 増加運転資金にどう対応すればよいのか?
ということで、次のようなお話をしていきます ↓
- 増加運転資金の計算手順
- 増加運転資金の銀行融資
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
増加運転資金の計算手順
売上が増加したことにより、あわせて増加する「立て替えるべきおカネ」、つまり、増加運転資金について。
その具体的な金額を計算する手順は次のとおりです ↓
- 1日あたり売上高を計算する
- 売掛金回転期間を計算する
- 棚卸資産回転期間を計算する
- 買掛金回転期間を計算する
- 増加運転資金を計算する
上記について、順番に説明をしていきます。
《手順①》1日あたり売上高を計算する
まずは、いま現在の「1日あたりの売上高」を計算します。「いま現在」というのは、「売上が増加する前」ということです。
ここでは例として、いま現在の月間売上高を 300万円とします。
これについて、1ヶ月が 30日だとすると。1日あたりの売上高は、次のとおりです ↓
1日あたりの売上高 = 月間売上高 300万円 ÷ 30日 = 10万円
カンタンですよね。もちろん、年間売上高を365日で割り算してもOKです。
《手順②》売掛金回転期間を計算する
突然に出てきた「売掛金回転期間」という用語に腰が引けるかもしれませんが。見た目ほどにイカツイものではありませんからだいじょうぶです。
結論から言うと、こうなります ↓
売掛金回転期間 = 売掛金の金額 ÷ 1日あたりの売上高
ここでは例として、いま現在の売掛金が 450万円だとします。1日あたりの売上高は、さきほど《手順①》で求めた 10万円。であるならば、売掛金回転期間は、
売掛金回転期間 = 売掛金の金額 450万円 ÷ 1日あたりの売上高 10万円 = 45日
この「45日」がなにをあらわしているかと言うと。モノを売ってから、代金が回収されるまでの日数です。
代金が回収されるまでのあいだ、自社・じぶんがおカネを「立て替える」ことが必要な日数、とも表現できます。
受取手形がある場合には、それもまた代金回収待ちですから、売掛金と同じように「受取手形回転期間」を計算しておきましょう ↓
受取手形回転期間 = 受取手形の金額 ÷ 1日あたりの売上高
《手順③》買掛金回転期間を計算する
続いて、買掛金回転期間を計算します。《手順②》の売掛金回転期間は「売上」に関するものでしたが、買掛金回転期間は「仕入」に関するもの。
計算式は次のとおりです ↓
買掛金回転期間 = 買掛金の金額 ÷ 1日あたりの売上高
ここでは例として、いま現在の買掛金が 300万円だとします。1日あたりの売上高は、さきほど《手順①》で求めた 10万円。であるならば、買掛金回転期間は、
買掛金回転期間 = 買掛金の金額 300万円 ÷ 1日あたりの売上高 10万円 = 30日
この「30日」がなにをあらわしているかと言うと。モノを仕入れてから、代金を支払うまでの日数です。
代金を支払うまでのあいだ、自社・じぶんがおカネを「(仕入先に)立て替えてもらっている」日数、とも表現できます。
支払手形がある場合には、それもまた代金支払い待ちですから、買掛金と同じように「支払手形回転期間」を計算しておきましょう ↓
支払手形回転期間 = 支払手形の金額 ÷ 1日あたりの売上高
《手順④》棚卸資産回転期間を計算する
こんどは、棚卸資産回転期間を計算します。棚卸資産とは、商品や材料など、いわゆる「在庫」にあたるものです。計算式は次のとおり ↓
棚卸資産回転期間 = 棚卸資産の金額 ÷ 1日あたりの売上高
ここでは例として、いま現在の棚卸資産が 200万円だとします。1日あたりの売上高は、さきほど《手順①》で求めた 10万円。であるならば、棚卸資産回転期間は、
棚卸資産回転期間 = 棚卸資産の金額 200万円 ÷ 1日あたりの売上高 10万円 = 20日
この「20日」がなにをあらわしているかと言うと。モノを仕入れてから、販売されるまでの日数です。
モノが売れるまでのあいだ、自社・じぶんがおカネを「立て替えてている」日数、とも表現できます。
《手順⑤》増加運転資金を計算する
ここまで、4つの金額を計算してきました。1日あたりの売上高、売掛金回転期間、買掛金回転期間、棚卸資産回転期間の4つです。
これらをふまえて、いま現在の「運転資金」、つまり、いま現在の「立て替えるべきおカネ」を計算することができます。計算式は次のとおりです ↓
いま現在の運転資金 =(売掛金回転期間 + 棚卸資産回転期間 − 買掛金回転期間)× 1日あたりの売上高
売掛金と棚卸資産は、自社・じぶんが立て替えているおカネです。いっぽうで、買掛金は、自社・じぶんが立て替えてもらっているおカネです。
したがって、それらを相殺した「売掛金回転期間 + 棚卸資産回転期間 − 買掛金回転期間」によって、立て替えるべき日数がわかります。
その日数に、1日あたりの売上高を掛け算することで、立て替えるべき金額がわかる。というのが、上記の算式です。
ここまでの例で使ってきた数字をあてはめるとこうなります ↓
いま現在の運転資金 =(売掛金回転期間 45日 + 棚卸資産回転期間 20日 − 買掛金回転期間 30日)× 1日あたりの売上高 10万円 = 350万円
というわけで。350万円のおカネを「立て替える」必要があるのだな、とわかります。
では、売上が増加した場合にはどうなるか? 算式中の「1日あたりの売上高」に、増加後の売上高をあてはめて計算をしてみましょう。いちおう算式にすると、
売上増加後の運転資金 =(売掛金回転期間 + 棚卸資産回転期間 − 買掛金回転期間)× 売上増加後の1日あたりの売上高
ここでは例として、売上が2倍に増えた場合を考えてみましょう。算式中の「売上増加後の1日あたりの売上高」が2倍の 20万円になる、ということです。
なお、売上が増加しても、売掛金回転期間、棚卸資産回転期間、買掛金回転期間は変わらないものと仮定します。これで計算をしてみると、
売上増加後の運転資金 =(売掛金回転期間 45日 + 棚卸資産回転期間 20日 − 買掛金回転期間 30日)× 売上増加後の1日あたりの売上高 20万円 = 700万円
これにより、「いま現在よりも売上が増加したことで運転資金がいくら増えるのか(増加運転資金)」は、次の算式で計算をすることができます ↓
増加運転資金 = 売上増加後の運転資金 700万円 − いま現在の運転資金 350万円 = 350万円
上記から、いままでよりもさらに 350万円のおカネを「立て替える」必要があるのだな、とわかることになります。
この「増加運転資金 350万円」が、売上が増加しても資金繰りを厳しくしているのです。
受取手形や支払手形がある場合は、運転資金の計算式は次のとおりです ↓
運転資金 =(売掛金回転期間 + 受取手形回転期間 + 棚卸資産回転期間 − 買掛金回転期間 − 支払手形回転期間)× 1日あたりの売上高
増加運転資金の銀行融資
ここまで、増加運転資金の計算方法を見てきました。
さきほどの例で言えば、売上が2倍に増えたことで、さらに350万円のおカネを「立て替える」必要がある。
この350万円について、自己資金がじゅうぶんであればよいのですが、じゅうぶんではないことが少なくありません。
ゆえに、「売上が増えているのに、おカネ(資金繰り)が厳しい…」が多発しているのです。
これを解決する方法が「銀行融資」になります。
増加運転資金は借りやすい
売上が増えることによる増加運転資金は、銀行融資のなかでも「借りやすい」融資です。
なぜなら、「売上が増える」という前向きな理由だから、というのがひとつ。銀行は前向きなところにおカネを貸したい。
加えて、運転資金には「売掛金」や「棚卸資産」など、換金可能性が高い資産の裏付けがあるからです。
売掛金を回収すれば、棚卸資産を売却すれば、銀行としては貸したおカネを回収しそびれる可能性が少ない。ゆえに、融資もしやすいのです。
したがって、売上が増えて、運転資金が増加したときには、銀行から融資を受けることをおすすめします。
そのときに、「いくら融資が必要なのか?」を考えるのに、さきほどの増加運転資金の計算方法が役立ちます。
売上が増加することを裏付ける契約書や受注書なども添えて、増加運転資金の金額の根拠を銀行に説明しましょう。
逆に、なぜ融資が必要なのか、いくらの融資が必要なのかをきちんと説明できなければ、銀行からおカネを借りることは難しくなります。
説明ができずに、「おカネが無い・足りないから貸して」や「借りれるだけ借りたい」などと言うのでは銀行融資は遠のくばかり、ということも心得ておきましょう。
銀行融資におすすめのメニュー
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まとめ
売上が増えると必要になるおカネはいくら増えるのか。増加運転資金の計算手順と銀行対応についてお話をしてきました。
「売上が増えているのに、おカネ(資金繰り)が厳しい…」という事態に陥らぬよう、増加運転資金の計算手順を押さえておきましょう。
あわせて、銀行融資を利用することで、増加運転資金分のおカネを手当するのをお忘れなく。