決算書を構成する書類のひとつ「貸借対照表」の「負債の部」に位置する「未払金」。
その勘定科目を、銀行はどのような目で見ているか? についてのお話です。
未払金の増減は「利益水増し・資金繰り悪化」を疑われる
会社・事業における銀行融資について。
融資の可否を決めるにあたり、決算書は大きなウエイトを占めています。
つまり。決算書の良し悪しが、融資を受けられるかどうかを大きく左右する、ということです。
そんな決算書には、ズラリと「勘定科目」が並んでいるわけですが。そのなかから、「未払金」勘定をピックアップしてみます。
決算書を構成する書類のひとつ「貸借対照表」の「負債の部」に位置する「未払金」。その勘定科目を、銀行はどのような目で見ているか?
自社・じぶんの決算書を見ながら、融資を受けるにあたっての影響を確認しておきましょう ↓
- 未払金の「減」→ 利益の水増し
- 未払金の「増」→ 資金繰りの悪化
- 未払金の「増」→ 税金の滞納
上記のとおり、未払金の金額の増減(前年の決算書に比べての)から、「利益の水増し」や「資金繰りの悪化」などを疑われることがあります。
いずれにせよ、融資を受けるにあたっては悪影響です。疑われている・疑われそうであれば、事情・事実を銀行に説明をするのがよいでしょう。
それではこのあと、それぞれのポイントについてお話をしていきます。
銀行が「未払金」勘定を見るときのポイント
未払金の「減」→利益の水増し
未払金の金額が、前年の決算書の金額よりも減っている場合。銀行から、「利益の水増し」を疑われることがあります。
たとえば、ということで「具体例」を使って見てみましょう ↓
- 当社は「3月決算」の会社です
- 毎月の事務所の電気代は「翌月払い」です。したがって、3月使用分の電気代は4月に支払っています
上記の「電気代」について。正しくは、電気を使用した3月に経費として計上します。
このとき、おカネはまだ支払っていません(4月に支払う)から、3月使用分の電気代の金額が「未払金」勘定に掲載されることになります。
いちおう仕訳であらわすと、こういうことですね ↓
日付 | 借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 |
3月31日 | 水道光熱費 | ××× | 未払金 | ××× |
ではここで、社長がこんなふうに考えた場合はどうでしょうか ↓
「どうも今回の決算は振るわない、もっと利益を増やしたい… そうだ! 3月分使用分の電気代は、4月に支払うのだから4月の経費にしよう」
というわけで、いつもは3月の経費にしていた「3月使用分の電気代」を4月に先送りします。結果、3月の利益を増やすことができます。
4月に先送りをしていますので、3月の時点で仕訳はありません。したがって、「未払金」勘定の金額はゼロです ↓
日付 | 借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 |
3月31日 | 仕訳なし |
このように。電気代に限らず、各種の「未払いの経費」を決算に入れるか、入れないかで「利益の調整」をすることができてしまいます。
具体的に言うと。利益がたくさん出ているときは、未払いの経費をたくさん決算に入れて利益を圧縮(未払金が増える)。あまり税金を納めなくて済むように。
利益が出ていないときには、未払いの経費を決算に入れずに利益をカサ上げする(未払金は無し)。銀行融資が受けやすくなるように。
したがって、前年の決算書と今年の決算書とを比べてみて、未払金の金額がミョーに減っている… という場合。銀行は、「利益の水増し」を疑うことになるわけです。
今回の決算は業績が悪いから、「未払いの経費」を先送りしたのかな? それに、今後の業績はだいじょうぶなのかな? と見られれば、融資を受けるにあたってはマイナス評価になります。
実際、利益調整を目的に、決算のたびに「未払金」を増やしたり・減らしたりを繰り返している決算書も散見されますが。その利益調整は銀行に見抜かれている、と考えるべきでしょう。
未払金の「増」→資金繰り悪化
未払金の金額が、前年の決算書の金額よりも増えている場合。銀行から、「資金繰りの悪化」を疑われることがあります。
たとえば、毎月の事務所の家賃の支払いについて。おカネが無くて、支払いを待ってもらうと「未払金」勘定が発生することになります。
いちおう仕訳であらわすと次のとおりです ↓
借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 | |
きちんと支払った場合 | 地代家賃 | ××× | 現金預金 | ××× |
支払いを待ってもらった場合 | 地代家賃 | ××× | 未払金 | ××× |
このように。事務所の家賃に限らず、支払いを待ってもらう経費が増えるほど、未払金の金額も増えることになります。
したがって、前年の決算書と今年の決算書とを比べてみて、未払金の金額がミョーに増えている… という場合。銀行は、「資金繰りの悪化」を疑うことになるわけです。
業績が悪化したり、不良債権・不良在庫が増えたりで、おカネが無くなってきているのかな? と見られれば、融資を受けるにあたってはマイナス評価になります。
ちなみに。だったら、支払いを待ってもらっているあいだ、仕訳(上記仕訳例の下段の仕訳)をしなければいい。そうすれば未払金は出てこないし。と、考えるかもしれませんが。
その場合には、未払金だけではなく、毎月定額であるはずの「地代家賃」もまた出てこないことになります。あからさまな粉飾決算としてすぐバレる。
ですから、支払いを待ってもらっているあいだ仕訳はしない、というわけにもなかなかいかず。未払金の増加から、資金繰りの悪化を見抜かれることとなります。
未払金の「増」→税金の滞納
未払金の金額が、前年の決算書の金額よりも増えている場合について。さきほどは「資金繰り悪化」が疑われるケースを見ました。
ここでは、同じ「未払金の増加」でも、「税金の滞納」を疑われるケースについてを見ていきます。
会社・事業でおカネが不足して資金繰りが悪化をすると、各種の税金の支払いが遅れる(滞納)ことが少なくありません。
この税金の滞納を、銀行はとても嫌います。
単純に「払うべきものを払わない」なんてダメだよね、という理由がまずひとつ。決められたルールを守れない会社・ヒトを銀行は信用しません(銀行に限りませんが…)。
くわえて、銀行が税金の滞納を嫌う理由がもうひとつ。税金は「銀行融資よりも優先する債権」だからです。
どういうことかというと。もし、会社が破産をしてしまった場合。残っている財産については、銀行への返済よりも先に、滞納している税金に充てなければいけない。これが「優先」の意味です。
よって、税金の滞納がある分だけ、融資をしても返済をしてもらえる可能性は低くなる。だったら融資はしないほうがいい、と銀行は考えます。
というわけで。決算書の未払金の金額が増えると、そのなかに「税金の滞納」が混じっていないかな? と銀行は疑うことになるわけです。
法人税の申告書に添付する「勘定科目内訳明細書」を確認したり、会社に直接ヒアリングをしたり、納税証明書の提出を要請したりします。
これから銀行融資を受けようと考えるのであれば、少なくとも、融資を受ける時点では税金の支払遅延はなくしておくことが大切です。
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まとめ
銀行が融資先の決算書について、「未払金」勘定を見るときのポイントをお話してきました。
未払金の増減によって、銀行からは「利益の水増し」や「資金繰りの悪化」を疑われることもあります。
疑われている・疑われそうであれば、事情・事実を銀行に説明するようにしましょう。
- 未払金の「減」→利益の水増し
- 未払金の「増」→資金繰り悪化
- 未払金の「増」→税金の滞納