銀行に提出する決算書は、減価償却しなくてもOKか?
銀行融資を受けようとするときに聞かれる疑問です。疑問に対する回答、理由、実務的な対応について、押さえておくべきポイントをお話していきます。
減価償却をしなくてトクすることはない
会社・事業における銀行融資について。こんな疑問を見聞きすることがあります ↓
「銀行に提出する決算書は、減価償却しなくてもOKか?」
銀行は利益が出ている会社を高く評価することから、あえて減価償却費を計上しないことにより利益を大きく見せよう。という意図ですね。
結論として。減価償却をしなくてトクすることはない。ゆえに、減価償却はしたほうがいい。これが疑問に対する回答です。
その理由や実務的な対応について、押さえておくべきポイントがありますのでお話をしていきます。ポイントは次の3つです ↓
- しなければすぐバレる
- してもしなくても変わらない
- それでもしないなら説明する
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
銀行融資で「減価償却しないのはOKか?」3つのポイント
《ポイント1》しなければすぐバレる
そもそも決算書は、会社の利害関係者(株主、債権者、お客さま、取引先、従業員など)に対して、財務状態に関する「正しい情報」を提供するための書類です。
この点で、減価償却費は当然に「計上すべきもの」であって、それ以上でも以下でもない。利害関係者のひとりである銀行もそのように考えています。
したがって、減価償却費があるはずなのに計上されていない、あるいは少なめに計上されているという決算書を、銀行は良しとしないのです。
これに対して、バレなきゃいいだろう、バレないのではないか、との思いが会社側にはありますが。
バレます。すぐにバレます。
まず、貸借対照表に減価償却の対象になる資産があるかどうかを見れば、減価償却の有無や大小はおおむね察しがつくものです。
また、銀行に提示する決算書一式に含まれる「法人税別表」や「減価償却明細」を見れば一目瞭然です。
そんなふうに、すぐバレるようなことをやってしまう会社は一事が万事、銀行から「赤字隠し」や「利益水増し」の疑いをかけられてしまいます。
ちなみに。「法人税別表」や「減価償却明細」は提示しない、というハナシも聞きますが。銀行の疑いを強めるだけ、ということもあるでしょう。
本来、見られて困るようなことが書いてある書類ではないのですから、むしろ積極的に提示をすべきところです。
《ポイント2》してもしなくても変わらない
冒頭、「銀行は利益が出ている会社を高く評価する」と言いました。
正確には、銀行は「利益 + 減価償却費」が出ている会社を高く評価する、です。
これはまず、税金を支払ったあと手元に残るおカネとしての「利益」が、借入返済のいちばんの原資だということ。
そして、減価償却費は経費ではある(利益を計算する過程でマイナスされている)けれど、減価償却費自体はおカネの支払いを伴わないために、やはり返済原資として足し戻す。
それが「利益 + 減価償却費」の意味です。つまり、「利益」もだいじだけれど、借入返済をするための「おカネ」がもっとだいじ、と銀行は考えているということです。
ではその「利益 + 減価償却費」について。減価償却をするケースとしないケースとで、結果に違いは出るのでしょうか?
次の会社について、減価償却をするケースとしないケース、それぞれの「利益 + 減価償却費」を計算しなさい
- 減価償却費をマイナスする前の利益 200
- 本来計上すべき減価償却費 300
↓
- 減価償却をするケース ・・・ (減価償却前の利益 200 - 減価償却費 300)+ 減価償却費 300 = 200
- 減価償却をしないケース ・・・(減価償却前の利益 200 - 減価償却費 0)+ 減価償却費 0 = 200
ということで、減価償却をしようとしまいと、「利益 + 減価償却費」の金額に違いはありません。同じ。
減価償却をしないことで「利益」は大きく見えますが、「おカネ」で見れば変わらないのです。
なお、大きく見える利益も、減価償却をしていないからだとすぐにバレるのは前述したとおりであることを申し添えます。
《ポイント3》それでもしないなら説明する
ここまで、減価償却をしなくてトクすることはない、という部分のお話をしてきました。
とはいえ。減価償却をしないほうがいい、というケースはあります。いわゆる「繰越欠損金」がある場合です。
税金の計算上、過去の赤字は、翌年以降の黒字と相殺をすることができる。相殺することで翌年以降の黒字が小さくなるので、税金が少なくなる、という税法のしくみがあります。
そして税法では、翌年以降の黒字と相殺できる過去の赤字のことを、「繰越欠損金」と呼んでいるのです。
そんな繰越欠損金ですが。いつまでも相殺できるわけではなく、期限が決められていることに特徴があります。
だったら、期限が切れる前に相殺を! と考えるのであれば。あえて減価償却はせずに、黒字を大きくしておいたほうがいい。税金が少なくて済む、という考え方もありますよね。
ではそのようなときにまで、減価償却をきちんとやらなければいけないのか? 結果的に繰越欠損金が期限が切れて、払わなくても済むはずの税金まで払わなければいけないのか?
と言うと、さすがにそこまでする必要はありません。
ただし、前述したとおり、財務状態に関する「正しい情報」を提供するために、減価償却をするのが原則です。
その原則に反する以上、銀行に対しては理由を説明するようにしましょう。説明を怠り、あらぬ疑いをかけられたのではたまりませんので。
説明のしかたとしては、繰越欠損金の明細(法人税別表七)を提示しつつ、減価償却をせず繰越欠損金を利用するのが合理的であることを伝えるのがよいでしょう。
なお、ここで言う「合理的」とは。税金を抑えることで、より多くの「おカネ」を持つことができる、ということです。
銀行も、返済原資であるおカネを重視しているのですから、納得をしてもらえます。
また、あわせて『「中小企業の会計に関する基本要領」の適用に関するチェックリスト』を提出するのもおすすめです。
同チェックリストに、減価償却をしないことについて、顧問税理士に「所見」を記入してもらうことで説得力が上がります。
税金計算という点で、減価償却をしなくてもOKなのか? と言うと。OKです。税法では、減価償却をしてもしなくてもよいのです。
平たく言えば、減価償却をしなければ、その分だけ利益が増えて税金も増えます。税金を集める税務署的にはOKです。逆に減価償却が多すぎるのはNGなので、減価償却には上限(限度額)が設けられています。
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まとめ
銀行融資で「減価償却しないのはOKか?」問題の3つのポイントについてお話をしてきました。
減価償却をしなくてトクすることはない、の理由。それでも、繰越欠損金の視点から減価償却をしないときの対応について押さえておきましょう。
- そもそもバレる
- してもしなくても変わらない
- それでもしないなら説明する