決算書は大きく分けて、税金用と銀行用とがあります。自社の決算書はどっちでしょう?
税金用決算書よりも融資に強い・経営に役立つ銀行用決算書について、事例で比較をしてみます。
税金用決算書よりも融資に強い・経営に役立つ銀行用決算書
会社が毎年つくる決算書は、大きく2つに分けることができます。
ひとつは、税金用決算書。税金を正しく計算するための決算書、税金的に正しい決算書です。
税金が正しいのはけっこうなことだ、という見方もありますが。税金用決算書には「盲点」もあります。
会社の状況を正しく把握するには不十分なところがある(具体的には後述します)、という盲点です。
社長からしてみれば、自社の状況が十分に把握できない決算書は、経営に役立てることができないでしょう。
銀行もまた、そのような税金用決算書を好みません。状況を把握するには不十分な決算書(と、それをつくる会社)を信頼することはできないからです。
そこで、もうひとつの決算書である銀行用決算書。会社の状況をより十分に示し、経営に役立つ、融資に強い決算書です。
このあと、2つの決算書を事例で比較してみます。「ウチがつくっているのは税金用・銀行用、どっちの決算書かな?」と考えながら見てみましょう ↓
- 耐用年数が法定とは違う固定資産がある
- 毎年賞与を支給している
- 回収できない債権がある
本記事は、税務署用の決算書と銀行用の決算書、2つをつくろう! という趣旨ではありません。自社がつくる決算書は1つであり、その決算書に「税金用決算書」と「銀行用決算書」のどちらの要素を取り込むのがよいかを考える、という趣旨です。
税金用決算書と銀行用決算書の事例比較
《事例1》耐用年数が法定とは違う固定資産がある
たとえば、店舗の内装(造作)や設備、工場の機械など。いわゆる「固定資産」には、「減価償却」という考え方があります。
購入金額がいちどに経費になるのではなく、耐用年数(固定資産を使用できるであろう年数)であん分して経費にする、という考え方です。
では、その減価償却について、税金用決算書と銀行用決算書とを比較してみましょう。
税金用決算書の場合
税法では、「この機械だったら10年」というふうに、法定耐用年数なるものが用意されています。
実際に10年使えるかどうかは別として、固定資産の種類に応じて一律に耐用年数が決められているのです。
税金用決算書では、その法定耐用年数にしたがって減価償却をすることになります。
たとえば、購入金額 100万円の機械であれば。10年であん分して、毎年10万円ずつを経費にするイメージです。
もちろん、これで税金的にはなんの問題もありません。
銀行用決算書の場合
ところが。もしも、その機械が「実際に使えるのは5年がせいぜいだろう」ということならどうでしょう?
購入金額 100万円を5年であん分して、毎年20万円ずつを経費にする。このほうが、より正しく状況をあらわした決算書だと言えるでしょう。
結果として、税金用決算書は、経費が毎年 10万円過小である。言い換えると、利益が毎年 10万円過大になります。
税金的には正しい(あるいは間違っていない)かもしれないけれど、会社の状況を把握するには不十分。それが、税金用決算書の盲点なのでした。
なお、税金用決算書では「減価償却をしない」ことも認められています(経費が少なくなり税金が増えるので、税務署的にOK)。
これもまた税金的には間違いではありませんが、状況把握という点では完全に問題が生じます。経費過小・利益過大です。
解決策としての「別表調整」
より正しい状況把握をするなら税金用決算書よりも銀行用決算書なのはわかった。
でも、税法では 10万円が経費(減価償却費)だと決められているのに、20万円を経費にしてOKなのか?
ダメです。それでは税金が過小になってしまいます。なので、決算書上は 20万円の経費と記載をしつつ、税金の計算をするときだけは 10万円に補正をする、という方法があります。
「別表調整」とか「別表加算」と呼ばれる方法です。これで税金的にもOKです。法人税の申告書のなかでの処理であり、くわしくは顧問税理士に聞いてみるとよいでしょう。
なんにせよ。決算書自体は状況把握を優先に作成し(銀行用決算書)、税金的にも間違いなくできる方法(別表調整)はある、ということです。
《事例2》毎年賞与を支給している
賞与の支給について定め(規定)がある。毎年、賞与の支給をしている、というケースについて。
税金用決算書と銀行用決算書とを比較してみましょう。
税金用決算書の場合
たとえば、3月決算の会社で。夏季賞与について、「計算期間(査定期間)が10月から3月・支給が6月」と定めているとします。
税金用決算書では、その年に賞与を支払った金額を、経費として決算書に記載します。
したがって、2019年6月支給の夏季賞与については、2019年3月の決算書になんら記載をしない。
もちろん、これで税金的にはなんの問題もありません。
銀行用決算書の場合
けれども、「計算期間が10月から3月」ということは、2018年10月から2019年3月分にあたる賞与の金額は、2019年3月の決算書に反映させるべきではないか?
そのほうが、より状況を正しく把握できる決算書になるのではないか? との考え方があります。
つまり、2019年7月に支給するであろう賞与金額を、2019年3月の決算書に経費として記載する、ということです。
これを、会計の世界の専門用語で「賞与引当金」と呼びます。
やはり解決策は「別表調整」
ところが。賞与引当金を経費として税金計算することを税法は認めていません。賞与について経費にできるのは、「実際に支払った金額だけですよ」としています。
そこで解決策となるのが、やはり「別表調整」です。
決算書上は賞与引当金を経費として記載しつつ、税金の計算をするときには賞与引当金の分を経費からハズす。
これで、会社の状況を十分に把握できる決算書でありながら、正しい税金計算も実現できます。
《事例3》回収できない債権がある
得意先の売掛金(ツケの売上)に、代金が回収できていない・できそうにないものがある… というケースについて。
税金用決算書と銀行用決算書とを比較してみましょう。
税金用決算書の場合
売掛金などの「債権」が回収できなくなってしまった場合、回収できなくなってしまった金額を「損失(経費)」として扱います。
いわゆる「貸倒損失(かしだおれそんしつ)」です。
この貸倒損失について、税法ではいろいろと「要件」が定められています。要件を満たさなければ、損失(経費)にはできないよ、ということです。
カンタンに言うと、その要件は厳しいものであり。具体的には、法的な手続き(会社更生法やら民事再生法やら)で債権の切り捨てが確定したときとか、こちらから債権放棄をするとか。
したがって、実際には回収できそうもないのに、要件までは満たせず… のケースが少なくありません。
結果として、税金計算を重んじる税金用決算書では、なかなか貸倒損失を記載できないということが起こります。
銀行用決算書の場合
税法が定める貸倒損失の要件はさておき、「おそらくもう回収はできないだろう」というような債権については、損失(経費)にするほうが実態に合っている。と、考えるのが銀行用決算書です。
要件は満たさなくとも、実態として回収できないのであれば、貸倒損失として決算書に記載することになります。
これによって、価値が無くなってしまった債権を決算書(貸借対照表)に残しっぱなし… を避けらる。会社の状況をより正しく把握することができます。
またまた「別表調整」
もはや説明はいらないものと思われますが。税法で認められないことをするときには「別表調整」が必要です。
よって、税法の要件を満たさない貸倒損失を、積極的に損失処理する銀行用決算書をつくるのであれば、あわせて別表調整をすることになります。
決算書上は貸倒損失を経費として記載しつつ、税金の計算をするときには貸倒損失の分を経費からハズす。ということですね。
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まとめ
税金用決算書よりも融資に強い・経営に役立つ銀行用決算書の事例を比較してみました。
実際には税金用決算書をつくっていることがほとんどではありますが。より会社の状況を正しく把握できる銀行用決算書をつくることも検討してみましょう。
社長はもっと決算書を経営に役立てることができますし、銀行からの信頼もえやすくなります。
なお銀行用決算書には、別表調整がセットでついてまわることはお忘れなく。その点は税理士に相談です。
- 耐用年数が法定とは違う固定資産がある
- 毎年賞与を支給している
- 回収できない債権がある