収益が悪化すると銀行融資が受けにくくなるため、会社はあの手この手で決算をよく見せようと考えます。
しかし、相手もさるもの。銀行が「収益悪化」を感じる貸借対照表の具体例についてお話をしていきます。
姑息な奸計で火に油を注いでいないか?
会社・事業における銀行融資について。
銀行は「収益良好」な会社に対して、積極的に融資をしたいと考えます。貸したおカネを返してもらえる可能性が高いからです。
逆に。「収益悪化」しているような会社に対しては、融資を控えようと考えます。貸したおカネを返してもらえないかもしれないからです。
そこで、おカネを借りる側の会社は、あの手この手を使って、少しでも収益をよく見せることはできないか? と考えます。
明らかな粉飾(利益の水増し)とまでは言えないにせよ、「決算書」をよく見せようとするわけです。収益悪化している会社ほど。
それを知っている銀行は、決算書を注意深くチェックしています。
その結果、銀行が「収益悪化」を感じる決算書のうち、「貸借対照表」に的をしぼった具体例がこちらです。
- 未払金が減っている
- 30万円未満の固定資産を資産計上している
- 繰延資産が増えている
- 有価証券が増減している
- 各種引当が不十分
上記のような貸借対照表であれば、あの手この手は見抜かれているかもしれない。収益悪化の事実を隠そうと「不透明な決算をする会社」と評価されかねない。との理解が必要です。
それではこのあと、5つの具体例を順番に見ていきましょう。
銀行が「収益悪化」を感じる貸借対照表5例
《例1》未払金が減っている
たとえば、3月決算の会社。3月使用分・4月支払いの電気料金については、決算時点で未払いでも決算までに使用していることから「経費」に計上します。
このとき、その未払いの金額は、貸借対照表に「未払金」として記載をされます。
収益良好な会社の場合には、経費を増やして利益を減らす。そうして「税金を減らしたい」との思惑もありますから、このような未払金は積極的に計上されることとなります。
いっぽうで、収益悪化している会社はどうかと言うと。利益をよくする・よく見せるために、未払金の計上を控えることが少なくありません。
したがって、数年分の貸借対照表を並べて、そこに記載されている未払金の金額推移を見てみれば「収益悪化」を探ることができます。
さらには、法人税申告書に付属する「勘定科目内訳明細書」から、未払金の明細を確認すれば事実はより明らかになります。未払金による利益調整は、すぐに見抜かれるのです。
対銀行以前に、会社自身が「自社の利益を正しく把握する」ためにも、未払金の計上基準をそのときどきで変えないようにしましょう。
《例2》30万円未満の固定資産を資産計上している
たとえば、1台で 25万円のパソコンを購入した場合。4年間に分割して経費にしなさい、という税金計算上のルール(減価償却と呼びます)があります。
金額が高いモノ(固定資産と呼びます)を、いちどに経費にすることはできないわけです。
ただし、このルールとは別に。30万円未満のモノであれば、全額をいちどで経費にしてもいいよ、という特例があります(青色申告をしている中小企業に限る)。
よって、1台 25万円のパソコンであれば、4年に分割することなく全額を経費にすることができる。
この点で、収益良好な会社は、やはり税金を減らしたいとの思惑から、全額経費の特例を選ぶことが多くなります。
逆に、収益悪化している会社は、特例を選ばずに分割して経費にすることで、利益をよくする・よく見せようと考えるものです。
銀行は、法人税申告書に付属する固定資産台帳から、30万円未満のモノを分割して経費にしているかどうかを確認できます。
また、法人税申告書・別表十六(七)「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」からは、いちどに経費にしている30万円未満のモノを確認することができます。
《例3》繰延資産が増えている
会社が支払う費用のなかには、支払ったときだけではなく、将来に渡って支払いの効果が及ぶものもあります。
そのような費用は、いったん「繰延資産」として貸借対照表に計上して、支払いの効果が及ぶ期間に分割して費用にしていきます。
具体的には、創立費、開業費、開発費、社債発行費など、繰延資産はいろいろです。
これについて、収益悪化している会社では、積極的に「繰延資産」を計上する傾向があります。費用を先送りできるから、ですね。
また、繰延資産の対象は広く、あいまいな部分もあることから、少々強引に繰延資産として計上しているケースも散見されます。
したがって、数年分の貸借対照表を並べてみて、「なんだか繰延資産が増えているなぁ」という場合には、収益悪化が疑われるところです。
結果、銀行が「これは本来的には繰延資産ではない」と判断すれば、費用処理したものとして補正したうえで決算書の評価をします。
銀行は「補正をしました」とは言いませんから、会社にしてみれば「知らぬところで暴かれている」ことがある。というのは、覚えておいたほうがよいでしょう。
《例4》有価証券が増減している
会社が所有している株式などの有価証券が、購入時よりも値上がりしている場合。つまり、「含み益」がある場合。
収益悪化している会社は、その含み益を使って、利益をよくする・よく見せようと考えます。
具体的には、有価証券を売却することで「売却益」を計上する。これで、損益計算書の「利益」を増やすことができます。
いっぽうで、貸借対照表の「有価証券」の金額は、売却をしたことで減ります。ですから、貸借対照表の有価証券の金額が減っていれば、「含み益で益出しをしたのかな?」と気が付きます。
また、場合によっては(引き続き所有はしたい場合)、売却した有価証券をすぐに買い戻すこともあるでしょう。
この場合、損益計算書に「売却益」が計上されるのはさきほどと同じですが、貸借対照表の状況は異なります。
購入時よりも高い金額で買い戻しているため、貸借対照表の有価証券の金額は売却前よりも増えることになります。こうなると、含み益による益出しの思惑はいっそう顕著です。
銀行は、法人税申告書に付属する「勘定科目内訳明細書」のなかにある「有価証券の内訳書」からも、そのようすを確認することができます。
《例5》各種引当が不十分
売掛金(ツケにしている売上代金)については、貸し倒れ(回収不能)を見込んで、多かれ少なかれ費用計上するのが会計のルールです。
この場合、費用計上する金額は、貸借対照表に「貸倒引当金」として記載されることになります。
なお、売上先の業績悪化など、売掛金の回収がいっそう困難と考えられる場合には、貸し倒れに備えて、より多くの貸倒引当金を計上することが求められます。
ところが、収益悪化している会社では、このような貸倒引当金を十分に計上しない(あるいはまったく計上していない)ことがあるのです。
また、貸倒引当金以外にも、賞与を支給している会社では賞与引当金など、引当金にもいろいろあります。
したがって、引当金を計上すべき状況なのにもかかわらず、それが不十分ではないのか? 不十分であれば収益悪化しているからではないのか? を銀行は貸借対照表からチェックをしています。
引当のほとんどは、税金計算上は経費にはなりませんがそれはそれ。決算書は「自社の利益を正しく把握するため」に、引当金の計上をするようにしましょう。
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まとめ
銀行が「収益悪化」を感じる貸借対照表5例についてお話をしてきました。
決算書をよく見せようとするあまり、「不透明な決算をする会社」と銀行から評価されないように気をつけましょう。
- 未払金が減っている
- 30万円未満の固定資産を資産計上している
- 繰延資産が増えている
- 有価証券が増減している
- 各種引当が不十分