一般に、「借りすぎか否か」の目安にされる借入金月商倍率。
ところが。借入金月商倍率が本当は借りすぎの目安にならない、その3つの理由についてお話していきます。
「借入金月商倍率が大きすぎる」から何だというのか?
会社・事業における「借入金(かりいれきん)」について。
「借りすぎか否か?」をはかる指標として「借入金月商倍率」が挙げられます。その借入金月商倍率を算式であらわすと次のとおりです ↓
借入金月商倍率(倍) = 借入金 ÷ (年間売上高 ÷ 12ヶ月)
上記のとおり、いまあるすべての借入金の残高を、平均月商(年間売上高 ÷ 12ヶ月)で割り算する。
結果として、「借入金が月商の何ヶ月分に相当するのか」をはかる指標が「借入金月商倍率」だ。ということになります。
ひるがえって、借入金月商倍率の値が大きくなると、借りすぎであり危険。値が小さいほど安全。との目安にされています。
この点で。一般には、借入金月商倍率が3倍を超えると要注意、6倍を超えると危険、などと言われるところです(業種によって目安は異なりますが)。
要注意であれば、銀行融資を受けるのも難しくなり。危険であれば、これ以上の融資を受けるのはムリ。そのようなことも言われます。
ところが。
この借入金月商倍率は、「借りすぎの目安」として鵜呑みにできないところがあります。
誤って鵜呑みにすれば、「借りるべき借入金」や、「借りたほうがよい借入金」を見逃してしまうことになりかねません。
ひいては、会社や事業の持続・成長をさまたげる要因になってしまいます。
ということで。借入金月商倍率が、本当は借りすぎの目安にならない理由についてお話をしていきます。次の3つです ↓
- 借入金と売上高とではモノサシが合わないから
- 借りすぎの目安は別にあるから
- おカネがあれば借りていないのと同じだから
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
借入金月商倍率が本当は借りすぎの目安にならない3つの理由
《理由1》借入金と売上高とではモノサシが合わないから
借入金月商倍率の算式を再掲します ↓
借入金月商倍率(倍) = 借入金 ÷ (年間売上高 ÷ 12ヶ月)
上記について、売上高は「1年間」の売上高です。期間が1年。
いっぽうで借入金は、と言うと。1年以内に返済をするものもあれば、1年を超えて数年〜10年くらいにわたり返済するものもあります。
日常的な資金繰りに使われるおカネ、いわゆる「運転資金」の借入は返済期間が短いものです。
これに対して、新規出店や機械の購入など投資に必要なおカネ、いわゆる「設備資金」の借入は返済期間が長くなります。
設備資金の借入については、設備投資以降に増える売上・利益によって、毎年少しずつ返済をしていく。という考え方です。ゆえに、返済期間が長い。
ここで気がつくのは、集計期間が「1年間」の売上高と、返済期間が「1年を超えて長い」借入金とでは、「モノサシ」の長さが違うということです。
したがって、借入金月商倍率を考えるのであれば、本来はモノサシの長さをそろえて、次のようにすべきでしょう ↓
借入金月商倍率(倍) = 1年以内に返済する借入金 ÷ (年間売上高 ÷ 12ヶ月)
上記算式中の「1年以内に返済する借入金」とは、言い換えると「運転資金のための借入金」です。
運転資金のための借入金が月商の何ヶ月分あるか? これが多すぎれば、「運転資金を借りすぎだ(銀行から見ると、貸しすぎ)」というハナシであればわかります。指標としての意味があります。
けれども、モノサシが違う「返済期間が長い借入金」までをいっしょくたにする借入金月商倍率は、指標としての意味が歪んでいることを理解しておきましょう。
《理由2》借りすぎの目安は別にあるから
それでは、「返済期間が長い借入金」を含めて、借りすぎか否かをはかる目安はないのか?
もちろん、あります。「債務償還年数」です ↓
債務償還年数(年) = 借入金 ÷(税引後利益 + 減価償却費)
「税引後利益+減価償却費」は、借入金の返済原資です。その会社が、1年間で借入金の返済にあてられるおカネです。
したがって、債務償還年数は「いまある借入金を何年で返済できるか?」をあらわす指標になります。
そもそも、借入金を返すために必要なのは「売上」ではなく「利益」です。売上がいくらあったところで、仕入や経費でおカネを使い切ってしまえば、借入金を返済するおカネは残りません。
債務償還年数の算式は、そのことを的確にあらわしています。
そう考えると。「売上」をモノサシにしている借入金月商倍率は少々的外れである、とさえ言ってもよいでしょう。
ですから、借りすぎか否かを知りたいのであれば、借入金月商倍率よりも債務償還年数です。
ちなみに。銀行は、債務償還年数が「10年超」を借りすぎの目安として見ています。あわせて覚えておきましょう。
減価償却費が「経費ではあるけれど、おカネの支払いは過去(減価償却の対象になるモノを買ったとき)に済んでいるもの」だからです。
減価償却費の分だけ税引後利益は少なくなっているけれど、おカネまで少なくはなっていない。だから減価償却を足し戻す、という考え方です。ちょっとムズカシイところですね。
《理由3》おカネがあれば借りていないのと同じだから
債務償還年数の話から、もういちど借入金月商倍率に戻ります。というわけで、借入金月商倍率の算式をふたたび再掲します ↓
借入金月商倍率(倍) = 借入金 ÷ (年間売上高 ÷ 12ヶ月)
借入金月商倍率の悪口ばかりとなりますが、この算式には致命的な「欠陥」があります。
それは、「手元にあるおカネ(現金預金)」が考慮されていないことです。
たとえば極端なハナシ、借入金が1億円あったとしても、現金預金も1億円あるとしたら。その借入金は無いのといっしょです。
手元のおカネでいつでも、返そうと思えば返せるのですから、借りすぎもなにもありません(別途支払う利息がムダかどうか、という議論はありますが)。
よって、手元のおカネを加味するのであれば、算式はこうあるべきです ↓
借入金月商倍率(倍) = (借入金 − 現金預金) ÷ (年間売上高 ÷ 12ヶ月)
借入金ばかりに目を向けていると、「借りるべき借入金」や「借りたほうがよい借入金」ができなくなってしまいます。
「借入金ゼロ、現金預金 100万円」よりも、1,000万円借入をして「借入金 1,000万円、現金預金 1,100万円」のほうが、日常の資金繰りはラクだし安全なはずです。
おカネと見合いの借入金は、「ただの借金」ではありません。会社が財務基盤を強くするために「必要な借金」です。
算式中の「借入金 − 現金預金」は、そのことをあらわしているものと押さえておきましょう。
なお、現金預金を差し引くという考え方は「債務償還年数」も同じです ↓
債務償還年数(年) = (借入金 − 現金預金) ÷(税引後利益 + 減価償却費)
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まとめ
借入金月商倍率が本当は借りすぎの目安にならない3つの理由についてお話をしてきました。
銀行をはじめ、一般に、借入金月商倍率を「借りすぎか否か」の目安にしていることは知っておくべきです。
けれども、借入金月商倍率だけでははかれないことを理解しておきましょう。借入金月商倍率をもって「借りすぎ」の誤解をされないように、必要に応じて説明できることが大切です。
- 借入金と売上高とではモノサシが合わないから
- 借りすぎの目安は別にあるから
- おカネがあれば借りていないのと同じだから