会社・事業の安全性を測る財務指標の代表格である「流動比率」。
ところが、中小企業が「流動比率」で安全性を測るのは難しい。その理由についてお話をしていきます。
安全性を測るつもりが危険な目に遭う流動比率
会社・事業の財務状況を分析するための「指標」はいろいろありますが。
なかでも、安全性を測る指標の代表格として挙げられるのが「流動比率」でしょう。その計算方法を算式であらわすと次のとおりです ↓
流動比率(%) = 流動資産 ÷ 流動負債
上記のとおり、「流動負債」に比べて「流動資産」がどれだけあるか? を示すのが「流動比率」です。
ときおり、「流動費率」との誤変換を見かけますが、「比べる」のが趣旨なのですから「費」ではなくて「比」。うっかり間違えるとカッコ悪いので気をつけましょう。
さて、この流動比率。安全性を測る指標の代表格でありながら、「扱いがとても難しい」という特徴があります。
とくに、中小企業の決算書をもって流動比率を分析する際には注意が必要です。気をつけないと、安全性を測るはずの流動比率で危ない目に遭いかねない。
というわけで、中小企業が「流動比率」で安全性を測るのが難しい理由についてお話をしていきます。次の3つです ↓
- 現金化できない流動資産がある
- 計上していない流動負債がある
- 流動負債の借入金が正しく区分されていない
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
中小企業が「流動比率」で安全性を測るのが難しい3つの理由
そもそも流動比率とは?
本題の話をはじめる前に、「流動比率とは」について少しだけ説明をしておきます。流動比率の算式を再掲すると ↓
流動比率(%) = 流動資産 ÷ 流動負債
上記算式中の「流動資産」と「流動負債」は、ともに「貸借対照表」に掲載されています。
このうち、流動資産とは、おもに「1年以内に現金化する・現金化できる資産」です。具体的には、現金・預金そのもの、売掛金、受取手形、有価証券、未収入金、たな卸資産、前払費用や仮払金など。
すぐに現金化しやすい、という意味での「流動」。流動性が高い資産のことを「流動資産」と呼びます。これに対して「1年を超えて現金化する資産」は、固定資産と呼ばれます。
それから、流動負債とは。おもに「1年以内に支払いをする負債」です。具体的には、買掛金、支払手形、未払金、短期借入金、1年以内返済長期借入金、預り金、前受金など。
すぐに支払いをしなければいけない、という意味での「流動」。流動性が高い資産のことを「流動負債」と呼びます。これに対して「1年を超えて支払う負債」は、固定資負債と呼ばれます。
この流動資産と流動負債について。財務の安全性という点では、「1年以内に支払いをする負債(流動負債)」よりも「1年以内に現金化する・現金化できる資産(流動資産)」が多いほうがいいわけで。
それが逆になると、資金繰りに詰まってしまう。ゆえに、流動比率は「少なくとも 100%以上」を求められます。
さらには、流動比率が高ければ高いほど安全だという考えから、「150%以上」とか「200%以上」が望ましいなどと言われるところです。
それでは、ここからが本題。中小企業が「流動比率」で安全性を測るのが難しい3つの理由についてです。
《理由1》現金化できない流動資産がある
さきほど、流動資産の例として、売掛金やたな卸資産を挙げました。売掛金とは「売上代金のツケ(未回収金額)」であり、たな卸資産とは「在庫」のことです。
このうち、まずは売掛金について。決算書(貸借対照表)に掲載されている売掛金のなかには、いわゆる「不良債権」が混じっていることがあります。
すでに相手が倒産している、倒産まではしていないけれど代金回収が滞っている。そういうたぐいの売掛金です。
そのような売掛金があるのであれば、損失として「費用化」すべき、というのが会計の考え方になります。
にもかかわらず。税金計算上は経費として認められないから、といった理由で費用化されないことがあるのが中小企業です。
本来、税金計算以前に、決算書は「株主など利害関係者のため」に、会社の実態をあらわすものであるべき。税金計算は別にして「費用化すべきものは費用化すべき」が会計であり決算書です。
ところが、中小企業の株主は経営者と一体であることが多く、大企業のように「多くの第三者株主」の目にさらされることがありません。
ゆえに、費用化を求める会計的な考え方よりも税金計算が優先して、「費用化されない・費用化が遅れる」といったことが起こりやすいのです。
さらに言うと。「なんとか銀行融資を受けたい」などの理由から、粉飾(利益の水増し)として「架空債権(架空売上)」が決算書に掲載されることもあります。やはり、決算書が「閉鎖的」だからです。
では、そのように、本来は「費用化」すべき流動資産が、費用化されずに残っていたらどうでしょう?
当然、流動資産は実態に対して「過大」になります。結果として、流動比率は過大になりますから、実態よりもよく見えてしまいます。
これと同じようなことが、たな卸資産でも起こります。決算書(貸借対照表)に掲載されているたな卸資産のなかには、いわゆる「不良在庫」や「架空在庫」が混じっていることがあるわけです。
したがって、中小企業が自社の流動比率を計算するのであれば、「現金化できない流動資産はないだろうか?」という目で決算書を見るところがスタートです。いきなり流動比率を計算してはいけません。
《理由2》計上していない流動負債がある
こんどは「流動負債」を見ていきます。たとえば、買掛金。買掛金は仕入代金のツケ(未払金額)です。
その買掛金は、粉飾(利益の水増し)に使われることがあります。つまり、状況に応じて買掛金を計上しないことがある、ということです。
もし、仕入代金の支払条件が「末日締め・翌月末払い」だとすれば。決算書(貸借対照表)の流動負債に、買掛金として「1ヶ月分の仕入代金」が掲載されるはずです。
ところが。利益を水増しするために、この買掛金を計上しない。ということが起こりやすいのが中小企業です。繰り返しになりますが、決算書が「閉鎖的」だからです。
では、そのように、本来は掲載すべき流動資産が、掲載されていないとしたらどうでしょう?
流動負債は実態に対して「過小」になりますよね。結果として、流動比率は過大になりますから、実態よりもよく見えてしまいます。
仕入代金における買掛金のほかにも、経費における未払金でも同じようなことが起こります。利益の状況に応じて、買掛金や未払金を計上したりしなかったり…
このような決算書では、意味のある流動比率を計算することはできません。
したがって、買掛金や未払金の計上基準を決算のたびに変えない。計上すべきものは必ず計上する、という決算書をつくりましょう。
《理由3》流動負債の借入金が正しく区分されていない
もうひとつ、流動負債の話をします。借入金についてです。たとえば、5年で毎月分割返済する約束の借入金があったとします。
このうち、決算日から1年以内に返済日が来る部分の金額は、「1年以内返済長期借入金」として流動負債に掲載します。
いっぽうで、1年を超えて返済日が来る部分の金額は、「長期借入金」として固定負債に掲載をするのが、正しい借入金の区分方法です。
ところが、中小企業の決算書を見ていると。この区分がされずに、「すべて長期借入金で固定負債」とされていることがあります。
少々乱暴な言い方をすれば、借入金が流動負債に区分されようが固定負債に区分されようが税金計算に影響はないから。というのが、その理由でしょう。
再三のお話になりますが、株主の厳しい目にさらされる大企業となるとそうはいきません。会社の状況を正しく示すために、区分すべきものは区分します。
では、区分をされずに、「すべて長期借入金で固定負債」とされた場合。流動比率はどうなるのでしょう?
本来、流動負債に掲載すべき金額(1年以内返済長期借入金)が掲載されないのですから、流動負債は実態に対して「過小」になります。
結果として、流動比率は過大になりますから、実態よりもよく見えてしまいます。
決算書をつくる目的が「税金計算」になると、このようなことが起こりがちです。決算書を自社の状況把握・経営判断につかえるように、見直してみましょう。
中小企業は、資金繰りに窮すると、経営者からおカネを借りることが少なくありません。「役員借入金」です。これを、とくに理由なく「流動負債」に「短期借入金」などの勘定科目で掲載しているケースがあります。
けれども、「すぐに返済することが明確ではない役員借入金(つまり、あるとき払いの催促なし)」であれば。「固定負債」に「役員借入金」の勘定科目で掲載しましょう。そうしないと、流動比率が過小になり、実態よりも悪く見えてしまいます。
また、「固定負債」に「役員借入金」と表示することで、銀行は「役員借入金は返済不要であり、実質的に資本金だ」という見方をします。結果として、銀行からの評価を上げる効果がありますので覚えておきましょう。
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まとめ
中小企業が「流動比率」で安全性を測るのが難しい3つの理由についてお話をしてきました。
いずれの理由によっても、流動比率は実態よりも過大になる傾向にあります。
決算書の表面的な数字で流動比率を計算し、実態を見間違えることがないように。じゅうぶん注意をしなければいけません。
- 現金化できない流動資産がある
- 計上していない流動負債がある
- 流動負債の借入金が正しく区分されていない