年に1度、決算のときにまとめてする経理処理である「決算整理」。
その決算整理を銀行はようく見ているのに、会社のほうはあまり見ていない… なんてことはありませんか? というお話です。
決算整理は税理士におまかせ、という会社
会社・事業における「経理」について。日々の取引はそのつど、経理処理をします。
たとえば、「電車に乗った、モノを買った、飲食をした」などの取引があったつど、それぞれ「旅費交通費、消耗品費、接待交際費」などとして経理処理をするわけです。
この日々の経理処理とは別に、年に1度、「決算のときにまとめて」する経理処理があります。
「決算整理」と呼ばれる処理です。そのおもな具体例がこちらです ↓
- 商品・製品などのたな卸
- 減価償却費の計上
- 引当金の繰入
- 各種資産の評価損益の計上
- 不良資産の整理
- 経過勘定科目の整理
こららの決算整理は、日々の経理処理とは異なるという点で「特殊」であることから、「決算整理は顧問税理士におまかせ」という会社は少なくないものと想像します。
つまり、会社としては「決算整理がよくわからない」という状況であり、ややもすると、「決算整理をよくよく見てない」という状況がありうるところです。
これに対して、融資を考える銀行はと言えば。その「決算整理」にこそ注目をしています。
会社は見ていない(かもしれない)決算整理を、銀行はしっかり見ているのです。
その理由は、決算整理が「融資の可否」を判断するのに重要な情報になるから、ということになります。
決算整理いかんによっては「融資はできない」、銀行はそのように考えているということです。
では、銀行が具体的にどう会社の決算整理を見ているのか? このあとお話をしていきます。
会社の決算整理を銀行はどう見ているか?
会社が決算で行うおもな決算整理について。それぞれ銀行がどのように見ているかを順番にお話していきます。
商品・製品などのたな卸
商品や製品など、いわゆる「在庫」を持つ商売をしている会社では、「たな卸」が必要になります。
たな卸とは、ひとことで言えば、「どれだけの在庫があるか?」です。
たな卸の結果は、決算書(貸借対照表)の「商品」や「製品」などの金額にあらわれます。
その「たな卸」に対する銀行の注目ポイントは、「在庫が多すぎないか」です。
在庫には、売れるまではおカネにならないものであり、売れなければおカネ(仕入や製造にかかったおカネ)を失う、という性質があります。
在庫が多いと、その分だけ資金繰りが厳しく(仕入や製造にかかるおカネが売れるよりも先に出ていくから)、もし売れなければ資金繰りはさらに厳しくなる。
ゆえに、銀行は「在庫が多い」を警戒しているのです。
それからもうひとつ。銀行が警戒をしているものに「架空在庫」があります。
ほんとうはありもしないウソの在庫を計上することで、利益が水増しできるという古典的粉飾テクニックはいまなお健在です。
銀行は、「粉飾はないか?」の視点でも在庫を見ています。
これらをふまえて、会社側が見るべきポイントは「同業他社平均と比べてどうか」です。
銀行は、同業他社の在庫水準(たな卸資産回転期間など)についてデータを持っていて、そのデータと融資先の在庫金額を比較検討しています。
だから、会社のほうでも同じように比較検討してみて、同業他社平均よりも自社の在庫が多いのであれば、その理由を明らかにすること。銀行にきちんと説明をすることです。
同業他社平均のデータはネットでも情報収集できますし、顧問税理士から教えてもらうなど、してみるとよいでしょう。
減価償却費の計上
建物や機械設備、自動車や備品類など。いわゆる「固定資産」については、「減価償却」という決算整理が必要になります。
購入金額が高額になる固定資産は、いちどで経費処理をせずに、複数年に分けて経費にする。それが「減価償却」です。
減価償却の結果は、決算書(損益計算書)の「減価償却費」の金額にあらわれます。
その「減価償却」に対する銀行の注目ポイントは、「減価償却費が少なすぎないか」です。
業績が悪い会社では、たびたび減価償却費を過小計上する、あるいは計上すらしない、ということが行われます。経費を減らして利益を増やすためです。
要するに粉飾決算であり、銀行が警戒するところになります。
なお、いくらの減価償却費を計上すればよいかは、基本、税法で定める上限額であり、銀行もその金額を計算しています。
ゆえに、会社が減価償却費を少なく計上しても、銀行にはすぐにわかってしまうということは覚えておきましょう。
ちなみに、法人税法でいう「繰越欠損金」がある場合には、ムダに税金を払わないようにするために、あえて減価償却をしないというケースがあります。
そのようなときには、銀行に対して顧問税理士から説明をしてもらう、あるいは一筆入れてもらうなどの対応をするのがよいでしょう。
粉飾ととられてしまってはかないませんので。
引当金の繰入
将来の支出に備えるために費用を見積もり計上することを「引当金の繰入(ひきあてきんのくりいれ)」と呼びます。
たとえば、売上代金の回収不能に備える貸倒引当金、退職金の支給に備える退職給付引当金、賞与の支給に備える賞与引当金など。
これら引当金の繰入の結果は、決算書(損益計算書)に「〇〇引当金繰入」としてあらわれます。
その「引当金の繰入」に対する銀行の注目ポイントは、「引当金の繰入が少なすぎないか」です。
業績が悪い会社では、たびたび引当金の繰入が過小、あるいは繰入すらしない、ということが行われます。前述した減価償却費と同じく、経費を減らして利益を増やすためです。
本来すべき引当金の繰入がなければ、銀行としては「ほんとうはもっと利益が少ないはずだ」と見ることになります。
また、引当金の繰入のなかには、税金計算上は経費に認められないものがあり(賞与引当金など)、だから引当金の繰入をしない、という決算書があります。
けれども、決算書は税金計算以前に、「会社の状況を正しく示すもの」です。税金計算がどうあれ、必要な引当金は繰入するのが正論です。
そう考えると、本来すべき引当金の繰入がないような決算書については、「信頼できない決算書」との評価がなされてもしかたありません。
その場合には、もちろん、銀行からの評価が下がるわけですから、会社にとってよいことではないでしょう。
銀行融資を考えるのであれば、税金計算のための決算書ではなく、会社の状況を正しく示すための決算書をつくる。この点、顧問税理士との意思疎通をしておくことをおすすめします。
そうしておけば、決算書で引当金の繰入をしつつ、法人税申告書で正しい税金計算をする、という対応をしてもらえるはずです。
各種資産の評価損益の計上
決算のときには、たな卸資産(在庫)や株式などの有価証券などの各種資産について「評価損益」の確認を行います。
評価損益とはつまり、資産を取得したときよりも、決算時点の時価が上がっていれば「評価益」、下がっていれば「評価損」を言います。
これら評価損益の確認の結果は、決算書(損益計算書)に「〇〇評価損」「〇〇評価益」としてあらわれます。
その「評価損益」に対する銀行の注目ポイントは、「評価損が計上されているかどうか」です。
前述した引当金の繰入と同じく、税金計算上は経費に認められない評価損があります。
不正確ながらもイメージで言うと、ちょっとした金額の評価損を経費にすることは認めないのが税法のスタンスです。
よって、ほとんどの決算書では「評価損の計上」が見られません。
いっぽうで、本来あるべき決算書は、「会社の状況を正しく示すもの」でしたよね。
であるならば、税金計算がどうであろうと、「評価損があるのであれば計上すべき」が本来の決算書です。銀行は、本来の決算書を見たいのです。
だから、銀行は「評価損が計上されているかどうか」を見ているのであり、計上があるのであれば「信頼できる決算書」だとの評価をします。
繰り返しになりますが、ほとんどの決算書では「評価損の計上」が見られないからです。
ほとんどの決算書ではやらないことなのに、あえてきちんとやっている決算書は、銀行へのアピールにもなります。
在庫や有価証券などになにかしらの評価損があるのであれば、決算書に掲載することを顧問税理士と相談をしてみましょう。
評価損を計上することは対銀行のためだけではなく、自社が「会社の正しい状況を知る」ためでもあるのは言うまでもありません。
不良資産の整理
もう売れないたな卸資産(在庫)がある、もう使えない固定資産がある、という場合。決算では、「不良資産」として整理を行います。
これら不良資産の整理の結果は、決算書(損益計算書)に「〇〇廃棄損」としてあらわれます。
その「不良資産の整理」に対する銀行の注目ポイントは、「廃棄損が計上されているかどうか」です。
業績が悪い会社では、廃棄損を計上すればますます赤字が膨らむことから、廃棄損を隠そうとします。
銀行もそれはわかっていますから、在庫や固定資産に「廃棄」の対象になるものはないか? もしあれば、それが廃棄損として計上されているかを見ているわけです。
この点で、同業他社に比べて在庫水準が高いようだと、「ほんとうは不良資産があるんじゃないの?」と疑われます。
また、会社の工場見学をした際に、動いてなさそうな機械設備を見つけると、「あれって廃棄損の対象では?」などと疑っていたりします。
ことほどさように、銀行は「不良資産」について関心を持っている、ということは理解しておきましょう。
言い換えると、ほんとうは違うのに不良資産だと見られてしまいそうなことがあれば、きちんと説明をするということです。あらぬ「誤解」をされてはかないませんので。
経過勘定科目の整理
決算整理のなかに、「経過勘定科目の整理」というものがあります。
経過勘定科目とは、「前払費用」「未収収益」「前受収益」「未払費用」の4つです。
これらのくわしい説明は省きますが、4つの経過勘定科目に共通しているのは、「サービス提供の時期と、その対価の支払時期がズレている」ということです。
それをふまえて、「経過勘定科目の整理」に対する銀行の注目ポイントは、「費用を隠していないか・収入を偽装していないか」です。
経過勘定科目を「調整」すると、費用を隠す・収入を偽装することができるため、銀行はそこを疑っています。
具体的に言うと、このような見方です ↓
- 前払費用が多い → 費用を隠していないか
- 未収収益が多い → 収入を偽装していないか
- 前受収益が少ない → 収入を偽装していないか
- 未払費用が少ない → 費用を隠していないか
その年1年だけの決算書を見るのではなく、前年・前々年などの決算書と比較をして「推移」で見るのがポイントです。
推移で見たときに経費勘定科目の明らかな増減があれば、そこを疑います。
業績が悪くなると、たとえば、経費を減らすために各種経費を前払費用に振り替えます。結果、前年・前々年よりも前払費用が増えます。
また、経費を減らすために未払費用の計上を控えたりもします。結果、前年・前々年よりも未払費用が減ります。
このような増減が多く、明らかな「利益調整」だと銀行が見れば、銀行は正しいと思われる利益に修正をしなおして決算書を評価します。
「利益調整」がはなはだしく、正しい状況がわからない決算書、信頼できない会社、と見られることにもつながるところです。
処理が手軽なだけに、わりと「調整」をしてしまいがちなところですから気をつけましょう。
銀行と同じように、前年・前々年などの決算書と比較をして、経過勘定科目の残高は「推移」で確認しておくことが大切です。
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まとめ
会社は見ていない決算整理、銀行は見ている決算整理、ということについてお話をしてきました。
年に1度の決算整理。銀行は「融資の可否」に関わる重要情報として注目をしています。
税理士におまかせなのでよくわからない、ということがないように。まずは決算整理の内容を理解する、加えて、銀行の見方を押さえておきましょう。
- 商品・製品などのたな卸
- 減価償却費の計上
- 引当金の繰入
- 各種資産の評価損益の計上
- 不良資産の整理
- 経過勘定科目の整理