自社の決算書・試算表を見たときに、「短期借入金」の勘定科目はありますか?
「いや、無いよ」と言うのなら。会社の危ない資金繰りに注意をしましょう、というお話をしていきます。
短期借入金を探せ
会社の財務状況を示す書類として、「決算書」と「試算表」が挙げられます。
1年に1度の決算時につくる「決算書」。そして、毎月つくる「試算表」。
では、自社の決算書・試算表を見たときに、「短期借入金」の勘定科目は掲載されているでしょうか?
掲載されているとすれば、「貸借対照表」の「負債の部」、そのなかの「流動負債」のひとつとして、短期借入金はあるはずです。
この短期借入金について、「いや、無いよ。決算書にも試算表にも載ってない」と言う場合。
会社の資金繰りに「危ない」ところがあるかもしれません。
「え、そうなの?」と思われるかもですが、事実そうなのです。
というわけで。「短期借入金」が無い会社の資金繰りが危ない理由について、このあとお話をしていきます。理由は次の3つです ↓
- 納税・賞与でムリをしているから
- 短期継続融資を受けていないから
- 1年以内に返済する借入金を把握していないから
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
決算書・試算表に「短期借入金」が無い会社の資金繰りが危ない理由
《理由1》納税・賞与でムリをしているから
会社は利益が出ると、利益の金額に応じて税金を支払うのがルールです。
この税金を支払うためのおカネ、いわゆる「納税資金」は、銀行から融資を受けることができます。
納税資金の融資は「6ヶ月で返済」と短期での返済を求められることから、決算書・試算表では「短期借入金」として掲載されることになります。
ちなみに、短期か長期かの区分は、返済期限が1年以内は短期、1年超は長期、というのが会計の考え方です。
ゆえに、「6ヶ月で返済」の納税資金の融資は、短期借入金になります。
それはそれとして。
納税資金の融資は、税金を支払うおカネが無いときにだけ利用するものではありません。
たとえ、手元にあるおカネで税金を支払えるときにも、あえて融資を受けることも資金繰りには有効です。
言うまでもありませんが、手元のおカネで税金を支払うと、現金預金残高は一時的に大きく減少します。融資を受ければ、これを防ぐことができます。
たとえば、300万円の税金を手元のおカネで支払うと、現金預金残高は 100万円。この場合、100万円でしばらくやりくりをしなければいけません。
いっぽうで、300万円の融資を受けていれば、現金預金残高は 400万円のまま。資金繰りはラクにできます。
もちろん、融資を受けずに納税できるのがいちばんです。けれども、納税のタイミングで必ずしもじゅうぶんなおカネがあるわけではありません。
利益が出るタイミングと、おカネが増えるタイミングとは必ずしも一致をしないからです(商品をお客に引き渡せば利益が出ますが、代金回収しておカネが増えるのはもっとあと、など)。
したがって、資金繰りを安定させるために、納税資金の融資を受ける。そのような選択をした会社の決算書・試算表には「短期借入金」が掲載されることになります。
また、納税資金と似たような話として、「賞与資金」の融資もあります。
会社が従業員に賞与を支払うと、やはり現金預金残高は一時的に大きく減少します。資金繰りが不安定になります。だから、賞与資金の融資を受ける。
この場合の融資も、「6ヶ月で返済」と短期での返済を求められることから、決算書・試算表では「短期借入金」として掲載されることになります。
なお、納税資金も賞与資金も、比較的に受けやすい融資だと言えます。
納税できるということは、利益が出ているということであり、業績好調の証です。ゆえに、銀行も好意的・積極的な見方をします。
賞与については、賞与を支払えるだけの利益があるとの見方がひとつ。加えて、融資の使いみちも明確であるため、銀行は融資をしやすいのです。
これら納税資金・賞与資金について、決算書・試算表に短期借入金が無いのであれば、利用を検討してみましょう。
《理由2》短期継続融資を受けていないから
会社の資金繰りを考えるうえで、「経常運転資金(正常運転資金などとも言います)」を外すことはできません。
経常運転資金とは、「売上債権 + たな卸資産 − 仕入債務」の算式で計算される金額を言います。
これについて、かんたんに解説をすると、
上記算式中の前半、「売上債権(売掛金・受取手形)」と「たな卸資産(在庫)」は、おカネが入金されるのを待っている状態のものです。
算式後半の「仕入債務(買掛金・支払手形)」は、逆に、おカネを支払うのを待ってもらっている状態のものです。
両者の差額である「経常運転資金」分のおカネが無いと、会社の資金繰りはもたない(経費の支払いなどができない)ことになります。
そこで、会社は経常運転資金分のおカネを用意するべく、銀行融資を受けるわけです。
このとき、「毎月分割返済・最終返済期限が1年超」で融資を受ける場合、決算書・試算表には「長期借入金」として掲載されることになります。
前述したとおり、短期か長期かの区分は「返済期限が1年以内は短期、1年超は長期」でしたよね。
ところが、です。
経常運転資金を「毎月分割返済・最終返済期限が1年超(=長期借入金)」で融資を受けると資金繰りが危なくなります。
なぜなら、毎月返済を続けることで、手元の資金はどんどんと目減りをしていくからです。
融資を受けた当初は、経常運転資金分のおカネがあったはずなのに、気づいたら経常運転資金分のおカネは全然無いっ!だから、資金繰りが厳しくなる。
当然といえば当然のハナシ、なのですが。話せば長くなる歴史的背景があって、これがフツーのこととして長らく定着しました。
しかし、ここ最近になって、「やっぱりおかしいだろう」という趣旨で、状況が変わりつつあります。
経常運転資金は、返済期限1年以内の短期で融資をする。期限が来たら、そのときの状況を見て、変わりがなければそのまま更新をする。
誤解を恐れずに言えば、借りたら借りっぱなし。返済はなし(利息はもちろん支払います)。このような融資を「短期継続融資」と呼びます。
これであれば、経常運転資金分のおカネが目減りすることはありません。
したがって、会社が必要とする経常運転資金については、短期継続融資でおカネを借りるのがおすすめです。従来の「毎月分割返済・最終返済期限が1年超」からの転換をはかりましょう。
結果、短期継続融資を受けて、資金繰りが改善した会社の決算書・試算表には「短期借入金」が掲載されることになります。
《理由3》1年以内に返済する借入金を把握していないから
さきほど、経常運転資金の話で、「毎月分割返済・最終返済期限が1年超」の融資は「長期借入金」だと言いました。
これにはもうひとつ、会計的な論点があります。
長期借入金のうち「1年以内に分割返済する金額」は、決算書・試算表では「短期借入金」として区分する、というものです。
たとえば、300万円を5年の毎月均等分割返済で融資を受けた場合。最終返済期限は5年後ですから「長期借入金」です。
ただし、向こう1年以内に分割返済する 60万円(5万円 × 12ヶ月)については、「短期借入金」として分けて掲載する。
まとめると。長期借入金が 240万円、短期借入金が 60万円。合わせて 300万円、そういうことです。
ところが。ここで言う「短期借入金 60万円」を区分して掲載をしていない決算書・試算表というものも散見されます。
このような決算書・試算表が抱える問題点は、向こう1年のあいだに(つまり近いうちに)返済として必要になる金額を、すぐには把握できないということです。
逆に。短期借入金として把握できていれば、「あぁ、1年間で 60万円の税引後利益があれば返済に困ることはないんだな」ということがすぐにわかります(厳密には、税引後利益+減価償却費です)。
そう考えると。「短期借入金 60万円」を区分せず、返済に必要なおカネを把握できていない会社の資金繰りは危ない、と言えます。
また、銀行が融資先の決算書・試算表を見るにあたっても。そのような区分ができていない会社は、「財務的管理能力が低そうだ」との評価にもなりかねません。
「低評価を受ける→融資が受けづらくなる」ということであれば、これまた資金繰りは危なくなります。
というわけで。「毎月分割返済・最終返済期限が1年超」の融資については、決算書・試算表で「短期と長期」に区分をしましょう。
さいごに補足をひとつ。
納税資金や賞与資金の融資、短期継続融資は、「そもそもの最終返済期限が1年以内」です。ゆえに、純然たる「短期借入金」です。
いっぽうで、「毎月分割返済・最終返済期限が1年超」の融資については、「そもそもの最終返済期限は1年超」です。
よって、そのうちの「1年以内に分割返済する金額」は、純然たる「短期借入金」と比べると、純然とは言い難い。
そこで、それらを区別するために、「毎月分割返済・最終返済期限が1年超」の融資のうち「1年以内に分割返済する金額」には、「1年以内返済長期借入金」という勘定科目も利用されます。
貸借対照表の「負債の部」、そのなかの「流動負債」に、「短期借入金」と並べる形で「1年以内返済長期借入金」を掲載するわけです。
こうしておけば、純然たる短期借入金との区別も、より明確になります。
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まとめ
決算書・試算表に『短期借入金』が無い会社は危ない資金繰りに要注意、というお話をしてきました。
短期借入金が無いと、なぜ資金繰りが危ないと言えるのか。その理由を押さえたうえで、自社の決算書・試算表をチェックしてみましょう。
- 納税・賞与でムリをしているから
- 短期継続融資を受けていないから
- 1年以内に返済する借入金を把握していないから