決算書や試算表に掲載されている「売掛金が多い」と、銀行からは嫌われます。嫌われれば、融資が受けられない、あるいは受けにくくなってしまいます。
「売掛金が多い」は銀行に嫌われる理由と、嫌われたままにならないように対応手順とを押さえておきましょう。
売掛金が多い=売掛金回転期間が高い
会社・事業における銀行融資について。
決算書や試算表に掲載されている「売掛金が多い」と、融資を受けるにあたって銀行からは嫌われます。
ちなみに。ここで言う「売掛金が多い」とは、「売掛金回転期間が長い」ことを指します。
ではその「売掛金回転期間」とは? こちらです ↓
売掛金回転期間(ヶ月) = 売掛金 ÷ ( 年間売上高 ÷ 12ヶ月 )
たとえば、年間売上高 6,000万円、売掛金 1,000万円だとしたら。その会社の売掛金回転期間は2ヶ月になります ↓
- 1,000万円 ÷( 6,000万円 ÷ 12ヶ月)= 2ヶ月
つまり、その会社は売掛金を2ヶ月で回収している(=売上から入金まで2ヶ月かかる)ことになります。
こうして計算された売掛金回転期間について。同業他社平均と比べて長かったり、その会社の過去の推移からみて長くなっているときに、銀行は「売掛金が多いなぁ(多くなっているなぁ)」と考えるのです。
あとは、冒頭で言ったとおり。「売掛金が多い」と、融資を受けるにあたって銀行からは嫌われます。
嫌われれば融資が受けられない、あるいは受けにくくなってしまうので困ったことです。
そこで、このあとお話をするのは、
- なぜ「売掛金が多い」は銀行に嫌われるのか? その理由
- 「売掛金が多い」にはどう対応したらよいのか? その対応手順
それでは、順番に見ていきましょう。
「売掛金が多い」は銀行に嫌われる4つの理由
なぜ「売掛金が多い」は銀行に嫌われるのか? その理由は次の4つです ↓
- 架空売上が疑われる
- 不良債権が疑われる
- 得意先の問題が疑われる
- 売上不振が疑われる
《嫌われる理由1》架空売上が疑われる
世の中には「粉飾決算」をする会社があります。
たとえば、実際よりも業績をよく見せるために架空の売上を決算書に計上する。このとき、同時に架空の売掛金が計上されると、その分だけ売掛金回転期間が長くなります。
架空であるがゆえに、いつまでたっても回収されることはありませんので、架空の売掛金がずっと残り続けてしまうからです。
事実を偽る「粉飾決算」は銀行がもっとも嫌うところであり、その粉飾決算が連想されることから、「売掛金が多い」は銀行に嫌われることになります。
《嫌われる理由2》不良債権が疑われる
売り上げたのにもかかわらず。その後、得意先が倒産。売上代金が回収できない… ということがあります。いわゆる不良債権です。
このとき、回収できない売上代金を、売掛金として決算書に残し続けると。その分だけ売掛金回転期間が長くなってしまいます。
正しくは、回収できない金額を「損失」として、売掛金は減額をすべきところです。
この点で、減額をせずに、資産(売掛金)を水増ししていることが連想されるために、「売掛金が多い」は銀行に嫌われます。
《嫌われる理由3》得意先の問題が疑われる
倒産まではいかずとも。得意先が業績不振により、売上代金の支払いが遅れている、ということもあるでしょう。
この場合、やはり売掛金が決算書に残り続けるので、その分だけ売掛金回転期間が長くなります。
入るはずのおカネが入ってこないのですから、会社の資金繰りは悪化。ここで銀行が融資をすれば、貸したおカネを返してもらえないことも連想されるところですから、「売掛金が多い」は銀行に嫌われます。
また、売上代金の支払いが遅れるケースは、得意先の業績不振だけではありません。
提供した商品やサービスの不具合などにより、得意先が支払いを拒んでいるというケースもありえます。
この場合にも、売掛金が決算書に残り続けるので、その分だけ売掛金回転期間が長くなります。
いずれにせよ、会社の資金繰り悪化が連想されるところですから、銀行に嫌われることに変わりはありません。
《嫌われる理由4》売上不振が疑われる
売上不振に陥った会社が、なんとしても売上をあげようと無理をすることがあります。
具体的には、売上先に対して回収条件を甘くする、です。
たとえば、これまでは「月末締め・翌月末入金」を条件にしていたのに、「月末締め・翌々月末入金」にする、など。
回収までの期間が伸びることで、これまでよりも多く売掛金が決算書に残り続けます。結果、売掛金回転期間が長くなります。
回収までの期間が伸びれば、会社の資金繰りは悪化。ここで銀行が融資をすれば、貸したおカネを返してもらえないことも連想されるところです。
また、売上不振自体も今後の不安要素であり、ますます資金繰りの悪化が連想されるところですから、「売掛金が多い」は銀行に嫌われます。
「売掛金が多い」は銀行に嫌われる への対応手順
続いて、「売掛金が多い」にはどう対応したらよいのか? その対応手順は次のとおりです ↓
- 売掛金回転期間が長くないかを確認する
- 原因を把握する
- 今後に与える影響を把握する
- 上記について銀行に伝える(正直に)
《対応手順1》売掛金回転期間が長くないかを確認する
「売掛金が多い」と銀行から嫌われる理由は前述したとおりです。
では、「売掛金が多い」とは? 売掛金回転期間が大きい、ということでしたよね。
ですから、まずは自社の売掛金が多くないか、売掛金回転期間が長くないかを確認することです。
自社の決算書を見て、売掛金回転期間を計算してみましょう。
そのうえで、同業他社平均(ネットや書籍などから調べることができます)と比べてみたり、自社の過去の推移と比べてみたりして、売掛金回転期間が長くないかを確認です。
《対応手順2》原因を把握する
もし、売掛金回転期間が大きいとわかったら。次は、その原因を調べましょう。
原因は、前述した「売掛金が多い」は銀行に嫌われる4つの理由のいずれかに分類されるはずです。つまり、次のいずれかを原因として、売掛金回転期間が長くなっている ↓
- 架空売上がある
- 不良債権がある
- 得意先の問題がある
- 売上不振がある
自社のことですから、どの原因がはあるていど察しもつくはずです。原因がひとつだけではなく複数ある場合もあるでしょう。
それぞれの原因について、その原因によって「どれだけ売掛金が増えているのか」「どれだけ売掛金回転期間が長くなっているのか」を数字で具体的に把握することが大切です。
売掛金回転期間が長くなる原因は、本文中の4つのほかにも、実はもうひとつあります。なんでしょうか?
それは、決算日近くに通常よりも大きな金額の売上があった場合です。この場合には問題がないのにもかかわらず、売掛金回転期間が長くなります(よくわからなければ実際に計算をしてみましょう)。
ムダに嫌われることがないように、銀行には積極的に説明をすべきところです。
《対応手順3》今後に与える影響を把握する
《対応手順2》で把握した原因については、いま現在までだけではなく、今後にも影響を与える可能性があります。
たとえば、得意先の業績不振による場合。今後はその得意先からの売上が減少する可能性があります。
どれくらいの売上減少が見込まれるのか、それを補う手立てはなんなのかを検討・把握しておきましょう。
また、自社の売上不振による場合。今後もしばらく不振は続く可能性があります。
いつからどれくらいの改善が見込まれるのか、改善の手立てはなんなのかを検討・把握しておきましょう。
これをしなければ、銀行が連想するとおりの「資金繰り悪化」を迎えてしまいます。
《対応手順4》上記について銀行に伝える(正直に)
《対応手順2》と《対応手順3》で把握できた内容について、銀行にも伝えるようにしましょう。
銀行は、「売掛金が多い(売掛金回転期間が大きい)」ことまではわかっても、その原因や今後の影響までは把握できていないことがあります。
結果、銀行の憶測によって「誤解」をされたり、「あらぬ疑い」をかけられたりするのでは不利益です。融資が受けられない、受けにくくなってしまいます。
こちらから自主的に「事実」を伝えて、ムダな不利益を被ることがないようにしましょう。
なお、「ウソ」は厳禁です。ほんとうは粉飾決算がある、不良債権があるのに無いと言う。バレたときには(基本、バレます)、銀行との信頼関係の修復は困難です。
やってしまったことは正直に言う。そのうえで、「これからは絶対にしない」との宣言をするほうが望みはあります。
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まとめ
売掛金回転期間が同業他社平均と比べて長かったり、その会社の過去の推移からみて長くなっているときに、銀行は「売掛金が多いなぁ」と考えるものです。
このとき、なにもせずにいると。融資が受けられない、あるいは受けにくくなってしまいます。
銀行が「売掛金が多い」を嫌う理由を理解して、嫌われたままにならないように対応手順を押さえておきましょう。