決算書のうち「貸借対照表」の「負債の部」に掲載される勘定科目「買掛金」。
その勘定科目を、銀行はどのような目で見ているのか? 回転期間の長短がだいじ、というお話です。
銀行は買掛金を「回転期間」で見ている
会社・事業における銀行融資について。
銀行が融資の可否を判断するための材料はさまざまありますが。なかでも「決算書」は大きなウエイトを占めています。
つまり。決算書の良し悪しが、融資を受けられるかどうかを大きく左右する、ということです。
そんな決算書には、ズラリと「勘定科目」が並んでいるわけですが。そのなかから、「買掛金」をピックアップしてみます。
ちなみに、買掛金とは。決算書のうち「貸借対照表」の「負債の部」に掲載される勘定科目です。
買掛金の「額」は、会社が商品や材料の仕入、外注費などの支払いをツケ(いわゆる掛取引)にしている金額をあらわします。いま現在は未払い、近いうちに払うべき金額です。
その買掛金を、銀行はどのような目で見ているのか? 端的に言えばこうなります ↓
『銀行は買掛金を回転期間で見ている』
というわけで、このあとは次のようなお話をしていきます ↓
- 買掛金の回転期間とは?
- 銀行による買掛金の回転期間の見方
それでは順番に見ていきましょう。
買掛金の回転期間とは?
さきほど、「銀行は買掛金を回転期間で見ている」と言いました。では、「銀行がどのように回転期間を見ているのか?」の話をする前に。
そもそも、「買掛金の回転期間とはなにか?」の話をしておきます。買掛金の回転期間を算式であらわすとこうなります ↓
買掛金回転期間(日) = 買掛金 ÷ 年間の売上高(※) × 365
※ 年間の売上原価を使うほうがより厳密です
これによって計算される買掛金回転期間の値は、「買掛金を支払うまでの期間(日数)」をあらわしています。
たとえば、買掛金が 500万円、年間の売上高が 5,000万円だとしたら。買掛金回転期間は 36.5日(500万円 ÷ 5,000万円 × 365)。
つまり、「ツケで仕入れをしてから支払いをするまでの期間が 36.5日」だということです。
この点で。買掛金回転期間が長ければ長いほど、支払いを遅くすることできているわけですから、その分、資金繰りはラクになります。
逆に、買掛金回転期間が短ければ短いほど、早く支払いをしなければいけませんから、その分、資金繰りはツラくなります。
なるほどなるほど。それなら、買掛金回転期間は長いほうがいいのだな。と、カンタンにはいかないのが買掛金回転期間の難しいところです。
カンタンにはいかない買掛金回転期間を「銀行」はどう見ているのか? このあとお話をしていきます。
銀行による買掛金の回転期間の見方
ここまで「買掛金回転期間とは?」についてお話をしてきました。ここからは、その買掛金回転期間を銀行がどう見ているか? という「見方」のお話になります。
まずはじめに。買掛金回転期間は、「ある1年だけ」を見るのでは不十分です。
そこで銀行は、「過去数年分」の買掛金回転期間を並べてみて、その推移や傾向を把握します。買掛金回転期間は長くなっているのか、短くなっているのか?
また、買掛金回転期間は、「その会社だけ」を見ているのでも不十分です。
そこで銀行は、「同業他社」の買掛金回転期間と比べてみて、異常な値ではないかを確認します。買掛金回転期間は長すぎないか、短かすぎないか?
その結果、買掛金回転期間が長いときに銀行はなにを考えるのか、短いときにはなにを考えるのか? このあと、それぞれお話をしていきます。
買掛金回転期間が「長い」ときに銀行が考えること
銀行が融資先の買掛金回転期間を計算してみたところ。買掛金回転期間が長くなっている傾向がある、同業他社よりも長すぎる、という場合。
銀行は大きく分けて2つのことを考えています。
1つめは、「仕入先と支払条件を交渉して資金繰りの安定をはかったのかな?」です。
交渉によって、仕入から支払までの期間を伸ばして資金繰りをラクにする。会社が取りうる資金繰り策のひとつとして、銀行も理解をするところです。
ただし。支払までの期間を伸ばすことと引き換えに、仕入単価の引き上げを要求されるケースもありえます。支払を待つかわりに値段は高くする、ということです。
すると、仕入が増える分だけ会社の利益は少なくなってしまいますから、中長期的には資金繰りの悪化につながります。銀行としては心配なところです。
したがって、支払までの期間を伸ばしても単価引き上げにはいたらないのであれば、その旨を銀行には説明しておくようにしましょう。銀行の心配を解消できます。
それからもう1つ、買掛金回転期間が「長い」ときに銀行が考えることの2つめは、「資金繰りが厳しくて、支払を待ってもらっているのかな?」です。
会社は資金繰りに窮すると、やむを得ず仕入先への支払などを待ってもらうことがあります。そのような「危険な状態」を銀行は想像しているわけです。
当然、銀行としては融資を躊躇するところですから、会社としては融資が受けにくくなります。
そこで会社は、向こう1年ていどの「予測資金繰り表」を作成して、資金繰りには支障がないことを説明するのがよいでしょう。
銀行は「貸したおカネを確実に回収しなければいけない」という立場上、どうしても「悪いほう、悪いこと」を想像するものです。
悪い想像を払拭するためにできることをやりましょう。
買掛金回転期間が「短い」ときに銀行が考えること
銀行が融資先の買掛金回転期間を計算してみたところ。買掛金回転期間が短くなっている傾向がある、同業他社よりも短すぎる、という場合。
やはり、銀行は大きく分けて2つのことを考えています。
1つめは、「支払を早めることにより、仕入単価の引き下げをはかっているのかな?」です。
仕入先に対して支払を早めることと引き換えに、仕入単価の引き下げを交渉する。会社が取りうる利益改善策のひとつとして、銀行も理解をするところです。
買掛金の支払が早まると、必要な運転資金(所要運転資金)は増加しますから、その分の銀行融資を受けるのは常套手段になります。
支払条件と仕入単価が変わったことがわかる契約書・請求書などを証拠書類として銀行に提示しつつ、増加した運転資金分の融資を受けるようにしましょう ↓
それからもう1つ、買掛金回転期間が「短い」ときに銀行が考えることの2つめは、「仕入先から支払を早めるよう要求されたのかな?」です。
力関係が上である仕入先からは、こちらに不利な支払条件を要求されるのはありうること。銀行もそこは理解をしています。
ただし、銀行としては「このあとの資金繰りに問題はないのか?」は気になるところです。
したがって、向こう1年ていどの「予測資金繰り表」を作成して、資金繰りには支障がないことを説明するのがよいでしょう。支障があるようなら、運転資金の増加として融資を依頼する際の説得材料にもなります。
また、仕入先から支払を早めるよう要求されるケースとして、仕入先が「信用不安」を感じているということもあるでしょう。
支払の状況や周囲のウワサなどから「あの会社はつぶれるかもしれない」などと考えれば、早く代金を回収しようとするのは当然です。
銀行としては心配に思うところですが、ここも「予測資金繰り表」を使って、心配がないことを説明をするのがよいでしょう。
加えてもうひとつ。資金繰りに窮している仕入先を助ける意図で、みずから支払を早めるというケースもありえます。
この場合には、前述した「力関係による支払条件の悪化」や「信用不安による支払要求」と銀行に見られてしまわないように、事情を説明するようにしましょう。
あわせて「予測資金繰り表」を提示して、仕入先を助けるために支払を早めても資金繰りには問題がないことを説明するのも忘れずに。
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まとめ
決算書のうち「貸借対照表」の「負債の部」に掲載される勘定科目「買掛金」。その買掛金を銀行は、「回転期間」で見ています。
したがって、会社もその回転期間を把握し、回転期間の「長短の理由」を銀行に説明できるようにしておきましょう。
必要に応じて説明ができれば、銀行からの誤解を回避できたり、融資をスムーズに受けることができたり、につながります。