売上高が増えて良かった! と、会社が考えていても。銀行は必ずしも良かったとは考えていないものです。
決算書の良し悪しは表裏一体。悪い面を見る銀行には、良い面をアピールするようにしましょう、というお話です。
良い面と悪い面とは表裏一体
融資を受けようとする、あるいは受けている会社が、銀行から提示を求められる決算書。
その内容が良ければ融資は受けやすくなり、悪ければ融資は受けにくくなります。
この点で。会社は「良い」と考えているのにもかかわらず、銀行は「悪い」と考えている、ということもあるものです。
たとえば、前回の決算書よりも「売上高が増えた」として。
会社は「売上高が増えて良かった」と考えています。ところが銀行は「必ずしも良かったとは言えない」と考えている、かもしれません。
いっぽうで、前回の決算書よりも「売上高が減った」として。
会社は「売上高が増えて悪かった」と考えています。ところが銀行は「必ずしも悪かったとは言えない」と考えている、かもしれません。
つまり。売上高の増減には、それぞれ良い面と悪い面とがある。そして、会社の見方と、銀行の見方とは異なるかもしれない、ということです。
これは、売上高の増減に限らず、決算書に掲載される他の項目についても当てはまります。
したがって、会社は「良い面」をアピールすることが大切です。銀行が「悪い面」を見ているのであれば、「良い面」をアピールできないか検討しましょう。
というわけで。決算書に掲載される項目の「増減」に対して、それぞれどのような「良い面」と「悪い面」とが考えられるか、をこのあとお話していきます。
決算書の良し悪しは表裏一体であること、良い面と悪い面の2つの見方があることを押さえておきましょう。
貸借対照表の増減とその良し悪し
決算書のうち、「貸借対照表」に掲載されるおもな項目の増減と、その良し悪しについてまとめます。
売掛金、受取手形
増加の良い面
売上が増加したことをイメージさせる。
増加の悪い面
回収条件の悪化や未回収(不良債権)、架空売上(粉飾)をイメージさせる。
→ 売掛金、受取手形の内訳を明示するのがよい
減少の良い面
回収条件の改善や未回収(不良債権)の解消をイメージさせる。
減少の悪い面
売上が減少したことをイメージさせる。
→ 今後の受注見通しを明示するのがよい
たな卸資産(在庫)
増加の良い面
売上増加にともなう在庫確保、売上増加に向けた品ぞろえ強化をイメージさせる。
増加の悪い面
不良在庫、架空在庫(粉飾)をイメージさせる。
→ 在庫の内訳・入出庫の動きを明示する、倉庫・現物を見てもらうのがよい
減少の良い面
不良在庫、架空在庫(粉飾)の解消をイメージさせる。
減少の悪い面
売上減少にともなう在庫処分、品ぞろえの弱さをイメージさせる。
→ 今後の受注見通し、品ぞろえに対する考え方を明示するのがよい
固定資産(土地、建物、機械、什器)
増加の良い面
売上増加・事業拡大にともなう投資をイメージさせる。
増加の悪い面
過剰設備・過剰投資の可能性をイメージさせる。
→ 必要な設備・必要な投資であること(設備のスペック、投資の効果など)を説明するのがよい
減少の良い面
過剰設備の処分、売却による現金預金増加をイメージさせる。
減少の悪い面
売上減少・事業縮小にともなう処分、資金繰りに窮していることによる売却をイメージさせる。
→ 処分・売却の理由を明示するのがよい
買掛金・支払手形
増加の良い面
売上増加による仕入増加、支払条件の改善をイメージさせる。
増加の悪い面
原価率の悪化(仕入値高騰)、資金繰りの悪化による支払遅延をイメージさせる。
→ 仕入値の推移、資金繰り表を提示するのがよい
減少の良い面
原価率の改善(値引)に向けた支払早期化、資金繰りの改善をイメージさせる。
減少の悪い面
売上減少による仕入減少、支払条件の悪化をイメージさせる。
→ 今後の受注見通し、支払条件の状況を明示するのがよい
借入金
増加の良い面
売上増加による増加運転資金の借入、事業拡大にともなう設備資金の借入をイメージさせる。
増加の悪い面
資金不足、赤字補てんのための借入増加をイメージさせる。
→ 資金繰り表、経営計画書を提示するのがよい
減少の良い面
順調に返済が進んでいる、事業好調にともなう借入削減をイメージさせる。
減少の悪い面
業績悪化などにともなう銀行からの借入困難をイメージさせる。
→ 資金繰り表や経営計画書を提示して、業績悪化の問題はないこと。銀行借入金一覧表を提示して、各銀行との取引状況を説明するのがよい
損益計算書の増減とその良し悪し
決算書のうち、「損益計算書」に掲載されるおもな項目の増減と、その良し悪しについてまとめます。
売上高
増加の良い面
業績好調、値上げの実行をイメージさせる。
増加の悪い面
値下げによるムリな販売、押し込み販売、架空売上などをイメージさせる。
→ 売上計画、原価率の推移を提示するのがよい
減少の良い面
利益率向上への取り組み、不採算部門の整理をイメージさせる。
減少の悪い面
業績悪化、値下げをイメージさせる。
→ 今後の受注見通し、原価率の推移を提示するのがよい
売上原価・製造原価
増加の良い面
売上好調による仕入増加をイメージさせる。
増加の悪い面
仕入値高騰、生産効率の悪化(製造にともなう人件費の増加など)をイメージさせる。
→ 仕入先と仕入値の推移、原価率の推移を提示しながら、現状と今後の対応を説明するのがよい
減少の良い面
仕入値の引き下げ、生産効率の改善をイメージさせる。
減少の悪い面
売上不振による仕入減少をイメージさせる。
→ 今後の受注見通しを提示するのがよい
販売費及び一般管理費
増加の良い面
売上好調による経費増加、業績好調にともなう投資活動(人材採用、商品開発、設備更新など)をイメージさせる。
増加の悪い面
ムダ使い、コスト管理の不足、利益減少(行き過ぎた節税)をイメージさせる。
→ 経営計画書を提示するのがよい
減少の良い面
コスト削減の実行をイメージさせる。
減少の悪い面
売上不振、利益減少による経費削減をイメージさせる。
→ 今後の受注見通し、経営計画書を提示するのがよい
営業外収益
増加の良い面
保有株式などの運用好調をイメージさせる。
増加の悪い面
過大な運用をイメージさせる。
→ 運用の明細を提示しながら、運用の必要性・妥当性を説明するのがよい
減少の良い面
過大な運用の整理をイメージさせる。
減少の悪い面
保有株式などの運用悪化をイメージさせる。
→ 運用の明細を提示しながら、運用の必要性・妥当性を説明するのがよい
営業外費用
増加の良い面
売上好調による増加運転資金の借入利息、事業拡大にともなう設備資金の借入利息をイメージさせる。
増加の悪い面
過剰な借入、支払金利の上昇をイメージさせる。
→ 資金繰り表や経営計画書を提示して、業績悪化の問題はないこと。銀行借入金一覧表を提示して、各銀行との取引状況を説明するのがよい
減少の良い面
業績好調による借入削減、支払金利の引き下げをイメージさせる。
減少の悪い面
業績悪化などにともなう銀行からの借入困難をイメージさせる。
→ 資金繰り表や経営計画書を提示して、業績悪化の問題はないこと。銀行借入金一覧表を提示して、各銀行との取引状況を説明するのがよい
特別利益
増加の良い面
遊休資産の処分をイメージさせる。
増加の悪い面
業績悪化にともなう資産の処分(益出し)をイメージさせる。
→ 経営計画書を提示して、今後の業績見通しを説明するのがよい
減少の良い面
会社・事業に問題がないことをイメージさせる。
減少の悪い面
遊休資産の放置をイメージさせる。
→ 遊休資産の状況、今後の対応を明示するのがよい
特別損失
増加の良い面
遊休資産の処分をイメージさせる。
増加の悪い面
過去の投資の失敗をイメージさせる。
→ 売却・処分した資産について、購入から売却・処分までの経緯を説明するのがよい
減少の良い面
過去の投資に失敗がないことをイメージさせる。
減少の悪い面
遊休資産の放置をイメージさせる。
→ 遊休資産の状況、今後の対応を明示するのがよい
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まとめ
決算書の良し悪しは表裏一体です。「売上高が増えた」にも、良い面と悪い面とがあります。
銀行は、そのうちの「悪い面」を見ているかもしれません。
そのような銀行の見方があることを理解する。加えて、「良い面」をアピールできないか検討するようにしましょう。