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決算書はどこからどういう順番でなにを見る?銀行視点の5分チェック法

決算書はどこからどういう順番でなにを見る?銀行視点の5分チェック法

決算書をどこからどういう順番でなにを見るか?

銀行視点で5分でチェックする方法についてお話をしていきます。

目次

銀行視点は決算書を見る役に立つ

決算書(貸借対照表・損益計算書)を「どこからどういう順番でなにを見るか」という見方はいろいろあるでしょう。

それはそれとして。わたしが日ごろ「銀行融資のお手伝い」をするなかで、実際にお客さまの決算書を「どこからどういう順番でなにを見るか」についてお話をしていきます。

わたしの場合。限られた時間のなかで、「おおむねの見解(融資が受けられそうか?)」を求められる場面も少なくありません。まずはスピード重視で、ざっくりと全体観をチェックする、ということです。

そのように。決算書(貸借対照表・損益計算書)をじっくり見ることも大切ですが、まずはざっくり見ることが必要な場面もあるでしょう。

そこで。初見の決算書でも、5分ほどで「どこからどういう順番でなにを見るか」のチェック法をこのあとお話していきます。

銀行視点でのチェックが多くはなりますが、その結果、「融資が受けられそう」ということであれば、「(融資を受けられるほどの)安全・安心な会社」だと言えます。

そう考えると。銀行視点を理解することは、決算書の良し悪しを見極める役に立つ。「いまいま銀行融資を受ける」ということではなくても、すべての会社に役立つのが銀行視点です。

ぜひ、押さえておきましょう。

どこからどういう順番でなにを見る?決算書5分チェック法

どこからどういう順番でなにを見るか、見ていきましょう。

1.損益計算書の「売上高」

まずは損益計算書から。そのいちばん上に掲載されている「売上高」を確認します。

なにを確認するかと言うと、「平均月商」です。平均月商とは、毎月の平均売上高を言います。算式にすると次のとおりです ↓

平均月商の計算式
  • 平均月商 = 年間売上高(損益計算書の売上高) ÷ 12ヶ月

とくに難しいことはありませんよね。

ちなみに。スピード重視でチェックするという場面では、わざわざ電卓をたたかずとも、暗算レベルで「だいたいの金額」がイメージできていればじゅうぶんです。

ここで計算した「平均月商」の金額を、このあと「モノサシ」として使っていきます。

2.貸借対照表の「現金預金」

ここで損益計算書をいちど離れて貸借対照表に移りましょう。その貸借対照表のいちばん上(あるいは左上)に掲載されている「現金預金」を確認します。

確認するのは、現金預金の残高が、さきほど計算した「平均月商」の何ヶ月分にあたるか? です。

現金預金は会社にとって、人間でいう血液のようなもの。不足したり、無くなってしまえば生死に関わる大切な資源です。そんな現金預金をチェックするときの目安は次のとおりです ↓

現金預金の目安
  • 現金預金が平均月商の1ヶ月未満 → 超危険
  • 現金預金が平均月商の1ヶ月から2ヶ月未満 → やや危険
  • 現金預金が平均月商の3ヶ月から6ヶ月未満 → おおむね安全
  • 現金預金が平均月商の6ヶ月以上 → かなり安全

ということで、現金預金のチェックをするにあたり、平均月商をモノサシに使うわけです。

実際に決算書を拝見していると、現金預金が平均月商の1ヶ月分前後という中小企業は少なくありません。

しかしこれは、資金ショートの可能性が極めて高く、危険な状態と言えます。銀行からしても同じ見方になることを覚えておきましょう。

現金預金が多い会社は融資が受けやすく、現金預金が少ない会社は融資が受けにくくなる、ということです。

3.貸借対照表の「純資産」

引き続き貸借対照表で、こんどは「純資産」を確認します。貸借対照表の末尾(あるいは右下)のほうにある「純資産の部」の金額がいくらあるか。

もしも、その「純資産の部」がマイナスであれば。その会社は「債務超過」だということになります。債務超過とは「資産よりも負債が大きい状態」です。

「資産の部」の金額と、「負債の部」の金額とを比べてみれば、「資産よりも負債が大きい状態」であることを直接確認できますが。「純資産の部」だけを見るほうが速いしラクですね。

なお、債務超過の会社は「資産よりも負債が大きい」のですから極めて危険な状態だと言えます。いまある資産をぜんぶ売り払って現金化、それで負債を返済しようとしてもおカネが足りない… という状態です。

ゆえに、銀行からは「これ以上の融資は危険だなぁ(貸しても返してもらえそうにない)」と見られます。

では逆に、「純資産の部」がプラスだったらどうでしょうか。

そのときには「純資産の部」の内訳にある「利益剰余金」を見ます。利益剰余金とは、端的に言うと「過去の税引後利益の積み上げ」です。その会社が開業してからいまにいたるまでの税引後利益の累計。

ということは。その利益剰余金の金額を「会社の決算期数」で割り算すれば、おおよその毎年の税引後利益を知ることができますね ↓

おおよその毎年の税引後利益の計算式
  • おおよその毎年の税引後利益 = 利益剰余金 ÷ 決算期数

上記の「おおよその毎年の税引後利益」は、のちほど損益計算書で「今期の税引後利益」を見るときに役立ちます。両者を比較することで、今期の調子の良し悪しをはかることができるからです。

4.貸借対照表の「借入金」

引き続き貸借対照表、こんどは「借入金」を確認します。

借入金があるとすれば、「負債の部」のなかの「流動負債」と「固定負債」とに分かれている可能性があります。合計金額を計算しましょう。

流動負債であれば、「短期借入金」または「1年以内返済長期借入金」の勘定科目で。固定負債であれば「長期借入金」の勘定科目が一般的です。

なお、すぐに返済をしない・返済する必要がない役員借入金が混じっていることが明らかであれば、その金額は除きましょう。返済しないのであれば、実質的には資本金と変わらないからです(銀行もそう見ています)。

借入金の合計金額が計算できたら、いちばんはじめに確認した「平均月商」の何ヶ月分くらいになりそうかをチェックしてみましょう。

厳密には業種・業態によって異なりますが、おおむねの目安は次のとおりです ↓

借入金の目安
  • 借入金が平均月商の3ヶ月超 → やや借入が多い
  • 借入金が平均月商の6ヶ月超 → 借入が多すぎる

上記のとおり、借入金の合計金額が平均月商の6ヶ月分を超えると、「借りすぎ」だということになります。これ以上の借入は難しい。

ただし、現金預金がたくさんある場合には、「借入金 − 現金預金」が平均月商の何ヶ月分かで見ます。手持ちの現金預金で借入金は返済できると考えれば、借入金は無いのと同じだからです。

5.損益計算書の「税引後利益」と「減価償却費」

ここでふたたび損益計算書に戻ります。その損益計算書で2つの金額を確認です。

1つめは、損益計算書のいちばん末尾にある「税引後利益(当期純利益)」。2つめは損益計算書の途中にある「減価償却費」。2つの金額を確認できたら足し算してみましょう。

足し算の結果が、その会社の「おカネを増やすチカラ」です。1年でおカネをどれだけ増やせるか。言い換えると、借入金の返済力でもあります。借入金の返済原資が、「税引後利益 + 減価償却費」なので。

(※ 借入金の利息は経費ですが、元金返済は経費ではありません。よって、税金を支払ったあとの利益が元金返済の原資になります。減価償却費を税引後利益に足し算するのは、減価償却費は現金の支出をともなわない費用だから。会計チックであり、ちょっと難しい部分ですね)

その「おカネを増やすチカラ(=借入金の返済力)」の目安は次のとおりです ↓

おカネを増やすチカラの目安
  • (税引後利益 + 減価償却費)×7 < 借入金 → ややチカラ不足
  • (税引後利益 + 減価償却費)×10 < 借入金 → チカラ不足

上記のとおり、「税引後利益 + 減価償却費」の7倍が、借入金の残高を下回ると問題あり。10倍を下回る場合にはとくに問題です。

これは、いまの「おカネを増やすチカラ(=借入金の返済力)」では、10年かかっても借入金の返済ができないことをあらわしています。

つまりは、借りすぎ。こうなると融資は受けにくくなることを覚えておきましょう。「税引後利益 + 減価償却費」の10倍くらいまでは借入ができそうだ、ということでもあります。

だいじなのは、おカネを増やすには「(税金を払ってでも)きちんと利益を出す」ことです。経費を増やして利益を減らす節税が過ぎると「税引後利益 + 減価償却費」は小さくなる。

「税引後利益 + 減価償却費」が小さくなれば、「おカネを増やすチカラ(=借入金の返済力)」も小さくなります。税金を減らすことができても、いっぽうでおカネは減ってしまう。

これはわかっているようでわかっていない「節税の盲点」でもあります。気をつけましょう。

残りは2分、さぁなにを見る?

このあたりまでで、慣れている人であれば所要時間は3分ていど、といったところでしょう。5分の手持ち時間であれば、もう少し余裕があります。

というわけで。ここからは、残り2分でなにを見るか? についてのお話です。

損益計算書の「役員報酬」と「交際費」

ここまで、損益計算書は「売上高」「税引後利益(当期純利益)」「減価償却費」の3つしか見ていません。

その他の部分を追加でチェックするのなら、まずは「役員報酬」と「交際費」です。

役員報酬は少なすぎないか? を見ます。もしも少なすぎれば、損益計算書の税引後利益は過大だとの見方もできるからです。

中小企業の役員報酬は社長の一存で決まるところがあり、場合によっては利益を水増しするために役員報酬を減額することもある。銀行もそこに注目をしています。

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交際費は多すぎないか? を見ます。多すぎる交際費には「ムダ使い」のイメージがありますから、交際費がおカネの使い方のバロメーターになるわけです。

銀行は同業他社の財務データを持っていますので、そことの比較で交際費の多い少ないがチェックされていると心得ておきましょう。

インターネットで業種別の平均的な交際費支出額などを調べることもできます。自社でもいちどチェックをしてみるのがおすすめです。

貸借対照表の「資産」全般

貸借対照表では「純資産の部」の金額を見て、「債務超過」でないかどうかをチェックする、と前述しました。

ところがもしも、資産の一部にいわゆる「粉飾」があったらどうでしょう? たとえば、ほんとうはありもしない「架空の在庫」が資産に含まれている、とか。

すると、粉飾分の金額は資産が過大だということになりますから、その金額を正しく修正して考える必要があります。具体的には粉飾分だけ、貸借対照表に掲載されている資産の金額を減額します。

その結果、貸借対照表の表面的な数字では債務超過ではなくとも、減額修正をしたあとの数字は債務超過… ということがありえるわけで。ゆえに、貸借対照表の資産に問題がないかをチェックしなければいけません。

とはいえ、きっちりチェックをしようと思えば時間も手間もかかりますから。ひとまずは金額が大きい資産を中心に見ていくことになります。

売上規模のわりには売掛金が多いけど、架空売上や不良債権が混じってやしないか? 貸付金や仮払金などがあるけど、回収できないもの・使途不明なものなどが混じってやしないか? など。

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時間があってもなくても全体観が大切

以上、「どこからどういう順番でなにを見る?決算書5分チェック法」でした。

もちろん、もっと時間をかけて見るべきポイントはいくつもありますが。時間があろうとなかろうと、まずは「全体観」を把握することが重要です。枝葉末節はそのあとになります。

決算書を見ようとすると、ひとつひとつの勘定科目に眼を奪われることも少なくありません。ひとつひとうの勘定科目を見るのも必要なことではありますが、「木を見て森を見ず」にならないように。

全体観を見る方法としても、決算書5分チェック法を押さえておくのがよいでしょう。

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まとめ

決算書(貸借対照表・損益計算書)をじっくり見ることも大切ですが、まずはざっくり見ることが必要な場面もあるでしょう。

そのようなときのためにも。初見の決算書でも、5分ほどで「どこからどういう順番でなにを見るか」のチェック法を押さえておくのがおすすめです。

決算書はどこからどういう順番でなにを見る?銀行視点の5分チェック法

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