金融庁が提示する指針のもと、各銀行では「事業性評価による融資」が進んでいます。
そこで、事業性評価をするうえでは欠かせない要素のひとつ「経営者の能力」を、銀行にアピールするポイントについてお話をしていきます。
事業性評価をする銀行、事業性評価をされる会社
ここ数年、各銀行では「事業性評価による融資」が関心事のひとつになっています。
事業性評価による融資とは?
財務データや担保・保証に過度な依存をせず、融資先の事業内容や成長可能性を評価した融資、を言います。
財務データや担保・保証に依存しすぎた過去と決別すべく、金融庁は「事業性評価をするように」との指針を出したのです。
決算書(=財務データ)ばかりを見ていてはダメですよ。担保・保証ありきはダメですよ、ということですね。
したがって銀行は、融資先について「事業の内容や成長可能性の評価(=事業性評価)」をしなければ… と、考えています。
そんな事業性評価をするうえで、「経営者の能力」は欠かすことができない要素のひとつです。とくに、中小・零細企業にあっては「経営者=会社」と言っても過言ではない部分があります。
そこで。評価をされる会社側として、銀行に「経営者の能力」をアピールするポイントについてお話をしていきます。次の5つです ↓
- 経営者自身の能力
- 後継者の有無
- 経営陣との関係
- 従業員との関係
- 株主の状況
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
銀行に「経営者の能力」をアピールする5つのポイント
《ポイント1》経営者自身の能力
1つめのアピールポイントは、「経営者自身」の能力です。と言っても、いったいなにをアピールすればよいのやら… と思われるかもしれません。
そんなときに有効と思われる「材料」がいくつかあるのでご紹介します。
まずは、経営者の「経歴書(履歴書)」です。これまでどういう会社に勤め、どういう仕事をしてきたか。そこから、経営者が身につけているであろう技術・経験などの能力をうかがい知ることができます。
経歴書なんて銀行に見せたことがないなぁ、ということであれば。折りを見て(支店長や担当者の交代時などはとくに)、渡してみるとよいでしょう。
また、経歴書に付随することでもありますが。会社外部で「役職」に就いている場合には、そのリストを提示するのもおすすめです。
たとえば、同業者団体や地域の団体など。そのような場所で、なにかしらの役職に就いているということから、経営者の「社交力」「人脈力」「積極性」などの評価につながります。
ボランティア団体などであれば、経営者の「人となり」を伝えることにもなるでしょう。
ただし。あまりに役職が多い(しかも一貫性がない)ようだと、銀行は「本業の会社のほうはだいじょうぶかいな」と心配になる点には注意が必要です。
次に、各種メデイア(新聞、業界誌、ネットなど)の掲載記事。もしあれば、ぜひ銀行に見せるようにしましょう。
記事にはなんらかのアピールポイントが示されているはずですし、第三者の取材によるものですから客観性が高いのも効果的です。
それからもうひとつ。自社のホームページや、経営者自身のSNS(Facebook、Twitterなど)があれば、その存在を銀行に伝えましょう。
ホームページやSNSのなかには、経営者の会社・仕事に対する熱意や思い、姿勢があらわれているはずです。それらを銀行に見てもらうことが自然とアピールにもつながります。
この場合、SNSでの発信内容には注意が必要であることは言うまでもありません(たとえば、ギャンブル好き、おカネ使いがあらい、などの内容)。
《ポイント2》後継者の有無
経営者の能力については「経営者自身」に限らず、「経営者の周囲」に関するアピールも必要です。
そのひとつが「後継者」になります。いずれ、現経営者を引き継ぐと考えれば、後継者もまた「経営者の能力」を構成する要素だからです。
まずは、その「後継者」がいるかどうか、がポイントになります。いないとなれば、いずれ問題になるわけですから、銀行としても気になるところです。
後継者がいたとしても、引き継ぎには3〜5年はかかります。それをふまえて、現経営者が 65歳になるくらいまでには、銀行に後継者の話ができるとよいでしょう。
もちろん、後継者は身内に限りません。また、身内にも他人にも後継者がいない場合でも、会社の業績・状況によってはM&Aという選択もあります。
M&Aと言うと大きな会社のハナシ、のイメージがあるかもしれませんが。最近では中小企業でも広がりを見せています。銀行も支援ができる部分ですから相談をしてみるのも方法です。
《ポイント3》経営陣との関係
後継者に続いて、「経営者の周囲」に挙げられるのが「経営陣」になります。
経営者がその能力をじゅうぶんに発揮するにあたっては、「経営陣」の状況が影響するからです。
経営者以外にも優秀な役員がいる、経営者をサポートできる役員がいるのであれば、その存在をアピールするのがよいでしょう。
とはいえ。一般には人材に乏しい中小・零細企業は、「経営者のワンマン」という現実もあるはずです。そこは銀行にも理解があります。
ただし、そのときに「経営者の足を引っ張るような役員」がいないかどうか? は、また別の問題です。
経営者を支えるほど優秀な役員がいないのはしかたないにしても、逆に足を引っ張るような役員がいれば、経営者は能力を発揮できません。
そういう意味では、銀行は「役員のなかにいざこざがないか」を気にしています。
会社としては銀行の不安を払拭できるように、「役員構成(年齢、在任年数、経営者との関係など)」や「役員会の状況(実際に実施しているか、機能しているかなど)」を伝えるのがおすすめです。
《ポイント4》従業員との関係
経営陣と同じく、「従業員」の状況もまた、経営者の能力に影響をするところです。
もしも、経営者が従業員とのあいだでいざこざがある、つまり、労使関係に問題があるようだと、経営はなかなか安定しないでしょう。
そこは銀行も気になるところですから、会社に訪問をした際、経理や財務の担当者や受付職員などの社員から「ひそかにヒアリング」をしていたりします。
意外と社長や会社に対するグチや不満を聞くこともあるようです。社員の言動を止めることはできませんが、注意しなければいけません。
労使関係という点では、社員の状況をデータとして銀行に提示することでアピールする方法もあります。
具体的には、年齢構成、男女の比率、退職率や採用人数の推移など。中長期的な視点で人材を定着させるための施策、良好な労使関係を築くための施策、などとあわせて銀行に話をするのがよいでしょう。
《ポイント5》株主の状況
「経営者の周囲」として、後継者、経営陣、従業員と見てきました。
さいごにもうひとつ、経営者の能力に影響する「経営者の周囲」が「株主」になります。やはり、株主とのいざこざがあれば、経営はうまくいかないからです。
とはいえ。中小・零細企業では「経営者=大株主」がほとんどであり、株主とのいざこざが起きることはそれほど多くはないでしょう。
いっぽうで、「経営者=大株主」ではない会社となれば、銀行としては気になるところです。
したがって、まずは株主名簿の提示をしつつ、株主構成や株主との関係性を伝えるようにしましょう。そのうえで、いま現在の株主構成に対して、将来的にはどのような株主構成を考えているかも伝えられればベストです。
なお、経営者が株式(議決権)の3分の2以上を持っていれば、おおむね安泰ですが、3分の2未満となると一定の危険性が生じます。
それは、株式(議決権)の3分の1超で「特別決議(定款の変更、事業譲渡など)」を否決できたり、2分の1超で「普通決議(役員の選任・解任など)」ができたりするからです。気をつけましょう。
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まとめ
銀行が事業性評価をするうえで、「経営者の能力」は欠かすことができない要素のひとつです。
評価をされる会社側として、銀行に「経営者の能力」をアピールするポイントを押さえておきましょう。
- 経営者自身の能力
- 後継者の有無
- 経営陣との関係
- 従業員との関係
- 株主の状況