銀行が注目をする融資先の「最終利益(=当期純利益)」。
これに加えて「営業利益」が、いままでよりもさらに注目されるようになっている。というお話をしていきます。
最終利益も気になるけれど営業利益も気になる銀行
会社が融資を受けている・受けようとするときに、銀行から提示を求められるのが「決算書」です。
その決算書について、銀行が注目するポイントはいろいろありますが。なかでも、だいじだと言われているのが「最終利益(=当期純利益)」です。
最終利益とは、文字どおり、最終の利益であり。税金を支払ったあとに残る利益、を言います。
その最終利益こそが貸したおカネの返済原資だ、というのが銀行の考えです。ゆえに、最終利益がどれだけあるかがだいじになります。
それはそれとして。同じ「利益」のなかまである「営業利益」が、重要度を高めている。銀行からも注目をされるようになっている。というのがここからのお話です。
ちなみに営業利益とは、売上高から仕入などの売上原価をマイナスし(=売上総利益)、さらにそこから販売費及び一般管理費をマイナスしたもの、を言います。
これに対して。営業利益に「営業外損益(営業外収益・営業外費用)」と「特別損益(特別利益・特別損失)」とを加味して、さいごに税金(法人税等)をマイナスしたものが最終利益です。
こうして営業利益と最終利益とを比べてみると。営業利益はずいぶんと手前にある(損益計算書で見ると上のほうにある)ことがわかります。
ではなぜ、その営業利益が注目されるようになっているのか? にはじまり、次のようなお話をしていきます ↓
- 営業利益が注目されるようになる理由
- 最終利益は同じでも営業利益は増やせる
- 営業利益は財務指標を改善する万能薬
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
営業利益が注目されるようになる理由
これまで銀行が融資をするうえでのよりどころとなっていた「金融検査マニュアル」は、2019年12月廃止と金融庁がアナウンスをしています。
これにより、従来の画一的・機械的な融資ではなく、各銀行が独自性を活かした融資が進んでいくでしょう。
いっぽうで。金融庁主導のもと、「事業性評価」の考え方が広がりを見せています。
事業性評価とは、決算書などの財務データや担保・保証に依存しすぎず、融資先の事業の内容や将来性を評価しよう、というものです。
つまり。各銀行がそれぞれの独自性を活かしつつ、事業性評価という目利きでもって融資を進めていく。これまでよりも自由度が高く、柔軟な融資の実現が期待されるところです。
ここで「目利き」というものを考えたときに。融資先の事業の核心である本業に迫ろうとすれば、「最終利益よりも本業に近い営業利益がだいじ」との見方が優勢になります。
冒頭でも触れたとおり、最終利益には営業外損益や特別損益が含まれるため、利益の「純度」としては営業利益に劣るという見方です。
この点で。事業性評価の入口ツールとして経済産業省が提供している「ローカルベンチマーク」のなかでも、営業利益が積極的に取り上げられています。
ローカルベンチマークにおける財務分析で扱う指標は次の6つです ↓
- 売上増加率 = (売上高 / 前年売上高)−1
- 営業利益率 = 営業利益 / 売上高
- 労働生産性 = 営業利益 / 従業員数
- EBITDA有利子負債倍率 =(借入金 − 現預金)/(営業利益 + 減価償却費)
- 営業運転資本回転期間 =(売上債権 + たな卸資産 − 買入債務)/ 平均月商
- 自己資本比率 = 純資産 / 総資産
上記のとおり、あまたある財務指標のなかからたった6つしか取り上げていないのにもかかわらず、そのうち3つに営業利益が関わっています。事業性評価を考えるうえで、それだけ営業利益が重要だということです。
「営業利益への注目」は時代の要請でもあります。最終利益の重要性に変わりはありませんが、営業利益への注目が高まっていることは押さえておきましょう。
最終利益は同じでも営業利益は増やせる
営業利益が注目されている、とのお話をしてきました。であるならば、「いかにして営業利益を増やすか?」が会社にとってはだいじなことです。
この点で、最終利益は同じでも営業利益は増やせる、というお話をしてみます。つまり、最終利益の金額が同じ決算書(損益計算書)でも、営業利益の金額は変わりうる。そういうことです。
たとえば。従業員退職金 100万円を「販売費及び一般管理費」とするか、「特別損失」とするか? いずれにしても、最終利益の金額に変わりはありません。
けれども、営業利益の金額には差が出ます。
従業員退職金 100万円を「販売費及び一般管理費」にすれば、営業利益は 100万円削られます。これに対して、「特別損失」であれば営業利益が削られることはありません。
結果として、特別損失としたほうが、販売費及び一般管理費とするよりも、営業利益が 100万円も多くなります。
どちらをとるかで、さきほど見たような営業利益を含む財務指標は大きな影響を受ける、ということです。同じ経費だとしても、どこに区分するかはしっかり検討しましょう。
従業員退職金は一例に過ぎず、ほかにもいろいろと考えられます。くわしくはこちらの記事もどうぞ ↓
また、特別損益(特別利益・特別損失)ばかりでなく、営業外損益(営業外収益・営業外費用)についても同じような論点があります。やはり、どこに区分をするかで営業利益は影響を受けるからです ↓
繰り返しになりますが。最終利益が合っていればいいや、ではいけません。その手前にある営業利益を増やすことができないか、考えてみましょう。
とくに、「決算書の作成は税理士任せで、内容はあまり注意をして見ていない」という会社は要注意。顧問税理士は対税務署を考えていても、対銀行については必ずしも考えてはいないからです。
税金に差は出なくても、銀行融資の可否に影響が出るかもしれない。そういう意識を忘れずに、決算書には自社自身で責任を持ちましょう。
営業利益は財務指標を改善する万能薬
営業利益を増やすには、決算書上の区分に気をつける。というお話をしてきました。言うなれば、テクニック的な視点です。
それはそれとして、「本質的に営業利益を増やす」という視点もあります。つまり、売上を増やしたり、経費を抑えるなどして、実際に営業利益を増やす。
これにより、あまたある財務指標の多くが改善の方向にむかいます。ほとんどの財務指標には営業利益の要素が含まれているからです。
まず、算式のなかに営業利益を直接含む財務指標は、営業利益を増やせば当然よくなります。たとえば、ローカルベンチマークの指標のひとつ営業利益率(営業利益 / 売上高)など。
また、算式のなかに営業利益を直接含まない財務指標であっても、営業利益を増やすことで改善するものはあります。同じくローカルベンチマークの指標で言えば、自己資本比率(純資産 / 総資産)です。
自己資本比率の算式に営業利益は含まれませんが、営業利益を増やすことは純資産を増やすことにもつながるため、結果として自己資本比率はよくなります。
営業運転資本回転期間((売上債権 + たな卸資産 − 買入債務)/ 平均月商)などは、一見なんら営業利益とは関係ないように見えますが。
実際には、営業利益を高める過程で、売上債権・たな卸資産の圧縮などにも取り組むものであり、結果として営業運転資本回転期間が改善することはよくあります。
なにが言いたいのかというと。営業利益を増やすと、あまたある財務指標の多くは改善する。銀行融資は受けやすくなる。これです。
などと言うと、「そんなことはわかっている」と思われるかもしれません。ところが、決して少なくはない会社が「出せるはずの営業利益」を出さずにいます。
その理由は「行き過ぎた節税思考」です。営業利益をたくさん出すと税金が多くなる。だから、経費を増やして営業利益を抑える。そのような考え・行動は少なくないのです。
その結果が、あまたある財務指標の多くが悪化する、であることは言うまでもありません。もちろん、財務指標の多くが悪化すれば、銀行融資も受けにくくなります。
節税もだいじですが、営業利益とのバランスに気をつけましょう。
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まとめ
銀行が注目をする融資先の「最終利益(=当期純利益)」。これに加えて「営業利益」が、いままでよりもさらに注目されるようになっています。
まずはその理由を理解すること。そして、最終利益の金額が同じでも、営業利益の金額をいかにして増やすかを考えるようにしましょう。
営業利益を増やすことが、あまたある財務指標を改善する万能薬でもあります。