仕入に関する銀行融資の場面として。仕入資金の不足、支払の短期化、在庫の積み増しについて、それぞれ会社がとるべき対応をお話します。
融資を必要とする場面にもいろいろあるけれど。
会社が銀行から融資を受けようとする「場面」にもいろいろありますが。本記事では「仕入」に関する場面について、それぞれ会社がとるべき対応をお話していきます。
仕入に関する場面として、おもに挙げられるのは次の3つです ↓
- 仕入資金が不足している
- 支払を短期化する
- 在庫を積み増す
仕入は会社にとって必要不可欠な取引です。銀行融資にしくじって、仕入に支障をきたす… ということがないように。場面ごとの銀行対応を押さえておきましょう。
それではこのあと、3つの場面を順番に見ていきます。
仕入に関する銀行融資の3場面とその対応
《場面1》仕入資金が不足している
モノを仕入れてそれを売る、というビジネスをする場合に。モノを仕入れるためのおカネを借りる、という考え方があります。
この点で。売ったおカネでモノを仕入れる、という流れが理想ではありますが。仕入れてからモノを売る、という逆の流れもあるものです。だからまず、「仕入れるためのおカネ(仕入資金)」が必要になる。
では、このとき必要になるおカネはいくらなのか? の答えが「正常運転資金」です。正常運転資金を算式であらわすと、
正常運転資金 =(売上債権 + たな卸資産)− 仕入債務
算式中の「売上債権(売掛金や受取手形)」と「たな卸資産(在庫)」は、おカネが入金されるのを待っている状態のもの。
仕入債務(買掛金や支払手形)は、逆に、おカネを支払うのを待ってもらっている状態のものです。
結果として。「売上債権+たな卸資産」と「仕入債務」の差額である、「正常運転資金」分のおカネが無いと資金繰りはもたない(仕入や経費の支払いなどができない)、ということになります。
したがって、会社は「正常運転資金分のおカネを用意できれば、仕入資金が不足することはない」わけです。
この「正常運転資金」が必要であることは銀行も理解していますから、正常運転資金分の融資を受けるのは、財務の常套手段になります。
ただし。銀行は、「正常運転資金の金額はほんとうか?」を気にしてる点には注意が必要です。とくに、売上債権のなかに不良債権や架空債権がないか、たな卸資産のなかに不良在庫や架空在庫がないか? を気にしています。
気にしていることが事実である場合、正常運転資金の金額は過大であり、ウソだということになるからです。銀行も過大やウソへの融資はできません。
ですから、会社としては「売上債権もたな卸資産もほんとうなんだ!」と主張・説明することが重要になります ↓
それからもうひとつ重要なことがあります。それは、正常運転資金は絶えず変化しているということです。
どんな会社も多かれ少なかれ、1年を通じて売上や仕入、在庫の金額は変化をしているものです(季節変動、などと言います)。その変化によって、正常運転資金も増えたり減ったりしていることを理解しておきましょう。
正常運転資金の金額を見誤ると、思わぬ資金不足を招きます ↓
《場面2》支払を短期化する
仕入に関する銀行融資の場面として、「支払を短期化する」が挙げられます。
たとえば。いままでは仕入代金の支払いが「月末締め・翌々月払い」だったところを、これからは「月末締め・翌月払い」に変更する、という場合です。
この場合、前述した「正常運転資金」の金額は増加しますから(仕入債務の金額が減るため)、会社はおカネが必要になります。だから銀行からおカネを借りよう、ということになるわけです。
ここでの銀行対応のポイントは、支払を短期化するにいたった「経緯」を説明することです。
たとえば。仕入先に早くおカネを支払うと、その分、値引きを受けることができるから、というのは「妥当な経緯」だと言えます。
いっぽうで。自社の業績不振などにより、対外的な信用が低下したことで仕入先から早期の支払い求められている… のであれば、銀行には「心配な経緯」であり、融資は躊躇されるところです。
また、会社がウソをつくこともありえます。ほんとうは「信用低下」が理由なのに、「値引き目的」だとウソをつく。あるいは、単なる「赤字補てん」なのに、支払の短期化だとウソをつくなど。
銀行はそのようなウソを警戒しています。実際に、そのようなウソをつく会社もあるからです。
ゆえに、ウソだと疑われないようにしなければいけません。具体的には、支払を短期化するにいたった「経緯」に加えて、その証拠・根拠を示すのがポイントです。
仕入先との支払条件を変更したことがわかる契約書や覚書、自社の足元の業績を示す試算表、今後の業績を示す計画書、今後のおカネの動きを示す予測資金繰り表など。なんらかの証拠・根拠を銀行に提示するのがよいでしょう。
ちなみに。支払短期化の経緯として、「仕入先の支援」もありえます。つまり、仕入先の資金繰りが厳しく、仕入代金の早期支払いの要請を受けたから、というような経緯です。
銀行としてはビミョーな経緯ではありますが、「仕入先との関係性(自社にとって重要な仕入先であること)」や「仕入先の業況」などを説明することで理解を得るようにしましょう。
《場面3》在庫を積み増す
仕入に関する銀行融資の場面として、「在庫を積み増す」が挙げられます。文字どおり、在庫を増やすために仕入を増やそうという場面です。
まずは、この「在庫を積み増す」に対する銀行の姿勢は、基本的に厳しいものであることを覚えておきましょう。
なぜなら、在庫は「売れるかどうかはわからない」からです。
おカネをかけて在庫を積み増した挙げ句、売れませんでした… というのでは、会社は仕入にかけたおカネを回収することができません。
すると、仕入のためにおカネを貸した銀行も、貸したおカネを返してもらえないかもしれません。なので、銀行は在庫の積み増しには厳しいのです。
したがって、在庫を積み増すために融資を受けようとするのであれば、「ほんとうに売れる」ことを銀行に主張・説明する必要があります。
たとえば、得意先からの発注書や、過去の販売実績など。これから積み増す在庫が「ほんとうに売れる」ということを、できるだけの証拠・根拠を提示して理解を得るようにしましょう。
それからもうひとつ、自社の「強み」を銀行に伝えることも大切です。
豊富な品ぞろえによって、お客さまの多様なニーズに答えられる。豊富な在庫量によって、欠品なく短納期でお届けできる。これらを自社の「強み」として、在庫を積み増している会社もあります。
ところが、銀行がその「強み」を理解していないと、単に「在庫が多くて危ない会社」だと勘違いをされかねません。
銀行は、同業他社平均のデータ(たな卸資産回転期間など)と比較をすることで、「あまりに在庫が多い」と不良在庫や架空在庫を疑うものなのです。
せっかくの「強み」であるのに、あらぬ「疑い」をかけられることがないように気をつけなければいけません。
そのためには、日ごろから銀行と「商売」の話をすることです。自社がなにを・だれに・どのように売るビジネスをしているのか? そのあたりを銀行に理解をしてもらうことが大切です。
銀行業界におけるトレンドワードでもある「事業性評価」に通ずるところでもあります。押さえておきましょう。 ↓
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まとめ
仕入は会社にとって必要不可欠な取引です。銀行融資にしくじって、仕入に支障をきたす… ということがないように。場面ごとの銀行対応を押さえておきましょう。
- 仕入資金が不足している
- 支払を短期化する
- 在庫を積み増す