およそ半数の会社は資金繰り表をつくっていません。
結論、会社は資金繰り表をつくりましょう。その理由についてのお話です。
半数もの会社が資金繰り表をつくっていない
あるアンケート調査の結果によれば、資金繰り表をつくっている会社の割合はおおむね5割くらいとのこと。
税理士業界で20年以上、見聞きしてきた会社にあてはめてみると。5割というのは「ずいぶんと多いなぁ(わたしの感覚よりも)」というのが正直なところです。
なにをもって資金繰り表と定義するのかはわかりませんが、なにはともあれ、半数の会社が資金繰り表をつくっている。逆に言えば、それでも半数もの会社が資金繰り表をつくっていないことになります。
また、資金繰り表をつくっている会社でも。致命的に間違っている資金繰り表はあるものです。
実際に、将来の「税金の支払い」がスッポリと抜け落ちている資金繰り表を見たことがあります。聞けば「税金の計算がわからないので」とのことでしたが、このような資金繰り表を資金繰り表と呼んでもよいものか…
というわけで。
会社は資金繰り表をつくらなければいけない(しかも正しい資金繰り表を!)。と言える理由について、お話をしていきます。こちらです ↓
- 利益とおカネは違う
- おカネがなくなったら会社はつぶれる
- 決算書を見てもわからない
- 社長が経営に集中できる
- ないと融資が受けにくくなる
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
会社が資金繰り表をつくらなければいけない5つの理由
《理由1》利益とおカネは違う
会社が資金繰り表をつくらなければいけない理由の1つめ。それは「利益とおカネは違う」です。
よく言われていることなので、耳タコかもしれませんが。わたしなりに解説をしておきます。
たとえば、商品 1,000万円をお客さまに納品。売り上げた、とします。これで、損益計算書には「売上高 1,000万円」が記載されます。
ハナシを単純化するために、「経費はなにもなかった」とすると。この会社の利益は 1,000万円です。やはり、損益計算書には「利益 1,000万円」と記載されます。
ところで、1,000万円の売上代金が1ヶ月後のツケ払いだとすると。そのときまでおカネは 1円も増えません。5千万円売ろうが、1億円売ろうが、その結果、利益がいくらになろうが、おカネが増えるかどうかは別のハナシなのです。
売上ばかりではなく、仕入や経費についても同じことが言えます。
モノを買ったり、サービスの提供を受けたときに、損益計算書には「仕入」や「経費」が記載される。その分、利益も減ります。でも、おカネが減るのは、あくまでおカネを支払ったときです。
こうして、さまざまな取引が混ざり合い、「利益=おカネ」ではなくなってしまいます。利益が 1,000万円あるから、おカネも 1,000万円ある! ではなくなります。
それじゃあ、ちょっと困るよね… ということで。おカネの入金・出金を整理して、おカネの増減を把握するための「資金繰り表」をつくる必要があるのです。
《理由2》おカネがなくなったら会社はつぶれる
いましがた、「利益=おカネ」ではないので、ちょっと困るよね… というハナシをしました。ではいったい、どういうふうに困るのか? と言うと。
ほんとうにおカネがなくなると会社がつぶれてしまう、だから困る。そいういうことです。
利益がないのも困るけれど、もっと困るのはおカネがなくなること。おカネがなくなって、支払うべきものを支払えなくなったときに会社はつぶれます。
そんなことにならないように、というのが、会社が資金繰り表をつくらなければいけない理由の2つめです。
また、利益があったとしても会社はつぶれることがあります。いわゆる「黒字倒産」です。倒産する会社のうち、およそ半数が黒字とのデータもあります。利益があっても、おカネがないからつぶれることの証左です。
そう考えると。会社にとって、なによりもだいじなものは「おカネ」だ、とも言えます。そのおカネの状況を把握、管理するためにも、会社は資金繰り表をつくらなければいけません。
それでもつくらないのであれば。会社はみずから、倒産の危険度を高めているのだということを覚えておきましょう。
《理由3》決算書を見てもわからない
さきほどからずっと、「おカネがだいじ」というハナシをしています。
じゃあ、貸借対照表を見りゃあいいじゃないか。と、思われるかもしれせん。なぜなら、そこには「おカネ(=現金預金)」が掲載されているから。
そのおカネの残高や動きを見ていればいいだろう、と言うのであれば。それは違います。貸借対照表に掲載されているおカネは「過去の残高」に過ぎません。
おカネがなくて会社がつぶれないようにするためには、「将来の残高」を見通すことが必要だ。というのは言うまでもないことでしょう。
ところが。冒頭のアンケート結果によれば、少なくとも半数の会社は資金繰り表をつくらず、貸借対照表ばかりを見て(それすら見ていないかもしれませんが)、将来の残高を知らないままに過ごしているのです。
また、損益計算書のほうを見て、「利益が〇〇万円も出ているから、おカネもあるはずだ」と勘違いをしていることもあります。「利益=おカネ」ではないことは前述したとおりです。
ここで理解すべきは、「おカネの動き」は決算書(貸借対照表・損益計算書)を見ていてもわからない、ということ。これが、会社が資金繰り表をつくらなければいけない理由の3つめです。
決算書のなかに、おカネの動きを知るための「資金繰り表」が含まれていない以上、会社はあらためて資金繰り表をつくる必要があります。会社が数字を把握するためには決算書(あるいは試算表)では不足があることを理解しておきましょう。
《理由4》社長が経営に集中できる
おカネがだいじだ、おカネがなくなったときが会社の終わりだ。という話を再三にわたって繰り返していますが。
そんなことは言われなくてもわかっている! と思われる社長もいることでしょう。だから日々、資金繰りにアタマを悩ませているのだ…と。
そう、それこそが問題なのです。
本来、資金繰りというのは、社長にとって「やらないほうがよい仕事」。やらなくてすむのであれば、それに越したことはありません。社長は、社長にしかできない「社長の仕事」をすべきです。
社長の仕事とは? 端的に言えば、「経営」です。会社のあすをどうするか? 未来に向かって考えて、行動するのが「社長の仕事」になります。社長の仕事とは「前向き」な行為です。
それに対して資金繰りは? と言えば。場当たり的におカネのやりくりをする資金繰りは「後ろ向き」な行為です。
後ろ向きな行為に縛られる社長の会社と、前向きな行為に集中できる社長の会社とどっちがいいか? 当然、後者です。どっちがいいか? と聞かれても、後者のほうを選びますよね。
にもかかわらず。現実には、後ろ向きな行為に縛られている社長は少なくありません。バタバタと慌てておカネのやりくりをしている。資金繰り表をつくっていないから、場当たり的におカネの算段をせざるをえないからです。
社長が、社長の仕事に集中できるように。資金繰り表をつくりましょう。
《理由5》ないと融資が受けにくくなる
資金繰り表をつくりさえすれば、場当たり的なおカネの算段を避けられるのか? と言うと。それだけでは不足です。
資金繰り表をつくってみて、その結果、将来のおカネに不安があれば、「早め早め」に資金調達に動く。その資金調達の最たる手段が、銀行融資だと言ってよいでしょう。
とくに中小企業は、社長自身を含めて自己資金がじゅうぶんではなく。そのうえ、第三者からの出資も難しいものがあります。ゆえに、銀行融資は中小企業にとって、最たる資金調達の手段になるのです。
この点で。融資を受けようとするときには、銀行から「資金繰り表」を求められます。決算書や試算表といっしょに資金繰り表も、と言われます。
理由は、もうわかりますよね。「利益=おカネ」ではないからです。決算書や試算表を見ても、おカネのことはよくわからないからです。
銀行は、貸したおカネを返してもらえないような会社に融資はできません。貸したおカネを返してもらえるかどうかを見るために、資金繰り表を必要とします。
いやいや、資金繰り表なんてなくても融資は受けられた。と言うのであれば、それは違います。会社の代わりに、銀行の担当者が資金繰り表をつくってくれていたのです(内容の正否はともかく)。
それならそれでラクでいいじゃないか、というのも違います。次も同じようにつくってくれるとは限らないからです。
銀行員も忙しいし、ノルマもあります。だったら、手間をかけずに融資をできる会社から取り組むのはフツーのことでしょう。手間をかけて資金繰り表をつくらなければいけない会社の融資は後回しに、ということはフツーに起こります。
資金繰り表がないと融資が受けにくくなる。だから、融資を受けるのであれば資金繰り表は欠かせない、と心得ておきましょう。
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まとめ
およそ半数の会社は資金繰り表をつくっていません。また、つくっている会社の資金繰り表のなかには間違いがゼロではありません。
ところが。
会社は資金繰り表をつくらなければいけない。しかも正しい資金繰り表をつくらなければいけない理由がある。その理由を押さえておきましょう。
- 利益とおカネは違う
- おカネがなくなったら会社はつぶれる
- 決算書を見てもわからない
- 社長が経営に集中できる
- ないと融資が受けにくくなる