銀行融資にまつわる財務指標のひとつ、「債務償還年数」について。
算式中では、「運転資金(売上債権 + たな卸資産 − 仕入債務)」をマイナスするの?しないの?という細かなハナシをしていきます。
神は細部に宿る、運転資金は債務償還年数に宿る。
銀行融資にまつわる財務指標に「債務償還年数」があります。
読んで字のごとく、債務を何年で償還できるのか? つまり、借りているおカネを何年で返済できるのか? をあらわす指標です。
その「債務償還年数」の算式について。算式中で、「運転資金(売上債権 + たな卸資産 − 仕入債務)」をマイナスしているケースと、マイナスしていないケースとがあります。こういうことです ↓
債務償還年数 =(借入金残高 − 運転資金)÷(税引後利益 + 減価償却費)
債務償還年数 = 借入金残高 ÷(税引後利益 + 減価償却費)
というわけで。この違いをどう考えたらいいの? という、ともすれば「細かな話」をしていきます。
細かなこととはいえ、実は、「多くの会社では、おカネの借り方がおかしくなっている」という大きな問題にもつながるところです。
そのあたり、債務償還年数の算式をとおして、確認をしておくのもよいでしょう。このあとのお話の流れは次のとおりです ↓
- 債務償還年数から運転資金をマイナスするのが筋
- でも、ざっくりと見るならマイナスしない
- 実態で見ればマイナスしない
それでは、順番に見ていきましょう。
債務償還年数から運転資金をマイナスするのが筋
債務償還年数の算式について。冒頭でふれた「運転資金をマイナスしているケース」を再掲します ↓
債務償還年数 =(借入金残高 − 運転資金)÷(税引後利益 + 減価償却費)
この算式の「意味合い」を理解するにあたって、「運転資金」と「減価償却費」をいちど無視してみましょう。すると、こうなります ↓
債務償還年数 = 借入金残高 ÷ 税引後利益
とってもシンプルになりました。
借入金の残高は、「税金を払ったあと手元に残るおカネ(税引後利益)」の何倍か? 言い換えると、いまある借入金をあと何年で返済できそうか? を計算していることがわかります。
さらに言い換えると、借入金の返済原資は「税引後利益」だ。ということでもあります。
ちなみに。銀行融資の観点では、債務償還年数は10年を超えると危険。それ以上は借りすぎ。ゆえに、銀行からの融資は難しい。というのが「常識」となっております。
それはそれとして。厳密な算式では、「税引後利益」に「減価償却費」がくっついていました。ひとことで言えば、「減価償却費はおカネの支払いをともなわない費用だから」です。
と、言われても「なんのこっちゃ?」ということであれば。減価償却費のことは、ひとまず忘れてもらってもかまいません。本質は「税引後利益」であって、「減価償却費」はオマケみたいなものですから。
それでもなお、減価償却費とは…? が気になる方はこちらの記事をどうぞ ↓
それよりも問題なのは、「借入金残高」からマイナスする「運転資金」のほうです。
ここで言う「運転資金」とは。算式で言うと「売上債権 + たな卸資産 − 仕入債務」であり、「経常運転資金」とか「正常運転資金」と呼ばれているものです。
「売上債権(売掛金・受取手形)」と「たな卸資産(在庫)」は、おカネに変わるのを待っている状態のもの。なので、売掛金や受取手形、たな卸資産があればあるほど、資金繰りは厳しくなります。
「だから、その分のおカネを借りておきましょう」というのが、運転資金の融資です。
ちなみに。「仕入債務(買掛金・支払手形)」は、おカネの支払いを待ってもらっているものなので、「運転資金の算式」ではマイナスをしています。
その「運転資金」について。「借入金残高」からマイナスしているのはなぜなのか? それは、運転資金の返済原資は「税引後利益」ではないからです。
運転資金分の借入、その返済原資は「税引後利益」ではなく、「売上債権やたな卸資産」だからです。売掛金や受取手形が入金される、たな卸資産が売れておカネになる。そのおカネが運転資金分の借入の返済原資になります。
だから「税引後利益」が無かったとしても、売上債権やたな卸資産がおカネになれば返済できるじゃん? と考えて、「借入金残高 − 運転資金」としているのです。
つまり、運転資金分の借入は、実質的には借入ではない。そういうことです。
まとめると。借入金残高のうち、運転資金分の借入の返済原資は「売上債権やたな卸資産」。借入金残高のうち、運転資金分以外の借入の返済原資は「税引後利益」。
だから、債務償還年数の算式では、「借入金残高」から「運転資金」をマイナスするのが筋。ということになります。
でも、ざっくりと見るならマイナスしない
いましがた、債務償還年数の算式では、「借入金残高」から「運転資金」をマイナスするのが筋だ、というお話をしました。
それに対して、運転資金をマイナスしていない算式を冒頭でとりあげました。再掲します ↓
債務償還年数 = 借入金残高 ÷(税引後利益 + 減価償却費)
見てのとおり、借入金残高からはなにもマイナスされていません。さきほどまでのハナシからすると「これはおかしいのではないか?」と思われるかもですが。
ちまたの「債務償還年数の算式」を見ていると、運転資金がマイナスされていない算式は散見されます。
この点で。経済産業省が提供する「ローカルベンチマーク」で採用されている指標を取り上げてみましょう。こちらです ↓
EBITDA有利子負債倍率 =(借入金残高 − 現金・預金)÷(営業利益 + 減価償却費)
EBITDAってなんじゃそれ? という感じではありますが。なかみを見ると、債務償還年数に似ています。
「税引後利益」の代わりが「営業利益」なのは、税引後利益よりも営業利益のほうが重要なんじゃないの? と考えてのことですね。なお、「営業利益 + 減価償却費」のことをEBITDA(イービットディーエー)と呼びます。
「借入金残高」から「現金・預金」がマイナスしているのは、現金・預金があれば、その分の借入は無いのといっしょだよね? と考えてのこと。たしかに、おカネがあれば返済することはできますから。
いずれにせよ。「債務償還年数」に似通っている「EBITDA有利子負債倍率」では、「借入金残高」から「運転資金」はマイナスされていません。「現金・預金」はマイナスされていても「運転資金」はマイナスされていない。
というように。ちまたの「債務償還年数の算式」では、わりと「運転資金」をマイナスしていないケースが散見されるのです。
その意図として、「運転資金まで考慮せずとも、ざっくり債務償還年数を見てみよっか」というものがあるでしょう。運転資金を求めるにも「ひと手間」ありますし。
と聞いて、「ざっくりだなんて、いい加減な!」と思われたかもしれません。けれども、運転資金をマイナスしないのは「ざっくり」以外の意図もあるだろう、というのが次のお話です。
実態で見ればマイナスしない
ここでもういちど、「運転資金」をマイナスしている債務償還年数の算式を見てみましょう ↓
債務償還年数 =(借入金残高 − 運転資金)÷(税引後利益 + 減価償却費)
ところが、です。運転資金分の借入について、「毎月分割返済」をしている会社がほとんどでしょう。返済しなくていいわけではありません。
にもかかわらず、「借入金残高」から「運転資金」をマイナスする。つまり、運転資金分の借入は無いものと考えるのはおかしいのではないか? という考え方もあります。
そもそもの話として。運転資金分の借入を「毎月分割返済」で借りるのはおかしなことです。会社・事業を続けていれば、運転資金分の借入は常に必要なのであり、「返済なし・借りっぱなし」が正しい借り方だと言えます。
もうすこし正確に言うと。短期で借りて、期限が来たら返済する。その瞬間に、また必要な運転資金分のおカネを借りる。結果的には借りっぱなし、という借り方です。この借り方が、ほとんどの会社ではできていません ↓
「借りっぱなし」の借り方ができているのであれば、「借入金残高」から「運転資金」をマイナスするのはわかります。借りっぱなしなのだから、その分の借入は無いのといっしょだからです。
けれども、実態は「毎月分割返済」というのであれば。借入は無いもの、と考えるのはちょっとおかしい。
「結局、税引後利益で返済しているよね」と考えると、「運転資金」をマイナスしない算式のほうが、むしろ実態に合っていると言えるでしょう ↓
債務償還年数 = 借入金残高 ÷(税引後利益 + 減価償却費)
というわけで。まずは、自社の「おカネの借り方」を確認してみましょう。運転資金分のおカネの借り方を確認してみましょう。
そのうえで、実態に合った算式で債務償還年数を計算することです。
ただ、それとは別に。本来、運転資金分の借入は「借りっぱなし」で借りるべき。それができなければ、「おカネの借り方がおかしくなっている」ということもお忘れなく。
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まとめ
銀行融資にまつわる財務指標のひとつ、「債務償還年数」について。
算式中では、「運転資金(売上債権 + たな卸資産 − 仕入債務)」をマイナスするの?しないの?という細かなハナシをしてきました。
細かなこととはいえ、実は、「多くの会社では、おカネの借り方がおかしくなっている」という点には要注意です。
運転資金分のおカネを毎月分割返済で借りているのに、債務償還年数で「運転資金」をマイナスするのはちょっとおかしい… と、理解をしておきましょう。