資金使途のひとつ、「運転資金」について。銀行から運転資金を借りて会社がやってはいけないこと、をお話していきます。
やってしまうと、会社の資金繰りを悪化させてしまいますので要注意です。
運転資金の範囲は広いようで狭い。
会社が銀行から融資を受けるときには、「資金使途(しきんしと)」を明らかにしなければいけません。
資金使途とは、平たく言うと「借りたおカネの使いみち」です。その資金使途は大きく2つに分かれます。「設備資金」と「運転資金」です。
設備資金とは、設備投資をするためのおカネ。たとえば、本社家屋を建てる、工場を建てる、機械装置を買う、自動車や備品を買う、などのためのおカネになります。
これに対して、運転資金とは。設備資金以外のおカネです。具体的には、仕入代金の支払いや、各種経費の支払いのためのおカネになります。
この「資金使途」の話に関連して。銀行から「運転資金」を借りて会社がやっていはいけないこと、があります。こちらです ↓
- 法人税・賞与を払う
- 設備投資をする
- 赤字の補てんをする
これらを「なぜやってはいけないのか?」と言えば。会社の資金繰りを悪化させてしまうから、場合によっては会社をつぶしてしまうことにもなるからです。
というわけで。上記3点について、このあと順番にくわしく見ていきましょう。
銀行から運転資金を借りて会社がやってはいけないこと3選
法人税・賞与を払う
冒頭で、運転資金とは「仕入代金の支払いや、各種経費の支払いのためのおカネ」という話をしました。
厳密には、運転資金はさらに細かく分類されるのですが。運転資金の最たるものとして「経常運転資金(正常運転資金などとも言う)」が挙げられます。
経常運転資金の金額を算式であらわすと、「売上債権 + たな卸資産 − 仕入債務」です。
売上債権とは、売掛金や受取手形のことで、「入金を待っているおカネ」になります。たな卸資産は、商品や製品など在庫のことで、やはり「(売れることによって)入金を待っているおカネ」です。
入金を待っているあいだは、その分だけ資金繰りが厳しくなるからおカネが必要だ。というのが、経常運転資金の意味合いです。
なお、仕入債務とは買掛金や支払手形のことで、「支払を待ってもらっているおカネ」になります。待ってもらっているあいだは、資金繰りがラクになるので、経常運転資金の算式ではマイナスをしている。というわけです。
さて、前置きが長くなりましたが。
銀行から借りた「運転資金」のなかから、法人税や賞与を支払っている会社は少なくありません。すると、どうなるか?
当然、資金繰りが厳しくなります。法人税や賞与を支払った分だけ、運転資金で借りたおカネが削られるので、おカネが足りなくなるからです。
じゃあ、どうすればよいか?
「納税資金」や「賞与資金」として、銀行から融資を受けることです。税金を納めるためのおカネ、賞与を支払うためのおカネは銀行から借りられるのです。
なお、納税資金・賞与資金の返済期間は、基本的に半年。半年にいちど納税(予定納税)をしたり、半年にいちど賞与を支払うので、それまでに完済をするためです。
というように、返済期間も短く。かつ、資金使途も明確(じぶんの銀行で納税や賞与支払をしてもらえば金額が確認できる)であることから、銀行としても比較的貸しやすいのが、納税資金・賞与資金の融資です。
また、納税や賞与支払ができるのは「会社の業績が良いからだ」との見方もあって、より貸しやすいということもあるでしょう。
にもかかわらず、その借りやすい融資を受けていない会社は少なくないのです。結果として、経常運転資金として借りたおカネを充てている。資金繰りが悪化することは、さきほどお話をしたとおりです。
もし、経常運転資金の融資も受けていない場合には、さらに資金繰りに悪影響が出ることになります。納税や賞与支払によって、預金残高が一気に少なくなってしまいます。
したがって。会社は、まず経常運転資金分の融資を受けること。さらに、納税資金・賞与資金を漏らさず借りること。
いつなんどき、なにが起こるかはわからないのですから(東日本大震災、新型コロナ、台風、豪雨、雪不足など)。手元の預金残高は、常にできるだけ多くすることを考えましょう。
設備投資をする
冒頭、資金使途には「運転資金」と「設備資金」とがある、という話をしました。
この点で。運転資金として融資を受けておきながら、設備投資をするのはいけません。
ひとつは、「資金使途違反」にあたるから。借りたおカネは、当初の資金使途のとおりに使うのが銀行融資のルールです。そのルールを破るのが、資金使途違反になります。
資金使途違反となれば、最悪は「すぐさま全額返済」を求められることを覚えておきましょう。そうなったら、たいへんなことです。
すぐさま全額返済を免れたとしても、今後、その銀行から融資を受けることは難しくなるでしょう。信用を失うからですね。融資が受けられないというのも、会社にとってはたいへんな痛手です。
もうひとつ。運転資金として借りたおカネで、設備投資をしてはいけない理由は、「資金繰りが悪化するから」になります。
たとえば。耐用年数8年(使える期間が8年)の機械装置 800万円を買ったとします。いっぽうで、返済期間4年の運転資金を、機械装置 800万円の購入に充てたとしたらどうでしょう?
800万円を4年で返済するのですから、1年あたり 200万円のおカネを支払うことになります。これに対して、機械装置は8年かけて使用することで、毎年100万円ずつ購入資金を回収しようという考え方です。
回収のペース(8年)よりも、返済のペース(4年)のほうが早いことから、資金繰りが悪くなるのは明らかでしょう。
したがって。設備投資をするのであれば、設備資金として融資を受ける。設備資金の融資は、運転資金の融資よりも長い返済期間に対応できますから、回収のペースと返済のペースを合わせることが可能です。
なお、設備投資の際に、自己資金を充てることも資金繰りを悪くする原因になります。「じゅうぶんなだけの自己資金」があれば別ですが、ムリをして自己資金で設備投資をするのはやめましょう。
だって金利がもったいないから、と思われるかもですが。金利を惜しんで、資金繰りが悪化、会社がつぶれてしまうのでは元も子もありません。
ちなみに。わたしがいま推奨している「じゅうぶんなだけの自己資金」とは、売上高の半年分です。売上高の半年分にあたる自己資金を持てないうちは、借りてでも手元のおカネを増やすことをおすすめします。
先行き不透明な時代を乗り切るためには、それくらいのおカネが必要だからです。
赤字の補てんをする
銀行から運転資金を借りて会社がやってはいけないこと、さいご3つめは、「赤字の補てんをする」です。
そんなのあたりまえだろう、と思われるかもしれませんが。あたりまえのことを、けっこう多くの会社がやってしまっている… ということでもあります。
もっとも。赤字を補てんするためのおカネを、銀行は原則的に融資しません。とはいえ、絶対に融資をしないというわけでもなく。いろいろな兼ね合いから、赤字でも融資をすることはあります。
けれども、赤字を補填するためにおカネを借りれば、その返済で資金繰りが苦しくなることは明らかでしょう。なにしろ、赤字だということは「返済原資が無い」ことにほかならないからです。
したがって、まずは「赤字を出さない」のがいちばん。ただし、それは「経営」の範疇で語られるべきことであって、「財務」の範疇ではありません。
じゃあ、赤字が出てしまったらどうしたらいいのか?
はじめにやるべきは、「売上増や経費減で、赤字を解消できる見込みがあるかどうか」の検討です。近い将来に解消する、黒字化するので、運転資金の融資で赤字補てんをしてもだいじょうぶ! というのであれば、それはそれと考えることができます。
けれども。解消の見込みが無い、あるいは不明だとしたら。売上増や経費減以外の「策」を検討しなければなりません。
具体的には、「借入返済額の減額」です。
まずは、複数ある借入金を一本化する(まとめて返済期間を伸ばす)、借り換えるなどして、毎月の返済額を減らすことを検討しましょう。
それでもダメだ… となれば、リスケジュールです。当初の融資条件を変更してもらう、毎月の返済額をゼロあるいはゼロに近い金額まで下げてもらうことを検討しなければなりません。
このあたり、「借入返済額の減額」への対応が遅い会社は少なくありません。対応が遅れれば遅れるほど状況が悪くなりますので(手元の預金残高が減っていく)、その後に「借入返済額の減額」をしようとしても、銀行から断られてしまう可能性が高まります。
ですから、自社が運転資金の融資で赤字を補てんしているようなときには、早い段階で「借入返済額の減額」を検討しましょう。
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まとめ
資金使途のひとつ、「運転資金」について。銀行から運転資金を借りて会社がやってはいけないこと、をお話してきました。
やってしまうと、会社の資金繰りを悪化させてしまう。場合によっては会社をつぶしてしまうことにもなりますから、じゅうぶんに気をつけましょう。
- 法人税・賞与を払う
- 設備投資をする
- 赤字の補てんをする