財務の安全性をはかる指標のひとつ、手元流動性比率。
ウチの会社は手元流動性比率が高いから安全だ!とも言えない、銀行融資で注意すべきケースがありますよ。というお話です。
高けりゃいい、というもんでもない。
財務の安全性をはかる指標のひとつに「手元流動性比率」というものがあります。算式であらわすと次のとおりです↓
手元流動性比率 =(現金預金 + すぐに換金できる有価証券)÷ 平均月商
算式中の「平均月商」とは、平均的な月の売上高。つまり、「年間売上高 ÷ 12ヶ月」で求められる金額になります。
というわけで、「すぐに換金できる有価証券」を持っていないとすれば、手元流動性比率とは「現金預金が平均月商の何倍あるか?」です。
その手元流動性比率が高いほど、「(おカネがあるから)安全だ」との見方になります。
目安として、手元流動性比率が1ヶ月未満だと「超危険」、2ヶ月未満だと「やや危険」、2ヶ月以上なら「ひとまず安心」といった具合です。
ではここで。自社の決算書で手元流動性比率を計算してみたら、2ヶ月以上あった! ひとまず安心だ! というのであれば注意が必要です。
なぜなら、手元流動性比率が高くても注意すべきケースがあるから。それがこちらの4つになります↓
- 入金が支払に先行する
- 季節変動が大きい
- 現金が多い
- 定期預金が多い
自社がこれらのケースにあたっていないかどうか? このあと順番に確認していきましょう。
手元流動性比率が高くて安全!とも言えない銀行融資で注意すべきケース
《ケース1》入金が支払に先行する
手元流動性比率が高くて安全!とも言えない銀行融資で注意すべきケース、1つめ。それは、「入金が支払に先行する」というケースです。
たとえば、決算書を見たときに。売上高が 1億 2,000万円(平均月商 1,000万円)、現金預金が 2,000万円の会社があったとします。この会社の手元流動性比率は、
現金預金 2,000万円 ÷ 平均月商 1,000万円 = 2ヶ月
これならひとまず安全だ! と言えそうなものですが。実は、毎月5日が仕入代金の支払で、決算日の5日後に 700万円の支払があるとしたらどうでしょう?
現金預金はとたんに 1,300万円です。売上代金の入金が月末だとしたら、月末までのあいだに、各種経費や借入金返済などで、さらに現金預金は減っていきます。
すると、月の途中では現金預金が 1,000万円を下回っている。手元流動比率としては危険水域… ということもありえます。
このような会社は、現金預金がもっとも少なくなったときの金額をもとに、銀行から「運転資金」の融資を受けるようにしましょう。
月の途中で現金預金がもっとも少なくなったときにも、あるていどの手元流動性比率を確保できるように、銀行から融資を受けておくわけです。
ところが。銀行に対して、ただただ決算書を見せているだけだと、銀行に融資の必要性をわかってもらえないことがあります。
決算書だけを見ていると、手元流動性比率は2ヶ月あるので、そんなにおカネがないようには見えないからです。
そこで、会社は銀行に対して、「売上代金の入金日(売上サイト)」や「仕入代金の支払日(支払サイト)」を説明するようにしましょう。
そのうえで、「もう少し手元の現金預金を厚くしておきたいので」との理由で運転資金の融資を依頼する。
見た目の手元流動性比率だけで安全性を見誤らないように、注意が必要です。
《ケース2》季節変動が大きい
手元流動性比率が高くて安全!とも言えない銀行融資で注意すべきケース、2つめ。それは、「季節変動が大きい」というケースです。
季節変動とは、気候の変化であったり、折々のイベントなどが要因となって、1年のなかで売上が変動することを言います。
小売業や飲食店業などでは、「毎年2月・8月は売上が下がる」と言われるところであり、季節変動の一例です。
ではここで。売上高が 1億 2,000万円(平均月商 1,000万円)、現金預金が 3,000万円の会社があったとします。この会社の手元流動性比率は、
現金預金 3,000万円 ÷ 平均月商 1,000万円 = 3ヶ月
これなら安全だ!とも言えないのが、季節変動の大きな会社です。
もし、この会社の売上が大きく偏っていたら? ある月の売上が突出して大きく、その売上代金がちょうど入金されるタイミングで決算を迎えているのだとしたら?
決算書を見れば、手元流動性比率は3ヶ月ではありますが。別の月で手元流動性比率を計算したら1ヶ月にも満たなかった… ということはありえます。
このような会社は、現金預金がもっとも少なくなったときの金額をもとに、銀行から「季節資金」の融資を受けるようにしましょう。
季節変動が大きい会社は、商品の売れ行きが上がる前に、販売チャンスを逃さぬように、たくさんの在庫を準備することが必要です。
このように季節変動に合わせて、商品在庫を蓄えるための仕入資金を「季節資金」と呼びます。この季節資金の融資を受けることで、現金預金が少なくなるのを防ぐわけです。
ところが。銀行に対して、ただただ決算書を見せているだけだと、銀行に季節資金の必要性をわかってもらえないことがあります。
決算書だけを見ていると、手元流動性比率は3ヶ月あるので、そんなにおカネがないようには見えないからですね。
そこで、会社は銀行に対して、「年間の売上・仕入計画」や「資金繰り表」などを提示して、季節資金が必要であることを説明するようにしましょう。
やはり見た目の手元流動性比率だけで安全性を見誤らないように、注意が必要なところです。
《ケース3》現金が多い
手元流動性比率が高くて安全!とも言えない銀行融資で注意すべきケース、3つめ。それは、「現金が多い」というケースです。
決算書に掲載されている「現金預金」のうち、「現金」が多いがゆえに、手元流動性比率が高い会社があります。
その現金が、ほんとうに実在していればよいのですが。ほんとうは無い… こともあったりします。
どういうことかと言うと。社長が会社の預金から現金を引出した。でも、なにに使ったかよくわからない。あるいは、私的なことに使った。なので、会社の経費にはできない。
結果として、経理処理上は、「現金を引出したまま」になっている。現金がたくさんあるようになっている。そんなケースです。
ほんとうはないはずの現金まで含めて手元流動性比率が高いのだとしても、実態とは違うのですから、ちっとも安全ではありません。
また、「現金が多い」ことについては、銀行も警戒をしています。前述したように「ほんとうは実在しない」ことを疑っているからです。
というわけで。まずは会社自身が、「ほんとうは実在しない現金」が決算書に載っていないかを確認する必要があります。
そんなのあらためて確認するまでもないだろう?と、思われるかもしれませんが。
社長が決算書をよく見ていないとか、決算書は顧問税理士に任せきりとかで、現金が膨らんでいることに会社が気づいていないということはあるものです。
そのうえでもし、「ほんとうは実在しない現金」が見つかったなら。しかるべき処理で、正しい現金残高に合わせるようにしましょう。
放置しておくと、銀行からは「経理処理がいい加減な会社だ」と見られ、融資が受けにくくなってしまう可能性があります。
《ケース4》定期預金が多い
手元流動性比率が高くて安全!とも言えない銀行融資で注意すべきケース、4つめ。それは、「定期預金が多い」というケースです。
たとえば、売上高が 1億 2,000万円(平均月商 1,000万円)、現金預金が 3,000万円の会社があったとします。この会社の手元流動性比率は、
現金預金 3,000万円 ÷ 平均月商 1,000万円 = 3ヶ月
これなら安全だ!とも言えないのが、定期預金が多い会社です。
もしも現金預金のうち、定期預金が 2,000万円だったとしたら。その定期預金はもしかしたら、どこかの銀行融資の「担保」かもしれません。
だとすれば、ふだんの資金繰りには使うことのできないおカネですから。見た目の手元流動性比率ほど安全だとは言えないでしょう。
また、実際に担保にまではなっていなかったとしても、「実質的に担保」ということもありえます。
定期預金をしている銀行から、融資を受けている場合です。この場合、会社が定期預金を解約しようとすると、銀行はあの手この手で解約をやめさせようとしてくることが想定されます。
融資をしている銀行としては、定期預金があれば、いざというとき(会社が返済できなくなったとき)の返済原資になるからですね。
というわけで。担保になっていなくても、定期預金を自由には使えないことはあります。
このあたりの「事情」を抜きに、表面的な手元流動性比率だけを見てしまうと、自社の安全性を見誤ることになりますので注意しましょう。
定期預金をするにも注意が必要だ、ということでもあります。
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まとめ
財務の安全性をはかる指標のひとつ、手元流動性比率。
ウチの会社は手元流動性比率が高いから安全だ!とも言えない、銀行融資で注意すべきケースを押さえておきましょう。
- 入金が支払に先行する
- 季節変動が大きい
- 現金が多い
- 定期預金が多い