「銀行が言う利益」と「会社が言う利益」とは、とかく食い違うものです。結果として、会社は融資が受けにくくなります。
というわけで。会社ができるだけ思いどおりに融資を受けられるようになるためにも、「銀行が言う利益」と「会社が言う利益」との食い違いを理解しておきましょう。そんなお話です。
銀行と会社は、とかく食い違う。
ひとくちに「利益」と言っても、その見方や考え方はいろいろで(いろいろのなかみは後述します)。ゆえに、「銀行が言う利益」と「会社が言う利益」とは、とかく食い違うものです。
食い違った場合になにが起こるのか? と言えば。会社は、融資が受けにくくなります。なぜ、利益が出ているのに融資が受けられないんだ…? と、会社は歯がゆい思いをすることになります。
そこで、会社ができるだけ思いどおりに融資を受けられるようになるためにも、「銀行が言う利益」と「会社が言う利益」との食い違いを理解しておきましょう。具体的にはこちらです↓
- 税引後利益か、営業利益か
- じゅうぶんな利益か、わずかすぎる利益か
- いまの利益か、過去の利益か
これらの食い違いについて、このあと順番に見ていきましょう。
「銀行が言う利益」と「会社が言う利益」とが食い違うところ
税引後利益か、営業利益か
ひとくちに「利益」と言っても、いろいろあります。実際、損益計算書を眺めてみると、「利益」と名のつくものは、ひとつやふたつではありません。
具体的には、損益計算書の上にあるものから順に「売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益」となります。
もうひとつ、「特別利益」というものもありますが。ここで言う「利益」とは、ちょっと「毛色が違う」ものになりますので、いまは忘れてしまいましょう。
では、その「いろいろある利益」について。営業利益は「黒字」、税引後当期純利益は「赤字」という会社があったとします。そのような会社の「言い分」は、こうです↓
『会社の本業の稼ぎをあらわす「営業利益」は黒字なのだから、返済力はあるはずだ。だから、融資を受けられるはずだ』
これに対して、銀行の「言い分」がこちらです↓
『たしかに、営業利益はだいじな利益です。ですが、税引後当期純利益も、返済原資を構成するだいじな利益です(その税引前当期純利益が赤字じゃあ融資はちょっとなぁ…)』
というように、会社と銀行との食い違いが起こります。
会社の言い分はもっともなようですが、なかには「わるだくみ」をしている会社はあるもので。つまり、本来は「売上原価」や「販売費及び一般管理費」、「営業外費用」とすべき費用を「特別損失」として経理処理してしまうような会社です。
すると、特別損失として処理した金額分だけ営業利益は膨らみます。税引後当期純利益は変わらないけれど、営業利益をよく見せることはできる。
これは、銀行融資・銀行対応の「常套手段」ではありますが、本来は違うものにまで用いるのは「わるだくみ」と言わざるをえません。
ですから、銀行が「これは、わるだくみだろう」と考えれば、会社がどれだけ「営業利益は黒字だ!」と主張をしようとも、その主張は受け入れられないということになるわけです。
このあたりの食い違いについて、会社は「銀行の見方・考え方」を理解しておきましょう。また、銀行に対して「わるだくみ」は通用しないものと考えておきましょう。銀行をナメてはいけません。
じゅうぶんな利益か、わずかすぎる利益か
たとえば、年商(年間売上高)が 5,000万円。税引後当期純利益が 5万円の黒字という会社があったとして。そのような会社の「言い分」は、こうです↓
『銀行は黒字がだいじだ、と言う。たとえ1円でも黒字がだいだ、とも聞く。そのとおりに黒字を出したのだから、融資を受けられるはずだ』
これに対して、銀行の「言い分」がこちらです↓
『たしかに、黒字はだいじです。けれども、返済原資としてじゅうぶんな利益とまでは言えません(これじゃあ、融資はできないよなぁ…)』
というように、またしても、会社と銀行との食い違いが起こります。
銀行が利益を重視するのは、「利益 = 返済原資」と考えているからです。もう少し具体的に言うと、「税引後当期純利益」を返済原資だと考えているからです。
税金を払ったあとに残った利益があってはじめて、借りたおカネの返済をすることができる。銀行はそう考えています。これを算式であらわすと、
年間返済額 < 税引後当期純利益
が成り立つかどうか、ということになります。
したがって、さきほどの会社のように、税引後当期純利益が5万円という場合。年間返済額には満たないため、銀行としては「これじゃあ、借りたおカネを返済してもらえない。融資はできない」となってしまうことでしょう。
また、利益が少ない会社に対して、銀行は「あるひとつの懸念」を抱くものです。それは、「粉飾決算(利益の水増し)」の疑念です。
つまり、ほんとうは赤字なのだけれど、銀行から融資を受けたいがために、粉飾決算によってギリギリ黒字にしたのではないか? そういうことです。
実際に、そのような会社はあるもので。利益はギリギリ黒字。加えて、減価償却費が未計上、買掛金・未払金の未計上、在庫の急増などが決算書に見られると、粉飾決算は「ほぼ決定的」となります。
だから銀行は、ギリギリ黒字のような「わずかすぎる利益」を好みません。売上の金額に対して「わずかすぎる利益」を好みません。
さきほどの例で言えば、売上 5,000万円に対して、利益は5万円。率にすると、0.1%です。わずかすぎる利益だと言われないためには、少なくとも1%以上、できれば3%以上は出したいところです。
「じゅうぶんな利益か、わずかすぎる利益か」で、食い違いが起きることを理解しておきましょう。
[ad1]いまの利益か、過去の利益か
たとえば、今回の決算の税引後当期純利益が 500万円、利益剰余金は 5,000万円のマイナス、という会社があったとして。そのような会社の「言い分」は、こうです↓
『返済原資としてじゅうぶんなくらいの利益を出した。だから、融資を受けられるはずだ』
これに対して、銀行の「言い分」がこちらです↓
『たしかに、きちんと黒字を出されています。ただ、過去の利益の累積である「利益剰余金」はまだ大きくマイナスです(融資をするには不安があるなぁ…)』
会社は、今回の決算の利益である 500万円の黒字を主張しています。言うなれば「いまの利益」です。
これに対して、銀行は、過去の利益の累積である利益剰余金のマイナス 5,000万円を問題にしています。言うなれば「過去の利益」です。
ここでちょっと、利益剰余金の説明をしてみます。
利益剰余金とは、貸借対照表の「純資産の部」を構成するもののひとつです。その「純資産の部」は、端的に言えば「資本金 + 利益剰余金」になります。
また、貸借対照表には「資産の部 = 負債の部 + 純資産の部」という関係性があることに注目してみましょう。
このうち右辺の「負債の部 + 純資産の部」は、「どこからおカネを調達したか」をあらわしています。負債の部は「ヒトから借りて調達した」ということであり、純資産の部は「自前(出資か利益か)で調達した」ということです。
いっぽうで左辺の「資産の部」は、調達してきたおカネで「なにを買ったか」をあらわしています。モノを買えば「固定資産」として、商品を買えば「棚卸資産」として、なにも買っていなければ「現金預金」として、貸借対照表に掲載されることになります。
ここでもういちど、「資産の部 = 負債の部 + 純資産の部」の算式を考えてみましょう。純資産の部は「資本金 + 利益剰余金」ですから、こうなります↓
資産の部 = 負債の部 + 資本金 + 利益剰余金
さきほどの会社は、利益剰余金が 5,000万円のマイナスでした。そのように、利益剰余金がマイナスであるほど、左辺の「資産の部」は小さくなりそうだということがわかります。
会社は、現金預金を含めて資産によって借りたおカネを返済するのですから、資産の部が小さいことは銀行にとって不安材料なのです。だから、「過去の利益」である利益剰余金が小さいと、融資が受けにくくなる。利益剰余金がマイナスとなれば、なおさらです。
「税金を払いたくない」という考えから、出せるはずの利益を出し惜しむ会社があります。場合によっては、赤字にしてまで税金を払わない。そういった会社の「利益剰余金」はえてして小さなものです。
銀行は、利益剰余金の大きさを見て、会社の「稼ぐチカラ」をはかると同時に、「利益に対する姿勢」まで見ています。
利益を出し惜しむ会社が、銀行から好まれないのは言うまでもありません。「いまの利益」ばかりではなく、「過去の利益」にも目を向けてみましょう。「過去の利益」を積み上げるために、「いまの利益」を出し惜しまないようにしましょう。
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まとめ
「銀行が言う利益」と「会社が言う利益」とは、とかく食い違うものです。結果として、会社は融資が受けにくくなります。
会社ができるだけ思いどおりに融資を受けられるようになるためにも、「銀行が言う利益」と「会社が言う利益」との食い違いを理解しておきましょう。
- 税引後利益か、営業利益か
- じゅうぶんな利益か、わずかすぎる利益か
- いまの利益か、過去の利益か