銀行から融資を受けている会社が、繰り上げ返済をする。たしかに、それもひとつの選択肢ではあります。
とはいえ、「繰り上げ返済」でよくある間違い・勘違いには気をつけましょう、というお話をしていきます。
繰り上げ返済で後悔をする社長もいる。
銀行から融資を受けている会社が、「繰り上げ返済をしよう」と考えることがあります。繰り上げ返済、つまり、当初の返済期限よりも早く返済をする、ということです。
たしかに、繰り上げ返済もひとつの選択肢ではありますが。こんなはずじゃなかったぁ…! と、後悔する社長もいますので注意が必要です。
繰り上げ返済について間違えた理解をしていたり、勘違いをしたりしていると、後悔をすることになりかねません。
そこで。銀行融資の「繰り上げ返済」でよくある間違い・勘違いについてお話をしていきます。おもには3つ、次のとおりです↓
- 決算書の評価が上がる
- 銀行がよろこぶ
- また借りればいい
これらのなかに、「そう思っていた」というものがあれば要注意です。それではこのあと、3つの間違い・勘違いを確認していきましょう。
銀行融資の「繰り上げ返済」でよくある間違い・勘違い3選
【間違い・勘違い1】決算書の評価が上がる
繰り上げ返済をすると、「決算書の評価が上がる」と考えている社長がいます。繰り上げ返済によって借入金が減れば、自己資本比率が上がるから。という理屈です。
決算書の評価が上がれば、今後の銀行からの融資も受けやすくなるはず。だから、繰り上げ返済をしたほうがいい。というのであれば、気をつけましょう。
なぜなら、繰り上げ返済をしても、自己資本比率はそれほど変わるわけでもないからです。
たとえば。総資産1億円、自己資本(純資産)2,000万円、借入金 5,000万円の会社があったとして。自己資本比率は 20%です(2,000万円÷1億円)。ここで社長が、「1,000万円を繰り上げ返済する」と考えたとします。
すると、借入金は 5,000万円から 4,000万円に減ります。いっぽうで、総資産が 1億円から 9,000万円に減ります。繰り上げ返済をするのに「おカネ(資産)」を 1,000万円使うからです。
この結果、自己資本比率はどれだけ上がるのか?
2.2%です(2,000万円÷9,000万円=22.2%)。ほれ見たことか、2.2%も上がるじゃないか! と思われるかもしれません。けれども、1,000万円の「おカネ(預金)」が減ることにも目を向けてみましょう。
総資産1億円の規模の会社にとって、1,000万円の預金はけして小さくないはずです。繰り上げ返済によって、預金はほとんどない… ということもじゅうぶんにありえます。
これにより、日々の資金繰りが厳しくなり、おカネが足りなくなってしまったら? 言うまでもなく「倒産」です。繰り上げ返済をして倒産をしてたのでは、笑い話にもなりませんよね。
実際には、倒産するほどまでに繰り上げ返済をすることはないでしょう。けれども、ていどの差こそあれ、繰り上げ返済は「会社の資金繰りを厳しくする」ことは覚えておかなければいけません。
さきほどの例で言えば、1,000万円のおカネを減らしてまで、自己資本比率を 2.2%上げる意味はあるのか? 1,000万円のおカネに比べたら、2.2%はわずかなものではないのか? と、検討をするようにしましょう。
決算書を見る銀行もまた、会社が持っているおカネの量には注目をしています。おカネのある会社は、少々赤字になったとしても倒産しにくいので、おカネを持っている会社を銀行は評価するものです。
もちろん、自己資本比率もだいじな指標ではありますが。あくまで、おカネとのバランスで考えましょう。少なくとも、手元のおカネをギリギリに減らしてまで繰り上げ返済をするものではありません。
【間違い・勘違い2】銀行がよろこぶ
「繰り上げ返済をしたら、銀行だってよろこぶだろう」と言う社長がいます。銀行は貸したおカネを回収するのが仕事なのだから、早く回収できればよろこぶはずだ。と、そんな理屈です。
それは違います、逆です。銀行はイヤがります。
なぜなら、銀行には「営業目標」や「ノルマ」があるからです。繰り上げ返済をされると、銀行は目標やノルマの達成に影響が出てしまう。だから、繰り上げ返済をされたくはないのです。
たとえば、とある銀行で「融資残高 〇〇億円」という目標があったとして。この銀行から、5,000万円の融資を受けている会社であれば、その 5,000万円も「融資残高 〇〇億円」のなかに含まれます。
ではここで、会社が繰り上げ返済をしたらどうでしょう? 5,000万円の融資残高を見込んでいた銀行としては困ってしまいます。繰り上げ返済をされてしまったら、あらたに 5,000万円の新規融資先を探さなければいけません。
したがって、繰り上げ返済自体が、銀行にはイヤがられることを覚えておきましょう。それでもなお、繰り上げ返済をしたいのであれば、もうひとつ覚えておくべきことがあります。
それは、繰り上げ返済をする時期です。
銀行の決算は9月と3月。よって、9月末と3月末の目標達成に向けて、銀行は動いています。にもかかわらず、決算直前などで繰り上げ返済をされたらどうでしょう?
銀行としてはたまったものではありませんよね。ですから、もし繰り上げ返済をするとしても、決算の直前というタイミングは避けることです。
また、繰り上げ返済は「約束を破る」行為でもあります。当初の約束よりも早く返済をするのが繰り上げ返済です。
たとえば、当初の返済期間が5年だとすれば、銀行は「5年借りるというから貸したのに、5年の利息を見込んでいたから貸したのに」と思うことでしょう。
それを早く返済されてしまえば、銀行の利息収入にも響いてきます。銀行としては、約束どおり借りていてほしいのです。
あまり頻繁に繰り上げ返済をしているようだと、銀行からは「約束を守らない会社」だと思われてしまいます。ひいては、融資が受けにくくなることも考えられますので気をつけましょう。
【間違い・勘違い3】また借りればいい
前述した【間違い・勘違い1】のところで、繰り上げ返済をすると手元のおカネが減ることをお話しました。
この点で、おカネが必要になれば「また借りればいい」と考えている社長がいます。たしかに、また借りれるのであれば、それもいいでしょう。
けれども、「また借りれるかどうかはわからない」ところに大きな問題があります。
ご存知のとおり、銀行から融資を受けるには審査にパスすることが必要です。その審査の基準のひとつに、「決算書の良し悪し」があります。決算書の内容が良ければ融資を受けられる、悪ければ受けられない、という基準です。
では、いつも自社の決算書が良いか? と言えば。そんなこともありませんよね。将来のことはだれにもわからないのです。
繰り上げ返済をしようと考えるときには、往々にして決算書の内容が良かったり、おカネがあったりするので、将来を楽観的に見てしがいがちになります。
繰り上げ返済後に業績が悪化、銀行から融資を受けようとしても断られてしまった。「あのとき繰り上げ返済なんてしなければよかった…」と後悔をする。そんな事態は避けたいものです。
銀行融資は借りたいからと言って、そのときに借りれるものではありません。借りれるかどうかはわからない。そう考えると、繰り上げ返済はせずに、手元におカネを残しておくのも有効な選択肢となります。
くれぐれも、「また借りればいい」との思いで、繰り上げ返済をしないようにしましょう。
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まとめ
銀行から融資を受けている会社が、繰り上げ返済をする。たしかに、それもひとつの選択肢ではありますが。
こんなはずじゃなかったぁ…! と、後悔することがないように。「繰り上げ返済」でよくある間違い・勘違いを、確認しておくようにしましょう。
- 決算書の評価が上がる
- 銀行がよろこぶ
- また借りればいい