3期分以上の決算書を並べて見ている、という社長さんは少ないものです。
それでも、毎年の決算書を並べて推移を見ることにはメリットがある。というお話をしていきます。
決算書、並べてる?
社長さんに質問です。毎年の決算書、並べて「推移」を見ていますか?
前期と当期、2期分を並べて見ている。という社長さんは少なくありませんが、3期分以上となると途端に少なくなります。
その理由はともかくとしても。毎年の決算書を並べてみる、それも3期分以上を並べて「推移」を見ることには、メリットがあることを覚えておきましょう。
具体的には、こちらの3つです↓
- 自覚なき粉飾・やりすぎ節税に気づける
- 計画の甘さに気づける
- 売上至上主義に気づける
逆に、毎年の決算書を並べていなければ。これらのメリットを得られない、というデメリットがあります。もったいない。
どれほどもったいないメリットか、このあと確認をしていきましょう。
毎年の決算書を並べて推移を見る社長のメリット3選
【メリット1】自覚なき粉飾・やりすぎ節税に気づける
まずは、毎年の決算書を並べてみましょう。具体的には、過去3期分以上(できれば 10期分)の決算書を用意します。そのうえで、縦軸に勘定科目、横軸に期数をとって、金額を埋めていきましょう。
そこまでできたら、「推移」を確認です。
このときとくに注目をしたいのが、最終利益である「当期純利益」になります。決算書のうち「損益計算書」の末尾に記載されているのが「当期純利益」です。
その当期純利益の金額を、過去から順に「推移」を眺めてみましょう。
結果として、「ちょっとだけ黒字」がずーっと続いている。「ちょっとだけ黒字」で横ばいになっている。これは、要注意です。
黒字なのは、銀行から融資を受けるため。赤字だと融資が受けにくくなるので、なんとしても黒字にしたい。なんとか黒字にしたい。そんな社長の考えが、「ちょっとだけ黒字」にあらわれていることがあります。
そのあたり、銀行も心得ているもので。決算書推移のチェックは欠かしません。「ちょっとだけ黒字」が続いていると、「もしかして粉飾(利益の水増し)?」と疑います。
もちろん、銀行も「粉飾してますよね?」などとは言いませんから。心のなかで、そう思われるだけであり、社長が気づかぬうちに会社の評価を落とされていることになります。
1年分の決算書だけを見ていたのでは、「ちょっとだけ黒字」が続いていることには気がつきにくく。社長にとっては「自覚なき粉飾」であることは少なくありません。
また、黒字が大きくなればなったで、たくさんの税金を払わなければいけません。すると、社長は経費を増やして利益を圧縮。これまた「ちょっとだけ黒字」を狙うことがあります。
では、ほんとうは出せるはずの利益を出し惜しむとどうなるか?
内部留保(貸借対照表の「利益剰余金」)が増えず、財務の危険度が高まります。このような「やりすぎ節税」の社長を銀行は好みません。当然、融資が受けにくくもなりますから、会社にとってはデメリットでしょう。
というように。自覚なき粉飾・やりすぎ節税に気づけるのは、毎年の決算書を並べて推移を見るメリットのひとつです。
毎年の決算書をただ見ているだけだと、意外と気がつかず。知らないうちに銀行からの評価を下げ、さらには財務の安全性を落としていることがあります。気をつけましょう。
【メリット2】計画の甘さに気づける
毎年の決算書を並べたら、その横に「今後の計画」も並べてみましょう。過去 10期分の決算書を左から順に並べて、いちばん右には当期や翌期以降の計画書を並べてみる、という具合です。
そのうえで。たとえば、「売上高」の推移を見てみましょう。過去から計画に向かって、売上高の金額を見たときに、計画の金額に「違和感」はないか?
ここ数年は、売上高が 10%ずつくらい下がっているのに。計画は、突然の右肩上がり。そんなバカな、と思われるかもしれませんが。これは意外と「あるある」です。
もちろん、右肩上がりの「根拠」があればいいでしょう。けれども、「なんとなく5%増、なんとなく 10%増」という売上計画は少なくないのが現実です。
そのあたり、銀行はまたしても心得ているもので。当然に、毎年の決算書を並べたうえで、計画書の金額を確認しています。あまりにも「違和感」があれば、社長に確認もするでしょう。
そもそも銀行は、「計画は過去の延長線上にあるべき」と見ています。計画の金額は、過去の金額を結んだ線の先・線の上にあればOK。線から外れているのであれば、その「根拠」を求めるものです。
このとき、社長が計画の「根拠」を示せないようだと、計画書としての価値を失います。銀行からは「この計画書は甘い、信用することはできない」と見られておしまいです。
というわけで。社長が、計画の甘さに気づくためにも、毎期の決算書を並べて推移を見るようにしましょう。計画が甘ければ、銀行からの評価を落とすばかりではなく、会社自体が誤った道を目指すことにもなりかねません。
【メリット3】売上至上主義に気づける
さきほど、売上高が右肩上がりの計画を例に挙げました。これは、計画が甘いということのほかにも、大きな問題が潜んでいます。売上至上主義、という問題です。
売上至上主義とは、読んで字のごとく、売上がいちばん、とにかく売上を増やすことがすべて! という考え方を言います。
売上を増やせば利益も増えるし、おカネだって増える。だから、とにかく売上を増やそう! とにかく売ろう、売ってこい! そんな社長もいますし、会社もあります。
とはいえ、売上を増やせば必ずしも利益は増えるものでもありません。売上を増やせば必ずしもおカネが増えるわけでもない。わかってるヒトはわかっていることです。
たとえば。いままで1万円で仕入れて3万円で売っていたモノを2万円で売るとします。3万円のときには 10個売れていたのが(売上高 30万円)、2万円にすれば 20個売れる(売上高 40万円)と目論んだからです。
2万円で売ったほうが 売上高は 10万円増えます。でも、仕入にかかった金額を差し引いた利益はどうでしょう? 計算すればわかりますが、どちらも同じ 20万円です。
2万円で 20個売るためには、3万円で 10個売るよりも数が増えた分だけ、時間と手間(人件費)がかかることは少なくありません。であるならば、その分、利益は削られることになります。
最終的には、3万円で 10個売っていたほうがよかったとなれば。がんばって2万円で 20個売るのは骨折り損のくたびれもうけでしかありません。
それでもなお、「とにかく売上を増やそう」という考えがなくならないところに、「売上至上主義」なる言葉の存在意義があるのでしょう。
というわけで。決算書を並べて見たときに、売上高が右肩上がりになっているのであれば気をつけましょう。つまり、売上高が増えたことで、利益も増えているのか、おカネも増えているのかを確認しましょう、ということです。
売上高を増やそうとすることばかりに目を奪われていないか、売上至上主義に陥っていないか。毎年の決算書を並べてみることで気づくことがあります。
新型コロナを経て、売上が増えない、むしろ減る、ということも起きました。これからしばらくは、「売上が増えない」という前提で計画を立てることも検討してみましょう。
そのときに考えるべきは、「同じ売上なら、単価は高いほうがいい、数は少ないほうがいい」ということです。
単価が高いということは価値が高いということでもあり、競争に強くなります。数が少なければ、売るための時間・手間も少なくなりますので、より価値を高める余力が生まれて、より単価を上げることにもつながります。
逆に、単価を下げて数を売ろうとすれば、さきほど例に挙げたとおり。骨折り損のくたびれもうけです。
だから、まずは単価を上げる、商品価値を高める。そのためには、売上は横ばいでもかまわない、むしろ減ってもしかたない。ときには売上高をあきらめる計画も、選択肢のひとつです。
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まとめ
前期と当期、2期分を並べて見ている。という社長さんは少なくありませんが。3期分以上となると途端に少なくなるものです。
それでも、毎年の決算書を並べてみる。それも3期分以上を並べて「推移」を見ることには、メリットがあることを覚えておきましょう。
- 自覚なき粉飾・やりすぎ節税に気づける
- 計画の甘さに気づける
- 売上至上主義に気づける