銀行の融資審査で見られているものは、決算書ばかりではありません。
というわけで、銀行に見られている「ヒト」に関する3項目と、会社が伝えるべきことについてお話をしていきます。
カネよりヒトか、ヒトよりカネか。
銀行の融資審査で、よく見られるものと言えば「決算書」ですが。ほかにも見られているもののひとつに挙げられるのが「ヒト」でしょう。もう少し具体的に言うと、社員について。
最近の融資では、「事業性評価」の流れもあり、銀行の「ヒト」に対する注目度も上がっているようです。ちなみに、事業性評価とは「決算書に依存せずに、事業の内容や成長可能性を評価しよう」という考え方になります。
事業の内容や成長可能性を評価するための要素のひとつとして、「ヒト」があるわけです。ヒトがいてこその事業、とも言えますから。たしかに、「ヒトがどうか?」という視点は重要です。
また、会社には「雇用の創出」という社会的機能があります。銀行は「公共性」が高い会社には融資がしやすいため、ヒトがいる会社・ヒトが増える会社を評価しているものです。
というわけで。銀行に見られている「ヒト」に関するおもな項目が、こちらの3つになります↓
定着率
新規採用
ひとりあたり給与
これらの項目について、会社が伝えるべきこともふまえて、このあと確認をしていきましょう。
銀行に見られている「ヒト」に関する3項目と会社が伝えるべきこと
【項目1】定着率
銀行に見られている「ヒト」に関する3項目、1つめ。それは、「定着率」です。
会社にヒトがどれくらい定着しているか、が重要であることに異論はないでしょう。少なくとも離職率(定着率の反対)が高いのでは問題ですから、定着率が良いに越したことはありません。
また、以前とは違い、終身雇用という考え方も希薄になりました。勤める側も、一生同じ会社で勤めあげようとは考えない。結果、「ヒトの動き(入社・退社)」は激しくなっていると言えます。
そんななか、融資先の定着率はどうなっているのか? 銀行が気になるのは当然です。その定着率を計算するためには、「採用数」と「退職者数」が必要になります。
このうち「採用数」は、会社案内やホームページなどで公表されていることが少なくありません。銀行はそこから、情報を入手することが可能です。
また、公表されていないとしても、採用数は会社にとってポジティブな要素であることから、聞けば教えてもらえるものでもあります。そう考えると、銀行が採用数を知るのは難しいことではありません。
問題は、退職者数です。ネガティブな要素ですから、積極的に公表されることはないでしょう。それなら聞けばいいかというと、ネガティブな要素だけに銀行は聞きにくいものです。
そこで、銀行が見ているものが「法人事業概況説明書」になります。法人事業概況説明書は、税務申告書のなかに含まれている書類のひとつです。そこには、月ごとの従事員数が記載されています。
月ごとの従事員数と採用数がわかれば、その増減(差分)から、退職者数を推定することが可能です。こうして銀行は、融資先の定着率を把握しようとしています。
では、定着率について、会社は銀行になにを伝えるべきか?
まずは、定着率が悪くても隠そうとはしないことです。なぜなら、いましがたお話をしたとおり、銀行はすでに推定済みだからです。隠すよりも、よりくわしい状況・事情を説明するようにしましょう。
退職理由はどのようなものか、問題点はどこにあるのか、どのような対策を講じているかなど。そのあたりが明確であれば、銀行が感じる不安をやわらげることができるはずです。
逆に、定着率がよい場合には、積極的にアピールをしていきましょう。実際の社員の声や、定着率を上げるための取り組みなどについて伝えられると、銀行からの評価はより高まります。
[ad1]【項目2】新規採用
銀行に見られている「ヒト」に関する3項目、2つめ。それは、「新規採用」です。
前述した定着率のなかでもふれましたが、銀行は「新規採用」にも注目をしています。言うまでもなく、採用がなければ、定着もなにもないからです。
また、一定数の退職は避けられないものでもありますから、それを補うための採用も必要だと言えます。そういう意味で、会社がじゅうぶんな新規採用をできているかに、銀行は注目をしているわけです。
この点で、現状、思いどおりの採用ができていない中小企業が多いことを見聞きしています。今後はわかりませんが、現状ではなかなかヒトを採ることができていないようです。
であるならば、そこは正直に、銀行に伝えるのもひとつの方法になります。銀行は、融資先のビジネスマッチングにもチカラを入れているので、その一環として「人材紹介」を受けられることもあるからです。
中小企業に合った採用に強い人材紹介会社と、提携している銀行もあります。そういったところから、新規採用の道がひらけるかもしれません。
なお、新規採用がうまくいっている場合には、ヒトを採用することで「今後どのように事業を進めていこうと考えているのか」を銀行に伝えるようにしましょう。
たとえば、新規採用により営業部門を増員することで売上増を見込んでいるとか、製造部門を増員することで生産量・売上増を見込んでいるとか。あるいは、新規事業をはじめようと考えているとか。
いずれにせよ、そこには「おカネ」が必要になります。売上が増えれば運転資金が増えるものです。生産量を増やしたり、新規事業をはじめるのには設備資金が必要にもなるでしょう。
ですから、今後の展開を聞いた銀行からは、融資の提案をしてもらえる可能性が高まります。新規採用できる会社というのは、業績が良いケースが少なくありませんので、銀行としても融資をしやすいものです。
もちろん、必要であれば会社のほうから融資の依頼をすればいいわけですが、それでも提案をしてもらうほうが、会社にとってはメリットがあります。銀行は貸したくて提案をしているのですから、融資条件(金利、担保や保証など)の交渉に応じてもらいやすくなるのがメリットです。
銀行のほうから融資提案をしてもらえるよう、新規採用についてアピールをしてみましょう。
[ad1]【項目3】ひとりあたり給与
銀行に見られている「ヒト」に関する3項目、3つめ。それは、「ひとりあたり給与」です。いわゆる、平均給与・平均賃金になります。
ひとりあたり給与は、決算書に記載されている給与の金額を、前述した「法人事業概況説明書」に記載されている従事員数で割り算すれば計算できるので。銀行も把握をしているものと考えておきましょう。
その「ひとりあたり給与」が高ければ、高い給与を支給できるだけの収益力がある会社なんだな、と見ることができます。また、高い給与をもらえるだけの優秀な人材がいる会社だと見ることもできるでしょう。
さらに言えば、高い給与を魅力にして、良い人材を集められる会社、との見方もできます。そんなことから、銀行は、ひとりあたり給与の高低を見ているわけです。
では、ひとりあたり給与の「高低」とは、なにが基準になるのか? それは、他社です。銀行もまた、よく他社比較をしています。他社と比較をすることで「高低」を見極めています。
ですから、会社も「ひとりあたり給与」をみずから計算して、他社(統計資料)と比較をするような資料まで作成する。その資料を銀行に見せながら、自社の良さをアピールできるとよいでしょう。
なお、「ひとりあたり給与」の統計資料としては、「RESAS(リーサス)」がおすすめです。
RESASとは、経済産業省と内閣官房が提供する「地域経済分析システム」です。だれでも無料で使うことができ、さまざまなデータを抽出・分析することができます。
RESASのページを開いたら、「メインメニュー」から、「産業構造マップ」を選択。そのあと「雇用」「一人当たり賃金」の順に選択しましょう。
すると、都道府県別の「一人当たり賃金」の年別推移を見ることができます。この数字と自社の数字を比較してみて、自社のほうが高ければ、銀行に対してアピールになるということです。RESASの画面を印刷して、銀行に提示するとよいでしょう。
なお、RESASの「一人当たり賃金」は、人件費は「給料と賞与」、人数は「社員のみ」の定義です。RESASと比較するのであれば、自社もこれに合わせて「ひとりあたり給与」を計算することになります。
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まとめ
銀行の融資審査で見られているものは、決算書ばかりではありません。
ほかにも見られているものとして、「ヒト」が挙げられることを覚えておきましょう。あわせて、「ヒト」について、会社が銀行に伝えるべきことも押さえておきましょう。
定着率
新規採用
ひとりあたり給与