社長がじぶんで試算表をつくる、という会社が増えました。でも、どのように試算表をつくるといいのか? つくった試算表をどのように見ればいいのか? そこで、試算表を銀行に提出する前にチェックすべきポイントについて、お話をしていきます。
社長がじぶんで試算表をつくる会社が増えた
インターネット利用の増加、クラウド会計の普及もあってか、「社長がじぶんで試算表をつくる(税理士に試算表をつくってもらうのではなく)」という会社が増えました。
この点で、銀行融資に関連して相談をいただくのが、「どのように試算表をつくるといいのか?」や、「つくった試算表をどのように見ればいいのか?」といったものです。
おかしな試算表を銀行に提出して、融資に悪影響が出るのは困る。だから銀行には、きちんとした試算表を提出したい。というのが、社長の思いでしょう。
そこで、本記事では、「社長がじぶんでつくる試算表を銀行に提出する前にチェックすべきポイント」を3つほど、お話ししていきます。具体的には次のとおりです ↓
- 資産・負債の残高を合わせる
- 預金増減の理由を把握する
- 黒字にできないかを検討する
これら3つのポイントについて、このあと順番に確認をしていきましょう。
社長がじぶんでつくる試算表を銀行に提出する前にチェックすべきポイント3選
資産・負債の残高を合わせる
試算表は、貸借対照表と損益計算書とに分かれます。このうち、損益計算書にばかり目がいく社長は少なくありません。つまり、売上や経費、利益ばかりを見ている。たしかに、社長が経営判断をするのにだいじな部分です。
ところが、もし、経理処理を間違えていれば、その売上や経費、利益の金額は意味のないものになってしまいます。では、経理処理を間違えていないかをどうチェックすればよいのか?
ここで、貸借対照表です。貸借対照表には、資産や負債、その差額としての純資産が記載されています。このうち、資産と負債に目を向けてみましょう。
具体的には、資産と負債それぞれに記載されている「各勘定科目の残高」をひとつずつ、確認していきます。たとえば、「普通預金」であれば、試算表に記載されている残高が、通帳に記載されている残高と一致しているのかどうか?
これが一致していないと、損益計算書にも影響していることがあります。複式簿記という経理処理のしくみ上、なにかを間違えると、ほかのなにかも間違えていることになるからです。
預金残高なんて間違えるかね? と、おもわれるかもしれませんが。たとえ、銀行の取引データを会計ソフトに取り込んでいるとしても、操作をひとつ誤れば、預金残高はズレてしまいます。損益計算書ばかりを見ていると、その間違いに気づかないことはあるものです。
もうひとつ例を挙げると、売掛金(売上代金の未回収)。これは、売掛金全体の残高を見ているだけではよくわかりませんので、その内訳まで確認をします。売上先が3社あるのだとすれば、各社ごとの残高まで確認をするということです。
たとえば、A社の入金サイトが「毎月末日締め・翌月末入金」であれば、A社の売掛金残高は、その月の売上金額(請求額)と一致していなければいけません。これが一致していないとなると、売上計上や入金の処理を間違えている可能性があります。
というように、ほかの資産についても、「あるべき残高」をイメージしながら、試算表の残高がイメージと一致するものかどうかを確認していきましょう。言い換えると、試算表の残高を見て、違和感があるものを探してみる、ということでもあります。
負債についても同じです。買掛金(仕入代金の未払い)や未払金(経費の未払い)などは、計上が漏れていることがあります。支払先から請求書をもらっているのに、仕入や経費として処理していない、ということです。すると当然、損益計算書は間違ったものになります。
また、借入金についても、銀行ごとの残高を確認しておきましょう。具体的には、銀行から受け取っている「返済予定表」に記載されている残高と合わせる、ということです。元金と利息の経理処理を間違えたがために、借入金の残高が合っていない試算表が散見されます。
預金増減の理由を把握する
資産と負債の残高を合わせることができると、それができていない場合に比べて、試算表の精度は格段に上がります。銀行もそれをわかっていますから、貸借対照表は念入りに確認をしているものです。
では、精度が高まった試算表を前に、社長はなにをチェックすればよいのか?
ずばり、「預金増減の理由」です。単月(ひと月分)の試算表をつくった場合、試算表には「前月残高」と「当月残高」とが記載されているはずなので、その「差額」から、預金の増減金額を把握することができます。その増減の理由はなんなのか? が問題です。
銀行は、利益の有無も気にしていますが、おカネ(預金)の有無も気にしています。言うまでもなく、おカネが無ければ会社はつぶれてしまうからです。つぶれないまでも、貸したおカネを回収できなくなるかもしれない。だから、銀行は、融資先のおカネの有無を気にします。
だとすれば、おカネの増減もまた、銀行の関心事だとわかるでしょう。ですから、銀行に試算表を提出するにあたって、社長自身も、預金の増減金額とその理由とを把握しておくことが大切です。
では、預金の増減理由をどのように把握すればよいのか? ここでまた、貸借対照表です。貸借対照表をチェックすることで、預金の増減理由をつかむことができます。
端的に言うと、資産(預金以外の)が減った分だけ預金は増えます(資産を売って現金化した、とイメージしましょう)。負債が増えた分だけ預金は増えます(借入をしておカネを受け取った、とイメージしましょう)。純資産が増えた分だけ預金は増えます(黒字でおカネを増やした、とイメージしましょう)。
逆に、資産(預金以外の)が増えた分だけ預金は減ります(資産を買うのにおカネを使った、とイメージしましょう)。負債が減った分だけ預金は減ります(借入を返済するのにおカネを使った、とイメージしましょう)。純資産が減った分だけ預金は減ります(赤字でおカネを減らした、とイメージしましょう)。
これをわかりやすくするためには、各勘定科目ごとの増減金額を一覧にすることです。そのうえで、資産・負債、純資産とに分けて考えてみましょう。最終的に、「共通の書式」としてまとめたものが、「キャッシュフロー計算書」になります。最終的には、そこまで押さえておきたいところです。
預金増減に関連して、もうひとつ。社長が考えておきたいのが、「預金目標」になります。いまの預金残高を、決算までにいくらにしたいのか、1年後にはいくらにしたいのか、といった目標金額です。
繰り返しになりますが、おカネがなくなれば会社はつぶれてしまいます。また、おカネがなければ、将来に向けた必要な投資もできません。そのためにおカネをどれだけ増やしたいのか。どうすればおカネが増えるかの「しくみ」は、前述の話で理解できているはずです。
つまり、資産を減らすのか、負債を増やすのか、純資産を増やすのか。おカネの増やしかたとあわせて、預金目標を検討してみましょう。
利益目標をクチにする社長は多くいますが、預金目標をクチにする社長は少ないものです。社長が預金目標を語れることは、銀行に対してのアピールにもなるでしょう。銀行が、利益ばかりではなく、預金にも注目をしていることは、すでに話をしたとおりです。
黒字にできないかを検討する
貸借対照表のハナシばかりをしてきましたが。ここでようやく、損益計算書にも目を向けてみましょう。チェックのポイントは、単月で黒字が出ているかどうか? です。
たとえば、2022年4月の試算表をつくったのであれば、4月ひと月で見たときに黒字が出ているかどうか。そんなのチェックしているに決まっている、とおもわれるかもしれませんが。
問題は、赤字の場合です。多くの社長は、決算書で赤字が出ることは避けようとしますが、試算表で単月の赤字が出ることにはそれほどでもない。というのが、問題です。
社長としては、決算書で黒字になればいいだろう、とのおもいかもしれませんが。銀行からしてみれば、試算表が「黒字か赤字か」も、次の決算書を予測する材料になるものです。
なので、試算表が赤字となれば、銀行は「次の決算書は赤字かもしれない」と考えやすくなります。ですから、社長は「決算書も黒字、試算表も黒字」を目指すのがよいでしょう。
もちろん、売上を増やして利益を増やすのは大前提として。それとは別に、ほんとうは黒字なのに、「みすみす赤字にしてしまっている」ケースに注意が必要です。
たとえば、年払いの費用。保険料や会費、賃料などの年払いが考えられます。これらを、支払った月に全額を費用として経理処理すると、大きく利益が減って、赤字になることもあるでしょう。
ですが、年払いの費用を 12ヶ月であん分して毎月に振り分ければ、単月の利益を大きく減らすことなく、黒字にできるかもしれません。
似たようなところでは、「賞与」もあります。賞与を支払った月に全額を費用にするのではなく、12ヶ月にあん分して費用に計上するのもひとつの方法です。
というように、試算表について、単月で黒字にできないかを検討するようにしましょう。試算表を提出して、そのタイミングで融資を申し込むのであればとくにです。赤字の試算表よりも、黒字の試算表のほうが融資を受けやすいのは言うまでもありません。
まとめ
社長がじぶんで試算表をつくる、という会社が増えました。いっぽうで、その試算表を銀行に提出するにあたって、「どのように試算表をつくるといいのか?」や、「つくった試算表をどのように見ればいいのか?」といった疑問や不安もあるようです。
正しい試算表をつくるのもカンタンではありませんが、本記事の内容も参考に、少しずつ正しい試算表に近づけていきましょう。
- 資産・負債の残高を合わせる
- 預金増減の理由を把握する
- 黒字にできないかを検討する