決算書の見方というと、「なんたら利益率」だとか「なんたら比率」といった「率」をイメージするかもしれませんが。「率」よりも「額」で見るべきポイントも押さえておきましょう、というお話です。
財務指標も悪くはないけれど。
決算書の見方というと、いわゆる「財務指標」をイメージする社長が少なくないものと想像します。やれ「なんたら利益率」だとか「なんたら比率」だとか。
それはそれで悪くないのですが、こと貸借対照表については、そういった「率」よりも「額」で見たほうが有意義だったりもします。というわけで、どのあたりを「額」で見ていけばよいのか? について確認をしていきましょう。
具体的には次のとおりです↓
- 預金
- 売掛金と棚卸資産
- その他の資産
- 借入金
- 流動資産と流動負債
- 資産と負債
- 利益剰余金
こららについて、このあと順番にお話をしていきます。
貸借対照表は「率」よりも「額」で見るべきポイント
預金
まずは、貸借対照表で「預金」の額を確認してみましょう。いうまでもなく、銀行の口座にいくら残っているのか? の金額です。
この金額に「一定の基準」を設けて、その基準を常にクリアできるよう算段することで、資金繰りの安全度が高まります。では、「一定の基準」とは?
おすすめは、平均月商(年間売上高 ÷ 12ヶ月)の2ヶ月分以上です。これくらいの預金があると、すぐに資金ショートを起こすことは少なくなります。
ただし、平均月商の2ヶ月分は最低ラインであり、できれば3ヶ月分以上、理想をいえば6ヶ月分以上です。そこまでの預金があれば、不測の事態にも耐えられる可能性が高まります。
預金は、事業を続けるのに必要不可欠な資源です。常に現在額を確認し、見込額についても「資金繰り予定表」をつくるなどして管理するようにしましょう。
売掛金と棚卸資産
売掛金や棚卸資産については、「売掛金回転期間」や「棚卸資産回転期間」といった指標もありますが。まずは「額」で確認すること、それも「内訳」の額を確認するようにしましょう。
売掛金であれば、売上先ごとの額を確認します。棚卸資産であれば、種類ごとの額を確認します。そのうえで、「不良(債権・在庫)」や「架空(債権・在庫)」がないかを確認することが先決です。
もしも、不良や架空があれば、貸借対照表に記載されている売掛金や棚卸資産の額自体に、さしたる意味はありません。そこから計算される回転期間は、実態をあらわさないものになってしまいます。
にもかかわらず、意外と、売掛金や棚卸資産の管理がずさん(額で見ていない)な社長はいるものです。不良や架空が増えると資金繰りが悪くなるのに加えて、銀行融資も受けにくくなりますから、ますます資金繰りが悪くなります。気をつけましょう。
その他の資産
たとえば、仮払金や貸付金などが貸借対照表に記載されていないか? もし、大きな額が記載されている場合には注意しなければいけません。
なぜなら、その分のおカネが社外に流出したっきり、戻ってこない可能性があるからです。仮払金や貸付金のなかみを確認して、回収できるものかどうかを検証しましょう。
そもそも、仮払金や貸付金といった経理処理が発生しないようにするのも大切なことです。中小企業のなかには、社長個人に対する多額の貸付が記載されている貸借対照表もあります。
すると、銀行からの融資が受けにくくなるのもデメリットです。銀行は、「おカネを貸せば、また、仮払金や貸付金に流れてしまうのでは?」と考えますから当然でしょう。
さらに、固定資産や繰延資産の額にも注意が必要です。必要な償却(少なくとも法人税法が定める限度額)をしていないのであれば、貸借対照表に記載されている額は過大だといえます。
ほんとうはもっと資産が少ないと考えれば、業績が過大表示されているわけですから、社長が経営判断を間違える原因になりかねません。含み損を抱えている有価証券も同様です。
借入金
貸借対照表上、借入金は4つの勘定科目に区分されます。短期借入金、1年以内返済長期借入金、長期借入金、役員借入金の4つです。
これらが正しく区分されているかどうかを確認するために、それぞれの勘定科目の金額を確認してみましょう。きちんと区分できていない決算書は、けして少なくありません。くわしくは、こちらの記事を参考にどうぞ↓
なお、区分がおかしいと、後述する「流動資産と流動負債」の確認で問題が生じます。やはり、社長が経営判断を間違える原因になるので気をつけましょう。
なお、借入金は「銀行ごと」の金額を把握するのも大切です。そのうえで、メインバンクはどの銀行なのか? 銀行ごとの融資姿勢はどのようか? 預金はどの銀行に預けるのがよいか? といったことを確認します。
そのあたり、くわしくはこちらの記事もどうぞ↓
流動資産と流動負債
続いて、「流動資産」と「流動負債」の金額を確認しましょう。
流動資産とは、現金預金に加えて、近いうち(基本は1年以内)に現金化が予定されている資産です。流動負債とは、近いうち(基本は1年以内)に支払いが予定されている負債です。
この点で、「流動資産 > 流動負債」であることが求められます。これが逆になると、資金繰りに支障をきたすからです。流動負債に対して、できるだけ流動資産を多くすることが、財務の安全につながります。
ただし、流動資産や流動負債のなかみに問題があると、流動資産と流動負債を比べること自体に意味がなくなってしまいますから、前述のとおり、売掛金や棚卸資産の額、その他の資産の額、借入金の額などを確認してきたわけです。
銀行も参考にする有名な財務指標「流動比率(流動資産 ÷ 流動負債)」というものがありますが。これとて、流動資産と流動負債のなかみに問題があれば、意味をなさない指標であることを理解しておきましょう。
資産と負債
続いて、「資産」と「負債」の額を確認します。
前述の「流動資産」と「流動負債」に似ていますが、こんどは、資産と負債それぞれの「総額」です。資産であれば固定資産や繰延資産が含まれ、負債であれば固定負債が含まれます。
そのうえで、「資産 > 負債」になっているかを確認しましょう。これが逆になると、「債務超過」と呼ばれる危険な状態であり、銀行からの融資は極端に受けにくくなります。
では、「資産 > 負債」ならOKかといえば、そうでもありません。貸借対照表に記載されている資産が過大表示かもしれないからです、という話は前述しました。
ですから、資産と負債とを比べるのであれば、資産の額を正しく修正したうえでなければ意味がありません。銀行は、融資先の決算書を、必要に応じて修正をして評価しています。
利益剰余金
「資産 > 負債」が望ましい、という話をしました。これは言い換えると、「純資産 > ゼロ」でもあります。「資産 ー 負債 = 純資産」だからです。
では、貸借対照表の「純資産の部」を見てみましょう。おおむね、資本金と利益剰余金で構成されていることでしょう。このうち、利益剰余金に注目します。
利益剰余金とは、「創業時から現在までの税引後利益の累計額」です。つまり、黒字であるほど利益剰余金が増え、赤字であるほど利益剰余金は減ります。
よって、「純資産 > ゼロ」であるためには、利益剰余金を増やせばいい。黒字を出す・黒字を続けるのがよい、とわかります。
利益剰余金の額を確認にしてプラスであれば、「純資産 < ゼロ」までどれくらいの余力があるか(どれくらい赤字になってもだいじょうぶか)を把握しておきましょう。
いっぽうで、利益剰余金の額がマイナスであれば、「純資産 > ゼロ」までどれくらいの黒字が必要かを把握します。そのうえで、必要な黒字を達成するための経営計画書を作成しましょう。
まとめ
決算書の見方というと、「なんたら利益率」だとか「なんたら比率」といった「率」をイメージするかもしれませんが。「率」よりも「額」で見るべきポイントもありますので、あわせて押さえておきましょう。