社長にとって、「決算書の読み方」は課題の1つです。はたして、「木(勘定科目)を見て森(決算書全体)を見ず」になっていないか。それだとダメな理由についてお話をしていきます。
見る順番には気をつけたほうがよくないですか?
社長にとって、「決算書の読み方」は課題の1つだと言ってよいでしょう。また、税理士や銀行員をはじめ、決算書に深くたずさわる人たちにとっても同様です。
その決算書の読み方について、「木を見て森を見ず」があります。つまり、1つ1つの勘定科目(=木)ばかりを気にして、決算書の全体像(=森)を見るのがおろそかになっている、みたいな。
実際、決算書を見て、急に「〇〇の勘定科目の中身は…?」などと言い出したり、考え出したりする人は気をつけたほうがよいでしょう。
ちなみに、「勘定科目の中身が重要ではない」と言っているのではありません。重要に決まっています。でも、見る順番には気をつけたほうがよくないですか?というお話をしています。
それはなぜなのか?なぜ、社長が「勘定科目ばかりを見て、決算書全体を見ない」のがダメなのか?おもな理由は次のとおりです↓
- 決算書は万人共通の業績開示ツールだから
- 1つめのボタンをかけちがえるかもだから
- 社長が経営判断に使えるものにしたいから
それではこのあと、順番に解説していきます。
社長が「木(勘定科目)を見て森(決算書全体)を見ず」がダメなわけ
決算書は万人共通の業績開示ツールだから
たとえば、銀行員による決算書の見方として、「勘定科目の中身が大事だ」というハナシがあります。1つ例を挙げると、売掛金とか。もし、そのなかに「不良債権」や「架空債権」があれば、粉飾決算になりますから、その有無を見極めなければいけない!と、そんな感じです。
とはいえ、そもそも決算書は、万人共通の業績開示ツールであって、「粉飾ありき」の前提ではありません。この点、銀行もまた、融資先から決算書をあずかったら、まずはすぐに、コンピュータに数字を入力して分析をかけます。
「そのうえ」で、「売掛金がちょっとおかしいかも(売上の増減と比較したときの、売掛金の動きがおかしいぞ、とか)」となり、「じゃあ、売掛金の中身を見てみますか」となるわけです。
粉飾の有無はともかく、社長としても、自社の数字のどこに「異常」があるのかを、まずは「あたりをつける」ためにも、全体像から確認をするほうが効率もよいでしょう。
いきなり、決算書のアタマから、ひとつひとつの勘定科目を見ていたのでは日が暮れます。それよりなにより、木(勘定科目)ばかりを見ていたのでは森(決算の概要)の姿をとらえることができません。
というわけで、社長は、じぶん自身が「木を見て森を見ず」にならないように気をつけること。また、自社の決算書を見る他人(税理士とか銀行員とか)が、「実は、木を見て森を見ずなのでは?」ということにも気をつけておくとよいでしょう。
つまり、いきなり「売掛金の中身は?」とか質問してきたけど、その人は森を見たうえで言っているのか?それとも、単純に木にとらわれているのか?そこを見極める、ということです。
とらわれているかどうかは、質問の意図(理由)をたずねればわかります。そのとき、全体像に関する言及がなければ、木にとらわれていることが多いものです。
1つめのボタンをかけちがえるかもだから
引き続き、売掛金の例で考えてみます。社長であれば、売掛金について「できるだけ少なくしましょう」といったハナシを聞いたことがあるはずです。売掛金が多いほど、資金繰りが悪くなるからですね。
そこで、売掛金の中身を確認して、残高が多い得意先に対して一生懸命に回収をはかろうとする…みたいなことになったとしたらどうでしょう。その得意先からは「だったら値引きをしてくれ」と言われたり、そもそもイヤになって他の仕入先を探そうとするかもしれません。
いずれにせよ、自社にとっては「悪影響」です。これに対して、もっと森(決算書全体)を見るのであれば、「銀行借入をして預金を増やすことで、資金繰りを改善すればよい」との選択肢があることにも気づくでしょう。
つまり、決算書全体を見て、借入余力があるとわかれば借入という選択肢に気づき、資金繰りが改善すれば、売掛金が増えることは気にせず(不良債権には注意ですが)、さらなる売上増加に努めることもできるわけです。
ちなみに、借入余力の考え方については、別記事にまとめましたので参考にどうぞ↓
ひるがえって、1つめのボタンをかけちがえると、せっかくの打ち手も逆効果になったり(売掛金を無理矢理減らす、という前述の例)、じゅうぶんな効果が得られなかったり、ということになりかねません。
だから、1つ1つの勘定科目ばかりを見て、いきなり手を打ち出したりしないように。まずは、決算書全体に目を向けて、森の姿をとらえたうえで、木の手入れをはじめるのがよいでしょう。
社長が経営判断に使えるものにしたいから
さきほど、粉飾決算の話をしました。誤解を恐れずにいえば、中小企業の決算書には多かれ少なかれ粉飾があるものです。再三とりあげている売掛金も、決算書の金額のなかには、回収できない金額(不良債権)が混じっているのをそのままにしている…というケースは少なくありません。
また、ギリギリ黒字だったり、赤字のときには、減価償却費の計上をしなかったり、買掛金・未払金の計上をしない、といった決算書もまた、それほどめずらしいものではないでしょう。
「粉飾=悪」というのは当然として、社長にとってもっとも大きな問題は、正しい業績を把握できなくなることです。結果として、決算書を経営判断の材料として使えなくなってしまいます。
決算書は、自社の業績を「客観的(数字という万人共通のモノサシ)」に把握できる唯一無二のツールです。粉飾によって、そのツールを放棄しているのだとすれば、粉飾などいますぐやめるべきだとわかります。
では仮に、自社の決算書に、多かれ少なかれ粉飾があるのだとすれば、勘定科目1つ1つを見ることにさして意味はありません。それよりもまず、粉飾を正すほうが先です。
この点、決算書の全体像に目を向けることで、決算書の歪み(粉飾)に気がつくことができます。1つ1つの勘定科目の歪みは小さくとも、勘定科目が寄り集まると、その歪みも大きくなるからです。
社長自身、まずはその歪みに気づくためにも、森の姿を眺めてみることからはじめるのがよいでしょう。小さな粉飾を積み重ねた結果、社長自身でさえも粉飾に気づいていないこともあります。
というわけで、銀行員はこんな見方もしていますよー、というポイントは別記事にまとめましたのでご参考にどうぞ↓
まとめ
社長にとって、「決算書の読み方」は課題の1つです。はたして、「木(勘定科目)を見て森(決算書全体)を見ず」になっていないか。それだとダメな理由についてお話をしてきました。
もちろん、1つ1つの勘定科目の中身も大事です。でも、見方としての「順番」には気をつけたほうがよい、ということを理解しておきましょう。
- 決算書は万人共通の業績開示ツールだから
- 1つめのボタンをかけちがえるかもだから
- 社長が経営判断に使えるものにしたいから