貸借対照表も大切だ、というハナシは見聞きしたことがあるでしょう。社長は損益計算書ばかりではなく、貸借対照表も見ましょうよ、と。ではなぜ、貸借対照表も大切なのか?その理由をお話しします。
理由を説明することはできますか?
決算書や試算表は、損益計算書と貸借対照表とに分かれます。このうち損益計算書ばかり見ている社長への注意喚起として、「貸借対照表も大切だ」というハナシはあるものです。
実際に見聞きしたことがある社長も多いことでしょう。では、「なぜ大切なのか?(理由)」を説明することはできますか?と、たずねると。返答に困ってしまう社長が、意外と少なくないようです。
それでは、やっぱり貸借対照表の大切さはわかりませんし、結局、損益計算書ばかりを見て、貸借対照表は見られない…ということになりかねません。
そこで、貸借対照表も社長にとって大切な理由を、あらためて確認してみることにしましょう。具体的には、次のとおりです↓
- 社長にしか変えられないから
- 利益よりもおカネが大事だから
- 1年たってもリセットされないから
これらについて、このあと順番に解説をしていきます。
貸借対照表も社長にとって大切な理由
社長にしか変えられないから
いまさらではありますが、損益計算書は「収入と費用」とで構成されています。「収入ー費用」によって、利益を示すのが損益計算書です。だからなに?と、おもわれるかもしれませんが。
その収入と費用に関する1つの視点として、「社長でなくとも変えられる」ということが挙げられます。言い換えると、社員が「独力」で、数字を変えられてしまう。そういうことです。
たとえば、社員のがんばりしだいで収入は増やせるし、逆に減りもします。費用も同じです。結果論ではあるものの、社員がムダ使いで費用を増やすことはあるし、逆に節約で減りもします。
というように、社長が関与する・しないにかかわらず、収入と費用は変わりうるものであり、損益計算書は社長にしか変えられないものではありません。では、貸借対照表はどうでしょう?
結論、社長にしか変えられません。
たとえば、事業に必要な設備投資をする場合(工場を建てる、機械を買う、営業車を買い替えるとか)、その結果は「固定資産」として貸借対照表に記載されることになります。
この点で、社員が勝手に設備投資をしました!ということはありえないはずです。設備投資の意思決定は社長の役割であり、設備投資の権限も社長が握っていることでしょう。
また、事業に必要な資金を借入する場合、その結果は「借入金」として貸借対照表に記載されます。この点でも、社員が勝手に借入をしました!ということはありえません。
だとすれば、貸借対照表とは「社長の意思決定のあらわれ」であり、「社長の意思決定の結果」でもあります。そんな貸借対照表を、社長が見なければ誰が見るというのか?というハナシです。
社長が次の意思決定をするうえでも、貸借対照表は大いに参考になります。貸借対照表から「過去の意思決定」の良し悪しを学ぶことができるし、加えて、損益計算書からはわからない情報をつかむこともできるからです。
では、損益計算書からはわからない情報とは?
利益よりもおカネが大事だから
損益計算書からはわからない情報、言い換えると、貸借対照表からしかわからない情報とは?
おカネです。貸借対照表には、おカネに関する情報を掲載されています。直接的には「現金預金」であり、間接的にはその他いろいろな資産もです(資産は売却するなどして現金化できる)。
そのおカネは、利益よりも大事だといっても過言ではありません。極論のように聞こえるかもですが、事実、いくら利益が出ていてもおカネが足りなければ会社はつぶれてしまいます。
だとすれば、損益計算書ばかりを見て、貸借対照表を見てないことが、社長としていかに危険であるか、いかに財務をおろそかにしているかがわかるでしょう。
とはいえ、貸借対照表は見方もよくわからないし…というのは、良く見聞きするハナシです。貸借対照表は「資産と負債」とで構成されています。「資産ー負債」によって、純資産(自己資本)を示すのが貸借対照表です。
純資産というあたり、損益計算書の利益に比べると馴染みが薄く、とっつきにくくもある。なので、「収入ー費用=利益」でわかりやすい損益計算書ばかりに目がいってしまう。
また、「利益=おカネ」という誤解もあいまって、貸借対照表がおろそかにもされてしまいます。利益が出れば、おカネが増えるとは限りません。1つ例を挙げるなら、いくら売上を増やしても(利益が増えても)、売上代金の回収を怠ればおカネは増えないことはわかるでしょう。
では、売上代金の回収がどうなっているのかは、どこを見ればわかるのか?いうまでもありませんが、貸借対照表です。一事が万事、利益とおカネは一致しないことがいろいろとあります。
だから、損益計算書ばかりではなく、貸借対照表も見る必要があるのです。でも、貸借対照表の見方はよくわからなんだって…というのであれば。参考になる見方を別記事にまとめました↓
1年たってもリセットされないから
損益計算書と貸借対照表には、大きな違いがあります。それは、損益計算書が1年たつとリセットされるのに対して、貸借対照表は1年たってもリセットされないことです。
ごぞんじのとおり、損益計算書はあたらしい期がはじまれば、収入も費用もゼロからスタートします。心機一転、あたらしい1年への期待があり、不安もあるのが損益計算書です。
いっぽうの貸借対照表はというと、あたらしい期がはじまっても、資産や負債がゼロになるわけではありません。期が変わっても数字は引き継がれ、常に、状況は継続しています。
以上をふまえて、損益計算書ばかり見ていると「視点が短期的に偏る」ということがわかるでしょう。逆に、貸借対照表も見ていれば、長期的な視野で考えやすくなるということです。
社長の仕事は、1年でおわりではありません。むしろ、会社を続けている限り、社長の仕事はずっと続いていきます(いわゆる、雇われ社長でもない限りは)。
この点、過去の積み重ねがわかるのも、貸借対照表の特徴です。たとえば、貸借対照表の「利益剰余金」を見れば、過去の税引後利益の累計額がわかります。創業来、利益の波はありながらも、結局どれだけの利益を積み上げたのかがわかるのです。
損益計算書からは、それがわかりません。損益計算書ばかりを見ていると、そのときどきの利益の大小に一喜一憂しがちになります。あわせて貸借対照表も見ることで、「総じてどうなのか?」を把握できるようにしましょう。
過去を総じて捉えることができると、将来の計画を立てるうえでも役立ちます。計画を過去の延長線上で考えられるため、現実離れした計画になってしまうのを回避しやすくなるからです。
なかには、過去の延長線上にはない未来(飛躍的な成長)もありますが。だから過去を無視してよい、というわけではありません。計画とはまず、蓋然性が求められるものです。
まとめ
貸借対照表も大切だ、というハナシは見聞きしたことがあるでしょう。社長は損益計算書ばかりではなく、貸借対照表も見ましょうよ、と。ではなぜ、貸借対照表も大切なのか?
その理由をお話ししてきました。意外と知らずにいる社長もいるようなので、これを機会に抑えておきましょう。知らずにいれば、結局、損益計算書ばかりを見ていることになりかねません。
- 社長にしか変えられないから
- 利益よりもおカネが大事だから
- 1年たってもリセットされないから