決算書をつくるのが苦手な税理士もいます。すると、対税務署に偏り、対銀行が不十分な決算書となり、ひいては銀行借入がしづらくなります。なので、社長自身が気をつけましょう、というお話です。
税理士を非難する意図はございません
決算書をつくるのは税理士に任せている、という中小企業は少なくありません。では、その税理士が決算書をつくるのが苦手なこともある、といったら驚かれるでしょうか。
ちなみに、ここでいう「苦手」とは、決算書の内容が「対税務署に偏る」ことをあらわします。言い換えるなら、「対銀行が不十分」だということです。つまり、税務署に対しては問題がなくても、銀行に対しては問題がある決算書だといえます。
もちろん、「銀行から借入はしません」というのであれば、それでもかまわないわけですが。多くの中小企業は、事業の持続・成長に銀行借入が欠かせないものとなっています。
にもかかわらず、対税務署に偏った決算書でもよいですか。結果として、銀行借入しづらくなるようなことがあってもよいですか。困りますよね、ということで…
決算書をつくるのが苦手な税理士の見極め方について、お話をしてみます。税理士自体を非難する意図はなく、社長自身が自社の決算書に注意を払いましょう、との趣旨です。なので、決算書を確認するときの視点に、以下を加えることをおすすめします↓
- 特別損失がない
- 利益を減らそうとする
- 流動・固定の分類がおかしい
それではこのあと、順番に解説をしていきます。
決算書をつくるのが苦手な税理士の見極め方
特別損失がない
損益計算書を見たときに、特別損失がないケースがあります。だからといって、即、決算書をつくるのが苦手な税理士がつくった決算書だ!というわけではないものの。
もしかしたら、本当は特別損失なのに「販売費および一般管理費(以下、販売管理費)」に区分されているかも…ということは疑ってみるのがよいでしょう。
特別損失だろうが販売管理費だろうが、対税務署としては問題ありません。最終利益や納税額にも差はありません。ゆえに、そのあたりの区分が不十分だということもあるのです。
では、本当は特別損失なのに、販売管理費に区分されている金額が100万円あったとしたらどうでしょう。
特別損失であれば、営業利益や経常利益といった「本業部分の利益」に影響はあたえませんが、販売管理費であれば、影響を与えることになってしまいます。つまり、販売管理費とすれば、営業利益や経常利益は「ムダ」に100万円少なくなってしまうわけです。
銀行は、融資先の本業の評価として、営業利益や経常利益を見ているため、それらの利益がムダに少なくなるのは、会社にとってよくないことだとわかるでしょう。
よって、特別損失か販売管理費かの区分が大切です。銀行が、決算書の販売管理費を眺めているだけでは、それが特別損失かどうかはわからないことがほとんどでもあります。
たとえば、役員退職金などは、毎年発生する費用ではありませんから特別損失がよいでしょう。また、社員に対する退職金でも、毎年のように退職者がいるわけでもなく、金額も大きいということであれば、特別損失とするほうがより実態をあらわします。
ほかにも、特定の事業からの撤退や店舗閉鎖に関する費用、事務所や営業所の改装費用、社員採用時に人材紹介会社に支払う紹介料など、いろいろと考えられるところです。
なお、逆に、本当は販売管理費なのに、「ムリ」に特別損失にしようとしている決算書も見かけます。銀行対策とおもわれますが、銀行からは「姑息な手段」と見られるために悪影響です。
あくまで、実態にあった区分に努めましょう。
利益を減らそうとする
税理士は、税金を減らしてナンボだろう!と、おもわれるかもしれません。その昔(まだ若かりしころ)、わたしはとある社長から、そのように言われたことがあります。同時に、「税金が高い!」と叱られもしました…
そこまでのことはないにしても、税理士には「お客さまの税金を減らしたい」との思いがあるものです。そのほうがお客さまからは喜ばれるから、ということもあるでしょう。
そこで税理士は、ときには節税の提案もするわけです。このとき、節税の手段が「経理を増やす」ものである場合、利益が減ることになります。利益が減るから税金も減るのですが、「対銀行」としては問題です。
銀行が「赤字を嫌う」というハナシはご存知のことでしょう。これは、銀行が「利益=返済力」と見ているからです。ゆえに、赤字の会社は返済力がない。だったら融資はできないぞ、と。
だとすれば、利益を減らす節税によって、銀行借入しづらくなることはわかるでしょう。それがわかったうえで、それでも利益を減らそうとしているのかどうかには注意が必要です。
もちろん、節税すること自体に問題はありません。ただ、銀行借入をしたいのであれば、バランスをとりましょう、というハナシをしています。節税か納税かのバランスです。
銀行からの評価を上げるには、利益が欠かせません。利益を出せば、その分だけ税金は増えます。では、どこまで利益を出し続ければよいのか。その目安は「利益剰余金」にあります。
詳しくは別記事に書きかましたので、ご参考にどうぞ↓
節税か納税かのバランスを考慮せず、利益を減らそうとする決算書には気をつけましょう。
流動・固定の分類がおかしい
ここまでは、損益計算書の内容についてでした。さいごは、貸借対照表についてです。その貸借対照表について、流動・固定の分類がおかしい決算書が散見されます。
これもまた、決算書をつくるのが苦手な税理士の見極めになるでしょう。まず、資産には「流動資産」と「固定資産」とがあります。そして、負債にも「流動負債」と「固定負債」とがあります。
それらの「流動」と「固定」の分類がおかしいと、銀行からの評価が悪くなることもあるのです。
たとえば、返済期日が1年超の借入金について、正しくは固定負債に分類すべきところを、流動負債に分類している場合はどうでしょう。その分、流動負債が多くなってしまいます。
すると、いわゆる「流動比率(流動資産÷流動負債)」が悪化するのが問題です。流動比率は高いほうが安全性が高いと見られるものであり、流動・固定の分類を誤ることで流動比率を「ムダ」に下げるのは避けたいところです。
逆に、返済期日が1年以内の借入金について、正しくは流動負債に分類すべきところを、固定負債に分類している場合はどうでしょう。流動比率が高くなるからいいじゃないか、というわけにはいきません。
銀行から見れば、「分類を操作して、流動比率を高く装っているのでは?」と疑われることもあるため、やっぱり自社に対する評価が下がることもあるでしょう。
なので、流動・固定の分類は正しくおこなうことが大切です。資産に関しても、流動と固定の分類が誤っている決算書はあります。が、分類を誤ったところで、納税額が変わるわけではなく、対税務署の点では問題がないことから、分類に無頓着な決算書はあるものです。
銀行借入したいのであれば、税理士任せにはせず、社長自身が確認できるようになりましょう。そのうえで、必要に応じて、社長が税理士に誤りを指摘できるようになることです。
まとめ
決算書をつくるのが苦手な税理士もいます。すると、対税務署に偏り、対銀行が不十分な決算書となり、ひいては銀行借入がしづらくなります。
かといって、税理士を非難するばかりではなく、社長自身もまた自社の決算書に注意を払いましょう。そのときの視点として、今回のお話が役に立つものと考えます。
- 特別損失がない
- 利益を減らそうとする
- 流動・固定の分類がおかしい