”決算書の数字もばっちり! これで銀行融資もOKでしょ。”
って、それ。まだわかりませんよ。決算書ではわからない、数字だけじゃない「自社のこと」、銀行にきちんと伝えてる? というお話です。
数字だけじゃない「自社のこと」を銀行に伝えよう
会社・個人事業者が銀行融資の審査を受ける際。融資の可否を分けるのは、おおむね「数字」だと言ってよいでしょう。
具体的には「決算書(または試算表)」に記載される数字の良し悪し。これによって、融資の可否は「7割〜9割ていど」は決まります。
とはいえ。
残りの1割〜3割の要素が、融資の可否を分けるのもまた事実。そんな残りの要素のひとつが、「自社のこと」です。
自社のこと、つまり、自社はどんな会社・事業なのか。銀行融資を受けたいのであれば、「自社のこと」をきちんと伝えましょう。
よくわからないヒトにおカネを貸せますか?
メチャクチャに優秀ではあるけれど、人間的によくわからないヒトと。ズバ抜けて優秀というわけではないけれど、人間的によくわかっているヒトと。
あなたがどうしても、どちらかひとりにおカネを貸さなければいけないとしたら。どちらのヒトに貸しますか?
考え方はひとそれぞれかもしれませんが、銀行的には後者を選びます。ズバ抜けて優秀というわけではないけれど、人間的によくわかっているヒトのほうを選びます。
これを会社・事業に置き換えるなら。決算書がどんなにすばらしくても、会社のこと(数字以外)がよくわからないのにおカネを貸すのは不安だ、と銀行は考えます。
極端なことを言えば、この会社の商売はまっとうなのだろうか、とか。そこまで極端ではなくとも、長続きするような、将来性のある商売なのだろうか、とか。
数字だけでは読み取ることができない部分も、銀行は知りたいわけです。
ですから、決算書ではちょっと負けるとしても、よくわかる会社のほうが銀行は安心する。銀行にはそういう面がある、ということです。
そんな銀行の思いや考えを察して、数字はもちろんのこと、「自社のこと」も伝えることができるようになりましょう。
融資審査で伝えるべき「自社のこと」とはどんなこと?
それではここから、具体的に「自社のどんなこと」を伝えればよいのかについて見ていきます。
融資審査の際、銀行に伝えるべきはザッとこんなところです ↓
- 本店所在地、支店・営業所・工場等所在地
- 役員構成
- 株主構成・資本金
- 従業員数・従業員構成
- 関係会社情報(会社名、所在地、役員構成、株主構成など)
- 沿革
- 事業概要・商流図
- 主な商品・サービス
- 主な販売先
- 主な仕入先
- 知的財産権(特許権、商標権など)
- 利益状況推移(売上高、売上総利益、営業利益、経常利益、当期利益を3から5期分)
上記について、伝える趣旨や銀行の視点などをお話していきます。
本店所在地、支店・営業所・工場等所在地
「事業エリア」や「会社の規模感」などを正しく伝えるためにも、本店・支店などの情報を一覧にまとめて伝えましょう。伝えなければ銀行が知り得ないケースもあるものです。
融資が必要な理由を説明するのにもスムーズになります。たとえば、「九州地区のシェア拡大に向けて博多支店で増員をはかるため」「群馬工場の機械設備更新のため」など。
役員構成
代表取締役(社長)はもちろんですが、その他の役員についても銀行の関心事です。
役員が親族で固められていれば、一般に、血のつながりによる「求心力」は高いもの。融資の返済が厳しくなっても、親族一同で返済に協力してくれそうかな。役員の個人資産の状況はどうだろう、とか。
逆に、役員が他人同士であれば、協力は期待しづらいかな。それに、将来の仲違いや承継も心配だ、とか。いろいろ想像するきっかけになります。
株主構成・資本金
株主構成は、役員構成とセットで見られます。まず、社長は「オーナー(大株主)」かな、それとも「雇われ(株を持っていない)」かな、を見られます。
中小企業に融資をするにあたっては、「雇われ社長」は微妙です。雇われの身なので、オーナーほどの熱意はないかもしれない、とか。オーナーの言いなりで、実質的な経営権はないかもしれない、とか。
役員構成と株主構成とをあわせ見ることで、経営の安定度を測るひとつの指標になります。
関係会社情報(会社名、所在地、役員構成、株主構成など)
法律的には別会社でも、銀行は関係会社を「一心同体」と見ています。たとえば、A社の社長が役員であり株主でもある別会社B社。これはもう、A社と一心同体です。
A社からの融資の申込みが、実はB社の赤字を補てんするためかもしれません。銀行としては、A社に貸したおカネが、B社の赤字補てんに使われたのではたまりません。
ですから、銀行は関係会社についても決算書などを要求して、状況を確認しようとします。
沿革
決算書を並べてもわからない、表れない、会社の歴史についてまとめておきましょう。人間、歴史を知れば、さらに興味関心がわくものです。
ポイントは、過去の「危機」を強調しすぎないこと。銀行が心配をしますから。いくら乗り切った過去があるとはいえ、「また危なくなるんじゃ・・・」とイメージしかねません。
ですから、危機の歴史はほどほどにして、成長の過程を中心に描きましょう。
事業概要・商流図
「経営コンサルティング業です」とか「機械部品の製造業です」なんてタンパクな説明はやめましょう。なにをしている会社か、ぜんぜん伝わりませんから。
たとえば、「○○社など○○業界の管理者向けに、業績管理のコンサルティングをしています」とか、「○○社製の洗濯機のモーターをつくっています」とか、具体的にいきましょう。
また、商流図を添付するのも有効です。「製造業者→当社→小売店→一般消費者」というような、商品・サービスの全体像を図解すると、「自社」の事業がわかりやすくなります。
主な商品・サービス
自社の商品・サービスを知らないお客さまにセールスするつもりでまとめましょう。銀行は、何を売っているかを知ってはいても、それが他社とどう違うのかまでは知らないものです。
必要であれば、商品であれば写真やカタログ、サービスであればパンフレットなどを添付するのもよいでしょう。ただし、あまり添付しすぎるとジャマなので、コンパクトに。
主な販売先
販売先にいわゆる「大手」があると銀行は安心します。大手に認められるチカラがある会社なんだ、と評価をするわけです。知名度のある販売先はアピールしましょう。
いっぽうで、販売先が「集中」していることを銀行は不安視します。その販売先が潰れたりしたら大変だからですね。ほどよく「分散」していることがベストです。
主な仕入先
仕入先も販売先同様に「分散」しているほうが安心でしょう。集中している場合には、その仕入先になにかあった場合、仕入ができなくなるリスクがあります。
また、競争原理もはたらきにくく、仕入れ値が高くなっている可能性もあります。仕入先が集中している場合には、その理由・意図も説明しましょう。
知的財産権(特許権、商標権など)
自社の商品力・競争力を客観的にアピールできるのが知的財産権です。特許権、商標権、意匠権、いろいろあります。これらがある場合、忘れずにアピールしましょう。
売上や利益の見込み(とくに右肩上がり)に対する銀行の懐疑心が和らぐ、という効果が期待できます。
利益状況推移(売上高、売上総利益、営業利益、経常利益、当期利益を3から5期分)
決算書見ればわかるじゃん、と言うのなら不親切です。売上や利益は、数字のなかでもとくに銀行の関心が高いところ。「自社のこと」の一環として、いっしょにまとめておきましょう。
調べればわかるようなことでも、まとめて見やすくしてあげる親切も必要です。
「話せばわかるだろう?」なんて言わずに文書にする
以上、「自社のこと」について、具体的な内容をお話してきました。
さいごに大事なことをもうひとつ。それら「自社のこと」は文書にまとめること。話すだけではなく、文書にする。
そんなの話せばわかるだろう? なんて言わないで。
なぜなら、あなたが話した相手(担当者)が、融資の決済権者ではないからです。
融資の可否を決める(決済する)のは、目の前の担当者ではありません。担当者の報告から上司を経て、さらには審査係、支店長、場合によっては本店審査部までもが決済に関与します。
ですから、話した相手が決済権者にまで伝えてくれなければ、いくら話したところで意味がありません。
別にイジワルで伝えないということではなく。話した相手が、理解できない、覚えきれない、まとめきれないなどの理由で伝わらないことは十分にありうる話です。
融資の可否を左右する「自社のこと」を、他人任せにしてはいけません。だいじなことは、自社で責任をもちましょう。
そのためには文書にすること。書類文化が根づいている銀行ですから、その文書は必ず銀行内を回ります。手間を惜しまず、文書にしましょう。
まとめ
数字だけじゃない「自社のこと」を伝えよう、ということについてお話をしてきました。
文書にするなんてメンドー、話せばわかるだろう。と思われるかもしれません。
話せばわかる、のほかにも。調べりゃわかる、見りゃわかる、という意見もあるでしょう。
けれども、やっぱり「伝わらないかもしれない」可能性を忘れてはいけません。
融資をできるだけ成功に近づけたいのであれば、誰もが嫌がるような手間こそ惜しまないことです。
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きょうの執筆後記
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