自社の決算書に、「役員貸付金」や「役員借入金」はありませんか? 銀行融資を受ける際には注意が必要です。
というわけで、「社長への貸付金・社長からの借入金」があると銀行融資はどうなるのか、についてお話をしていきます。
決算書に「役員貸付金」「役員借入金」はありますか?
自社の決算書(貸借対照表)を、あらためて確認してみましょう。
そこに、「役員貸付金」や「役員借入金」の文字はありませんか?
- 役員貸付金 ・・・ 会社が・社長に・貸しているおカネ
- 役員借入金 ・・・ 会社が・社長から・借りているおカネ
もしもこれらがあれば、銀行融資を受ける際には注意が必要です。
役員貸付金と役員借入金には、銀行融資特有の考え方があり、いずれも銀行融資の可否に影響を与えるからです。
というわけで、次のようなお話をしていきます ↓
- 社長への貸付金は、銀行融資にマイナス
- 社長からの借入金は、銀行融資にプラス
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
社長への貸付金は、銀行融資にマイナス
まずは、社長への貸付金(以下「役員貸付金」と呼びます)。つまり、「会社が・社長に・貸しているおカネ」について。
結論として。役員貸付金が、銀行融資に与える影響は「マイナス」です。
このあと、その理由と対応についてお話をしていきます。
《理由》決算書の評価が下がる+印象が悪い
役員貸付金が、銀行融資に「マイナス」なのは、以下の理由によります ↓
- 資産を減額される(決算書の評価が下がる)
- アヤシイ会社だと思われる(印象が悪い)
上記について、解説を加えます ↓
資産を減額される(決算書の評価が下がる)
銀行が融資審査のなかで決算書を見るポイントのひとつとして、「資産 > 負債」が挙げられます。
具体的には。貸借対照表の資産の総額が、負債の総額を上回っているかどうか。また、上回っていればいるほど良い、と見ています。
逆に、「資産 < 負債」の状態を銀行は嫌います。いわゆる「債務超過」であり、融資をするには危険だからです。
この点を押さえたうえで ↓
たとえば。毎年の決算書に、おおむね 300万円ていどの役員貸付金が計上されているとします。
これを見た銀行は、「(会社が社長から)返してもらえそうもないな」と考えて、役員貸付金に計上されている「300万円ていどの金額」を損失処理します。
要は、「役員貸付金を資産と見ることはできない」ということです。
結果として、前述した「資産 > 負債」においては、悪影響を及ぼすこととなります。300万円の資産が減額されることで、資産の額が負債の額に近づいてしまうからです。
近づくだけにとどまらず、場合によっては「資産 < 負債」と債務超過に陥ることもあるでしょう。
いずれにせよ、役員貸付金の金額分だけ資産を減額されることで、決算書の評価は下がることになってしまいます。
貸借対照表に計上されている役員貸付金が、「前年よりも増えている」という場合。増えた分の金額は「社長への給与みたいなものだろう」と銀行は考えます。
社長への給与と考えれば「費用」なのですから、その分、損益計算書の利益を減額して見られることになります。当然、評価が下がります。
アヤシイ会社だと思われる(印象が悪い)
一般に(必ずそうだ、ということではないけれど)、役員貸付金はアヤシイ経理処理を疑われます。
たとえば。
オモテには出せない・出しにくい支出を、「とりあえず」、役員貸付金として処理していたり。
使途不明金(おカネは減っているが何に使ったかわからない)を解決できないため、「とりあえず」、役員貸付金として処理していたり。
これらを疑った銀行は、「そんなアヤシイ会社におカネは貸せない(またアヤシイことに使われてしまいそうだ)」と考えることになります。
銀行は、「資金使途(貸したおカネの使いみち)」がはっきりしていなければ融資をできないからです。
実際にはアヤシイことなどないにしても。役員貸付金には印象が悪いという一面がある、ということを覚えておきましょう。
《対応》役員貸付金を解消する・発生させない
前述したとおり、銀行融資にマイナスの「役員貸付金」への対応について見ていきます。
役員貸付金の解消をはかる
あればマイナスなのですから、どうにかしてなくすことです。
役員貸付金を解消する方法はいくつかあります ↓
- 社長が持っているおカネで返済する
- 社長が他から借りたおカネで返済する
- 社長が持っている資産を売却して返済する
- 会社が債権放棄(返してくれなくていいよ、と言う)する
くわしくは、こちらの記事をどうぞ ↓
CHECK! 決算書に『役員貸付金』は銀行融資NG!だから返済・解消する方法を考える
役員貸付金を発生させない
せっかく解消しても、また発生しては意味がありません。
役員貸付金がある会社は、その発生がなかなか止まらない。慢性化している、ということも少なくないので気をつけましょう。
具体的には、経理がズサンな会社で、役員貸付金は発生しやすくなります。
社長が会社のおカネを使った際に、領収書・レシートなどをもらっていない・失くしてしまった。
結果、経費として経理ができずに、「しかたなく役員貸付金」として経理をしているようなケースが散見されます。
このあたりを経理担当者や顧問税理士などに任せきりだと、社長の預かり知らぬところで役員貸付金の金額が膨らんでいることにも注意が必要です。
社長からの借入金は、銀行融資にプラス
まずは、社長からの借入金(以下「役員借入金」と呼びます)。つまり、「会社が・社長から・貸りているおカネ」について。
結論として。役員借入金が、銀行融資に与える影響は「プラス」です。
このあと、その理由と対応についてお話をしていきます。
《理由》決算書の評価が上がる
- 負債が減額される(決算書の評価が上がる)
上記について、解説を加えます ↓
負債が減額される(決算書の評価が上がる)
銀行が融資審査のなかで決算書を見るポイントのひとつとして、「資産 > 負債」が挙げられる。と前述しました。
この点で、「役員借入金」は会社から見れば「負債」なのだから、マイナスの影響があるのではないか? と思われるかもしれません。
ところが。中小企業に対する銀行融資の考え方について、金融庁がまとめた「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」には、このように書かれています ↓
代表者等からの借入金等については、原則として、これらを当該企業の自己資本相当額に加味することができるものとする。
なお、代表者等が返済を要求することが明らかとなっている場合には、この限りではない。
ポイントは、「これら(代表者からの借入金)を当該企業の自己資本相当額に加味する」というところです。
言い換えると、役員借入金は「負債」と見なくていいよ。自己資本(資本金)と見ていいよ、と言っています。
であるならば。「資産 > 負債」では、負債が減る分だけプラスに働くことになります。
意外と誤解(役員借入金は無いほうがいい)が多いところなので気をつけましょう。
役員借入金が「プラス」だというのは、あくまで銀行融資においてです。役員借入金自体については、「マイナス」要素もあります。
万が一、社長が亡くなった場合には、役員借入金(社長から見れば貸付金)は相続財産として相続税の対象です。
また、会社から社長に渡したおカネ(給与)をふたたび会社に戻すのでは、負担した所得税や社会保険料がムダになる、との考え方もあります。これらのマイナス面も押さえておきましょう。
《対応》存在をアピールする
役員借入金があるのであれば、その存在をきちんと銀行に知ってもらわなければいけません。
たとえば、「短期借入金」という勘定科目のなかに役員借入金を混ぜていると、銀行は役員借入金の存在に気が付かないかもしれません。
すると、役員借入金はただの「負債」と見られてしまいますから。そのようなことがないように、しっかりアピールをしましょう。
具体的には、貸借対照表に「役員借入金」の勘定科目で明示することです。ちなみに、区分は「固定負債」で。
前述した「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」の「なお書き」には、こんなことが書かれていました(再掲) ↓
なお、代表者等が返済を要求することが明らかとなっている場合には、この限りではない。
つまり、すぐに返済するようであれば、役員借入金と言えども「やっぱり負債」だよね、ということです。
したがって。すぐに返済をするようなものではなく、「固定的・長期的に借りている」ということを示すのであれば「固定負債」に区分をすべきです。
繰り返しますが、社長からの借入金は、貸借対照表の固定負債に「役員借入金」として表示しましょう。
貸借対照表に計上されている役員借入金が、「前年よりも減っている」という場合。減った分の金額は「社長への給与みたいなものだろう」と銀行が考えることがあります。
社長への給与と考えれば「費用」なのですから、その分、損益計算書の利益を減額して見られることになります。結果として、評価が下がります。
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まとめ
「社長への貸付金・社長からの借入金」があると銀行融資はどうなるのか、についてお話をしてきました。
基本的には、社長への貸付金はマイナス、社長からの借入金はプラスの影響を与えます。
これらは銀行融資特有の考え方として押さえておきましょう。